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夏目漱石「行人」考察

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夏目漱石「行人」考察です。「行人」はスパイファミリーである?
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#夏目漱石

夏目漱石「行人」考察(39)「大抵の男は意気地なしね」は強がり



夏目漱石「行人」。主人公:長野二郎の嫂(兄嫁)である「直」。

二郎と二人きりで泊まることになった暴風雨の和歌山の夜。
どうも二郎が直に翻弄されているように見せかけているが、実は落ち付いているのではと思い始めた。

1、実は二郎は冷静?
暴風雨の夜、宿が停電する。それが一瞬直って明るくなり、と思ったらまた停電で暗くなる。

ここで「白粉(おしろい)」と「クリーム」との取違えはなんなのだろうか。

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夏目漱石「行人」考察(38)直と松本零士



夏目漱石「行人」。主人公:長野二郎を誘惑しまくる嫂(兄嫁):直。
前回に引き続き、直の誘惑をどしどし考察していこう。

前回は和歌山の「料理屋」までの話を書いた。

今回はそこから先、暴風雨で二人が元の宿に帰れなくなった以降の話。

1、宿泊もOK?

1(1)私「女」よ

和歌山の「料理屋」に二人でいる最中。暴風雨により戻れなくなったと店の下女から知らされる。
その際の反応

直はここで連続

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夏目漱石「行人」考察(37)直は「いとしこいし」である



大正元年(1912年)連載の夏目漱石の小説「行人」。
主人公:長野二郎の嫂(兄嫁)である「直」は、二郎に対して誘惑まがいの言動を繰り返している。

1、直の誘惑(まがい)1(1)愛嬌

まず、和歌山で二人で出掛ける場面

この時点で互いに共犯関係を確認するかのような会話をしている。

そして移動し、和歌山の料理屋(風呂があり浴衣の用意もある。ついでに古い梅もある)における二人の会話

この女性

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夏目漱石「行人」考察(36)「女景清」は長野父の脚色

夏目漱石「行人」中盤で長野父が語り出した「女景清」の話。
前回にふれた他にも、不自然な点があるのでそれを考えてみたい。

1、女の台詞が講談調

1(1)台詞

元々このエピソードは、「謡(うたい)」のために長野宅を貴族院議員と、ある会社の監査役が訪れて始まっている。
「謡」とは、能で声の芝居のみをし、舞や太鼓・笛はやらないことを意味するらしい。

そして盲目の女の台詞が、まさに能の台本のように、

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夏目漱石「行人」考察(35)女景清の話part1

夏目漱石「行人」考察(35)女景清の話part1


1、「女景清」の意味がわからない
夏目漱石「行人」の中で、長野父が語り出す「女景清」の話。

このエピソードの物語に占める意味が私にはわからない。現時点での思い付きを前に書いた。

この「女景清」の話は、「帰ってから」の十三~十九、手持ちの文庫本で19頁にも及ぶ。
そして以前にも挙げたが不自然な点がいくつもある

・長野父は自分の後輩の話としているが、あまりに詳細かつ多岐に渡りその男と相手の女と

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夏目漱石「行人」考察(34)お重はなぜ結婚できないのか

夏目漱石「行人」考察(34)お重はなぜ結婚できないのか



「行人」の主人公兼語り手:長野二郎の妹である「お重」。

物語途中から、お重の結婚相手を探している話が定期的にされているが、独身のまま話は終わる。お見合い等をした記述もない。

1、お重のプロフィール
二郎はお重について、顔も良く愛嬌もあるとしている。
体重はやや重く、年齢は二十歳頃と思われる。以下、それらの論拠を並べます。

綱(長野母)から言われていた三沢への縁談打診を二郎がしそびれた場面

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夏目漱石「行人」考察(33)Hと一郎は「モテない同士」

夏目漱石「行人」考察(33)Hと一郎は「モテない同士」



夏目漱石の大正元年(1912年)連載開始の小説「行人」
この中に「H」と記述される謎の男が出て来る。

1、登場の遅さ
「行人」において、Hの名が出て来るのは物語前半であるが、実際に登場するのはかなり後半である。

まず、精神病の「娘さん」について二郎と一郎とが、大阪から和歌の浦へ向かう汽車内で話している場面

これが「H」の名が始めて出る場面、全465頁中の119頁である。

しかし、H本人

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夏目漱石「行人」考察(32)一郎は前夫の子?

夏目漱石「行人」考察(32)一郎は前夫の子?



大正元年(1912年)連載開始の夏目漱石の小説「行人」

私がはじめて「行人」を読んだのは大昔のことであるが、今回で31回に渡るような考察をしたいと思ったきっかけは、「行人」が「スパイファミリー」(作:遠藤達哉・集英社連載)みたいだなと感じたことである。

そして今回、こう思った。

・長野一郎は、綱(長野母)の、前夫の子である

これについて考えてみたい。

1、一郎の出生
冒頭引用の記事で

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夏目漱石「行人」考察(31)「娘さん」と三沢は関係をもった?

夏目漱石「行人」考察(31)「娘さん」と三沢は関係をもった?


1、前提:二重伝聞

三沢の話では、芸者の「あの女」にそっくりだという、精神病の「娘さん」。
彼女に関する話は、語り手・二郎は全く目撃していない。
つまり「三沢から聞いた話を、『信頼できない語り手』二郎が書いて、第三者に見せる」という二重伝聞になっている。
信用性に疑問が残ることが前提だ。

2、「娘さん」のプロフィールー「K」の親戚?

上記のように二重伝聞ではあるが、「娘さん」は以下のような

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夏目漱石「行人」考察(30)三沢はわざと入院した?

夏目漱石「行人」考察(30)三沢はわざと入院した?



夏目漱石「行人」の主人公・長野二郎の友人「三沢」。

「行人」ではこの三沢に関連して、芸者の「あの女」と、精神病の「娘さん」という、二人の女が出て来る。

まず「あの女」について、考察したい。

1、「あの女」

大阪の芸者であり、三沢と同じ病院に入院する「あの女」。
二郎の描写で、「美しい若い女」(「友達」二十)である。しかし直球すぎる素直な表現だ。

1(1)三沢はわざと入院し、「あの女」

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夏目漱石「行人」考察(29)長野父は婿養子

夏目漱石「行人」考察(29)長野父は婿養子

大正元年(1912年)連載開始の夏目漱石の小説「行人」。
この小説の主人公・長野二郎の父親は、なぜか下の名が明かされないままである。
この「長野父」が、いわゆる婿養子であると推察した。
論拠は以下の2点である。

① 長野父の実家・親族に関する話が全く一つもない
② 妻であるお綱のほうが、お金を持っており実際に家庭内での権力も強い

これらについて、敷衍していきたい。

1、長野父の実家や親族の話

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夏目漱石「行人」考察(28)直は綱の親族

夏目漱石「行人」考察(28)直は綱の親族

夏目漱石「行人」、長野家に嫁いできた嫁である直。
私は前回の記事で、以下の推察をした。
・長野家よりも直の実家のほうが勢力が強い
・あるいは長野家が分家、直の実家がその本家

今回はそれに加えて、さらに次の推察をしたい。
・直と長野母(綱)とは、元々親族

1、不満が強いのに嫁いびりをしない姑・お綱1(1)綱の直への不満

一郎と直との夫婦関係が不仲・対立的であることについて、綱は直に向けての不満

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夏目漱石「行人」考察(27)直の実家は大金持ち?

夏目漱石「行人」考察(27)直の実家は大金持ち?

1、終盤になって示される実家
夏目漱石「行人」は、主人公・長野二郎と、その兄夫婦である長野一郎・お直との関係性を、主な軸として進行する物語である。

お直がいわゆる「ヒロイン」の立場であるが、物語中、直の「実家」については、途中まで何故か全くふれられていない。
終盤になって、急に出て来るのである。

「塵労」で、直が予告なしで二郎の下宿を訪ねた場面

手持ちの文庫本で全465頁中の、331頁目でよ

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夏目漱石「行人」考察(26)お貞と長野父

1、長野父もお貞が(まあまあ)好き
前の記事でもふれたように、「行人」に出てくる長野家の下女・お貞を、長野一郎は気に入っているし、二郎もからかって楽しんでる。

それに加えて、長野父(下の名は明かされていない)も、お貞のことを気に入っている。
以下論拠を述べる。

1(1)長野父がすぐにお貞・一郎を理解する

ある秋の日の、長野家の夕食、二郎がお貞をからかい、それを一郎がわざわざ直と比較してお貞を

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