アスカかぜ

夏目漱石や太宰治についての考察や評論を書いていきます

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最近の記事

夏目漱石「行人」考察(11) お兼とは何者なのか?A

「行人」序盤で、岡田の妻として登場する女性:お兼。 お兼について語り手である二郎は、なかなか強烈な表現をする。  ―― お兼さんは岡田に向かって、「あなたこの間から独で御得意なのね。二郎さんだって聞き飽きていらっしゃるわ。そんな事」と云いながら自分を見て「ねえ貴方」と詫まるように附加えた。自分はお兼さんの愛嬌のうちに、何処となく黒人(※くろうと)らしい媚を認めて、急に返事の調子を狂わせた。お兼さんは素知らぬ風をして岡田に話し掛けた。―― (「兄」一) (※ 著作権切れによ

    • 夏目漱石「行人」考察(10) 一郎の苦悩は「モテたいよ」

      1、一郎の苦悩に即座につっこむ二郎 「御前メレジスという人は知ってるか」 「名前だけは聞いています」 (略) 「その人の書翰の一つのうちに彼はこんな事を云っている。――自分は女の容貌に満足する人を見ると羨ましい。女の肉に満足する人を見ても羨ましい。自分はどうあっても女の霊というか魂というか、所謂スピリットを攫まなければ満足が出来ない。それだからどうしても自分には恋愛事件が起らない」 「メレジスって男は生涯独身で暮したんですかね」 (「兄」二十) (※ 著作権切れにより引用自

      • 夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(9) 芳江は誰の子?

        (写真は、新宿区立漱石山房記念館で購入したグッズを、私が撮影したものです。) https://soseki-museum.jp/ 1、一郎は子ができない? これまで散々、芳江は直と一郎の子ではない旨を書いてきた。 では誰のどういう子かというと、現時点での私の推測では、 「一郎がなんらかの事情で子づくりできないため、直側の親戚の子を、密かに養子にもらった。対外的には実子として育てている」 と勝手に思っている。 論拠としては、そう考えると辻褄があう事柄がいくつかあるから

        • 夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(8)―2 なぜか離婚されない直

          1、小姑にも堂々と喧嘩を売る嫁・直 前回の記事で、直があまりに堂々と夫・一郎との不仲を、家族や客に隠さずにいることを書いた。 さらに直は、小姑であるお重にも、堂々と喧嘩を売っている。 前にも引用したが 「おや今日はお菓子を頂かないで行くの」とお重が聞いた。芳江は其処に立ったまま、どうしたものだろうかと思案する様子に見えた。嫂は「おや芳江さん来ないの」とさも大人しやかに云って廊下の外へ出た。今まで躊躇していた芳江は、嫂の姿が見えなくなるや否や、急に意を決したものの如く、ばた

        夏目漱石「行人」考察(11) お兼とは何者なのか?A

        • 夏目漱石「行人」考察(10) 一郎の苦悩は「モテたいよ」

        • 夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(9) 芳江は誰の子?

        • 夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(8)―2 なぜか離婚されない直

          夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(8)―1 なぜか離婚されない直

          1、堂々と不仲をみせつける嫁・直 「あれだから本当に困るよ」と母が云った。 (略) 「―― 直の方から少しは機嫌の直るように仕向けて呉れなくっちゃ困るじゃないか。あれを御覧な、あれじゃまるで赤の他人が同なじ方角へ歩いて行くのと違やしないやね。なんぼ一郎だって直に傍へ寄って呉れるなと頼みやしまいし」  母は無言のまま離れて歩いている夫婦のうちで、唯嫂の方にばかり罪を着せたがった。これには多少自分にも同感な所もあった。 (「兄」十三) (※ 著作権切れにより引用自由です。)

          夏目漱石「行人」考察 芳江は直と一郎の子ではない?(8)―1 なぜか離婚されない直

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(7) 「一人っ子」確定

          1、二人目はいらない? これまで、芳江の存在自体にほとんど誰もふれない・語り手の二郎も想起しない不自然さについてふれてきた。 似たような話であるが、一郎・直夫妻について ・「そろそろ二番目の子は」~ との話が全く一度も語られない・語り手の二郎が内心での想起もしない またこれと重なるが ・一郎が長野家の長男であるにもかかわらず、「男の子も~」との話が全く一度も語られない。これも二郎も想起もしない これらの不自然さがある。 そしてこれについても私は、作者:夏目漱石が

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(7) 「一人っ子」確定

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(6) Hさんの手紙

          1、Hさんの手紙でも一切ふれられない娘・芳江 (1)「三十七」の家族話 「行人」は終盤、一郎の友人・「Hさん」から二郎に宛てた長い長い手紙で締めくくられる。 この手紙は「塵労」の二十八章の途中~最終五十二章まで続く。一郎とHさんが二人で旅行している最中にHさんが記したことになっている。 そして例によって、この計二十四章に渡る手紙で知らされる一郎とHとの会話の中で、一度も、ただの一度も芳江についてはふれられない。 お貞さんには色々とふれているのにである。 しかも「三十七

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(6) Hさんの手紙

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(5) 自宅で急に出て来る

          (画像は、新宿区立漱石山房記念館内の展示を私が撮影したものです) https://soseki-museum.jp/ 1、ようやく名前が示される「芳江」 繰り返すが、芳江の存在については大阪旅行中わずかに1回だけ、直とお兼との会話でふれられる。 ―― 最後に子供の話が出た。すると嫂の方が急に優勢になった。彼女はその小さい一人娘の平生を、さも興ありげに語った。―― (「兄」四) (※ 著作権切れにより引用自由です。) そしてこの一か所を除き、以降「兄」の五章~四十四章

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(5) 自宅で急に出て来る

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(4) みな自宅以外では芳江を想起しない・紀三井寺のベンチ

          (画像は新宿区立漱石山房記念館内の、無料公開箇所の展示を私が撮影したものです) https://soseki-museum.jp/ (夏目漱石は本名・金之助。養子先の塩原家から実家に引越しても戸籍はしばらく移せなかったので、若い頃は本名が「塩原金之助」 「塩原金之助」の卒業証書) 1、例によって存在にふれられない娘・芳江 「それでは打ち明けるが、実は直の節操を御前に試して貰いたいのだ」 (「兄」二十四) (※ 著作権切れにより引用自由です。) 一郎が弟・二郎に対し、妻

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(4) みな自宅以外では芳江を想起しない・紀三井寺のベンチ

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(3)―B みな自宅外では芳江を想起しない・和歌山の夜

          (画像は、新宿区立漱石山房記念館の展示物です。撮影は私) https://soseki-museum.jp/ 1、和歌山の夜でも想起されない娘・芳江 「行人」で前半部分にして最大のクライマックス、二郎と嫂(あによめ)・直とが二人きりで嵐の晩をすごす和歌山の夜である(「兄」二十七~三十九)。 その晩を含む大阪旅行全体で芳江の存在はたった一度しかふれられていない。それ自体不自然だが、この和歌山の夜において、二郎も、母であるはずの直も、全く一度も芳江の存在をふれず、想起した

          夏目漱石「行人」考察 芳江は一郎と直の子ではない?(3)―B みな自宅外では芳江を想起しない・和歌山の夜

          夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(2)―A みな自宅外では芳江を想起しない・大阪旅行編

          1、自宅の外では誰も芳江を思い出さない 一郎と直の間の娘・芳江 この芳江の存在だが、自宅を一歩出てしまうと家族の誰も、誰一人意識していないのである。 ・大阪での二郎と岡田の会話 ・大阪旅行中の一郎・直・母(綱) ・一郎が二郎に直の節操を試せと求めた時 ・和歌山の夜の直と二郎 ・一人暮らし以降の二郎 ・Hと旅行中の一郎 以上の状況において、芳江の存在にふれられたのは、ただの一か所のみである。以下説明 (1)二郎と岡田の「子どもと夫婦関係」の会話 まず序盤である「友達」の

          夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(2)―A みな自宅外では芳江を想起しない・大阪旅行編

          夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(1)

          1、両親の大阪旅行に芳江がついてきてない 一郎+直+母(お綱)の大阪旅行の不自然さは、わざわざ明記されている。 ―― 母と兄夫婦というからしてが妙な組合せであった。本来なら父と母と一所に来るとか、兄と嫂だけが連立って避暑に出掛るとか、もし又お貞さんの結婚問題が目的なら、当人の病気が癒るのを待って、母なり父なりが連れて来て、早く事を片付けてしまうとか、自然の予定は二通りも三通りもあった。それがこう変な形になって現れたのはどういう訳だか、自分には始めから呑み込めなかった。母は又

          夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(1)

          夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(概要)

          1、概要・大阪旅行になぜか芳江がついてきていない ・和歌山の夜で直も二郎も芳江の存在に全く一言もふれずに自殺の話 ・前後するが、一郎が直の節操を試せと二郎に求める場面でもふれられていない ・二郎の母(祖母)も誰も、旅行中、芳江の存在を気に留めていない(お兼と直の会話のみ) ・「帰ってから」でようやく名「芳江」が明かされる ・芳江が急に登場して、やたらと「嫂(あによめ)の血を~」と描写される ・(物語全般)長男の一郎に、男の子がいないことを作中で、誰一人ふれない・男

          夏目漱石「行人」 芳江は一郎と直の子ではない?(概要)

          夏目漱石「行人」は、SPY×FAMILY(スパイファミリー)である

          (掲題の画像はテレビアニメ公式サイトのものです。) ©遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会 1、夏目漱石「行人」は、SPY✖FAMILYである 「 SPY✖FAMILY 」(スパイファミリー)という漫画・アニメ作品がある(テレビ放送は令和4年(2022年)~。私がこの文を書いている時点(令和6年)でも連載中)。 冷戦時代の旧東ドイツをモデルにした架空の国。ある西ドイツ側(な国)から潜入しているスパイの男性と、主人公である幼い女の子、そしてある東ドイツ側の女

          夏目漱石「行人」は、SPY×FAMILY(スパイファミリー)である

          夏目漱石「三四郎」⑨ 女に征服された男(3)

          1、女より「偉く」なれない男 「―― 二十前後の同じ年の男女を二人並べてみろ。女の方が万事上手だわね。男は馬鹿にされるばかりだ。女だって、自分の軽蔑する男の所へ嫁に行く気は出ないやね。―― そういう点で君だの僕だのは、あの女の夫になる資格はないんだよ」 (略) 「そりゃ君だって、僕だって、あの女より遥かに偉いさ。御互にこれでも、なあ。けれども、もう五六年経たなくっちゃ、その偉さ加減が彼の女の眼に映って来ない。――」 (「十二」) 「―― 広田先生を見給へ、野々宮さんを見給へ

          夏目漱石「三四郎」⑨ 女に征服された男(3)

          夏目漱石「三四郎」⑧ 女に征服された男(2)

          1、「女」、「女」、「女」 小説「三四郎」はこう始まる  うとうととして目が覚めると女は何時の間にか、隣の爺さんと話を始めている。 (「一」) (※ 著作権切れにより引用自由です。) これは主人公・三四郎が上京する汽車の中の描写である。 「三四郎」はいきなり、主人公の「女」に対する目線・しかも盗み見のような視線から始まっている。 さらにここで「爺さん」は年齢と性別を含めた名称だが、女のほうは「女」と、完全に性別のみの分類で、三四郎もしくは語り手から呼ばれている。 前に

          夏目漱石「三四郎」⑧ 女に征服された男(2)