SHAKE ART!Vol.31掲載記事

 この記事は、関西の美大生によるアートプロデュース団体SHAKE ART!さんに普段の活動についてインタビューしていただき冊子に掲載いただいたものを転載・編集したものです。

SHAKE ART!さんは「若手作家の応援」をテーマに、フリーマガジンの発刊やアートフェスなどのイベント活動を行っておられます。掲載いただいた冊子は関西各地のお店などにテイクフリーとして置いていただいているみたいです。バラエティ溢れる内容になっているので、良ければ手に取ってご覧ください。

ここから下がインタビューしていただいた内容になります。
一部加筆修正しています。


「泉」2017年(727 × 910)キャンバス、油絵具

ー今、初期に作った作品を見返して思うことってありますか。

 とても独りよがりな作品だなと思いますね。高校時代に描いたこともあって拙さが目立っていると思いますが、自分の制作の原点にもなる愛着のある大事な作品です。展覧会や個展で作品を販売することもあるんですけど、この作品は手放したくないですね。

ー一輪挿しの絵、色がとても綺麗だと思います。

 ありがとうございます。「泉」というタイトルの作品です。当時の自分は、何もいけられていない空っぽな花瓶から何かが沸き立っているような空間を描きたかったのだと思います。

「大切なこと」 2021年(1167 × 727)キャンバス、油絵具

ーお気に入りの作品について教えていただきたいと思います。

 タイトルが「大切なこと」という作品で、画面中心にある石のようなものと空間の振動を描いています。自分が考えていることを絵具を塗り重ねて表現していくことも一つの表現方法だと思うんですけど、最小限の手数で表現できることもあるように思います。

自分の考えを大きな声で主張するのではなく、小さな声でも届く人に届いたら良いなと考えるようになった時に描いた作品です。画面を埋め尽くすのではなくて、余白を意識することで空間一帯が作品になることを目指したものです。

「花瓶のキャンバス展 2023」DM画像

ーターニングポイントになった作品について教えていただきたいです。

 ターニングポイントは二つあって、一つが「花瓶のキャンバス」という取り組みです。M0号サイズのキャンバスに私が簡素な一輪挿しを描き、色んな方に花を描いていただくものです。

アーティストは自分の声を相手に届けるための主張に意識が向きがちだと思っていて、「自分はこういったことを考えている」とか「こういったことが今は寂しいと感じていて、こういったことを観た人に届けたい」というのがスタートに多いと感じています。

でも、伝えたいことを相手に伝えるだけではなくて、それと同時に相手の考えや想像を引き受ける余白を持つことも大切なことだと私は考えています。声だけじゃなく耳の機能も作品に込めていきたいんです。

そう考えたことがきっかけで「花瓶のキャンバス」の取り組みを始めました。今は60人以上の方が参加してくださっていて、今年の6月末には2回目の「花瓶のキャンバス展」を同時代ギャラリーで開催します。

先ほど挙げた初期作品の「泉」は、絵の中に逃げ場所を作るように描いたものでしたが、自分の内側に矢印を向けるだけではなくて空っぽな虚無心を外側に向けていこうと考えたんです。

より積極的に他者性を意識するようになったという意味でターニングポイントですね。寂しさから始まったものが、今では他者に囲まれながら共にある状況がありがたいなと感じています。

2022年に開催した「花瓶のキャンバス展」の様子。
一輪挿しに描かれた合計60点近い作家の花が一つの空間に集った。

「花瓶のキャンバス展」
会期:2023年6月20日(火)〜7月2日(日)
   12:00-19:00(最終日は17:00)
会場:同時代ギャラリー、ギャラリーBis
主催:同時代ギャラリー、谷口雄基(アーティスト)

【現在、参加作家募集中】
下のリンクより詳細を確認いただき、応募フォームに必要事項を記入の上ご応募ください。
docs.google.com/forms/d/16HK-WWWYgRb8fL5m-loJwUSSa63i5kO-duPsqXKlqmQ/edit

 もう一つが「花瓶生物」という作品です。3Dプリンターで土偶や埴輪などの宗教物を中心に一輪挿しの機能を付加し、それに漆塗りや箔押しを施しています。

新工芸舎というデジタルファブリケーション(3Dプリンター、3Dスキャナーなど)を使って新しいものづくりをしている設計者集団がいて、その人たちと出会ったことがきっかけで制作するようになりました。立体作品を作るきっかけにもなったので転換期の一つです。

「花瓶生物・埴輪花瓶(馬)」2022年
「花瓶生物・土偶花瓶(遮光器)」2022年

ー最新作について教えていただきたいなと思います。

 大学の卒業制作展で展示した内容で、伝統文化や伝統工芸、日本美術に造詣が深い方々を中心にインタビューを行い記事の制作を行いました。記事の内容は今も個人のnoteからご覧いただけます。

「あなたは何者ですか」という質問を軸としながら、仕事や愛、お金や幸福といった人間にとって普遍的なものに対する見方や考えを伺ったものです。

設営中の様子、京都芸術大学公式twitterより拝借

「どうして私は生まれてきたんだろう」「なんで自分は愛されないんだろう」「なんで自分はものを作っているんだろう」といった問いは、誰しも無自覚に考えているものだと私は考えているのですが、それでも他人に自分のことを話したり聞くことは少ないと感じています。

そうした中で、昔から続く伝統文化や伝統工芸に携わっておられる方々を一つの枠組みとして設けてインタビューを行うことで、見えてくるものがないか探りたいと思いました。

自身の作家活動を「あなたが花で私は花瓶」と例えでよくいうんですけど、インタビューにおいてもインタビュイーが花で、私は言の葉をいけていただく花瓶であるという姿勢で行いました。

今までファインアートを中心に制作を行ってきた中で、ジャンルに囚われない表現方法にも挑戦していきたいと考えたことがインタビューに取り組んだきっかけの一つとしてあります。

展示室を一室もらい、インタビュイーのプロフィールを垂れ幕として展示

ーありがとうございます。今までいろんな人にインタビューしてきましたか?

 そうですね。卒業制作でインタビューしたのは大学の先生が多いんですけど、大学一回生の頃から大学四年生の半ばまで京都の伝統工芸の職人さんたちにインタビューをする活動を継続して行っていました。

ー作品作りのプロセスについて、アイデアのもととか、そのアイデアからどんなふうに形にしていっているのかを教えていただきたいです。

 初期作品の「泉」を描いた時はメンタルが不安定で、高校生活を楽しみつつも「この先どうやって生きていけばいいんだろう」と苦しさも裏側にあった時期でした。

静物画のモチーフとして偶然選んだ花瓶は、当時は意識してなかったんですけど中に何もない空っぽなモチーフだといえると思います。その空っぽの中に自分を入れるというのか、魂を入れるというのか、自分の逃げ場所を花瓶の中に見出して描いていました。

高校三年生の時に牛骨をモチーフとして描いた静物画もあって、牛骨も元々命が宿っていたものが抜けて殻になった空っぽなモチーフだといえると思います。それと自分を同化させるというのか、描いている最中に自分の魂を入れている感覚で描いていました。

「無常の上に置かれた今を」2018年(1303 × 1303)キャンバス、油絵具

何もないところに自分は価値を見出していて、そこに逃げ場所、魂の拠り所、安全地帯のようなものを多く描くようになっていきました。

例えば、図形も空っぽなモチーフだと思っていて、日本の国旗は真っ白な背景に赤い丸がぽつんとあるだけですが、それを見て平和の象徴だと思う人もいれば戦争のイメージを抱く人もいますよね。そうした意味で、図形は見る側のイマジネーションを引き受ける空っぽな器だといえると思います。

左:「空撮」2019年(1167×910)キャンバス、油絵具
右:「Hi」2019年(380×455)キャンバス、油絵具

先ほど紹介した「花瓶のキャンバス」も空っぽな一輪挿しに自分の友人や知人に花を描いてもらう他者性を引き受ける作品ですし、空っぽの運用性は制作以外にもいえると考えていて、私はギャラリーのアルバイトもやっているんですけど、作家さんを花と見立てて自分はギャラリーのスタッフ、いわば花瓶の役割を担っているわけです。

ー芸大を目指そうと思ったきっかけや理由はありますか

 高校は銅駝美術工芸高校に通っていて、洋画コースを専攻していました。そのため、元々絵をよく描いていましたが、絵以外の他の道も選択肢として持っておきたいと思うことが自然と増えてきたんです。

そこで、自分の表現の幅を広げたいと思ったことがきっかけで京都芸術大学の基礎美術コースに入学しました。日本の伝統文化や伝統工芸を学ぶコースで、能楽や陶芸、漆芸や茶道、漢詩など幅広く学ぶコースに学部の4年間在籍していました。

ーその中でも楽しかったことはありますか。
 
 京都に妙心寺というお寺がたくさん集まっているところがあるんですけど、そこに泊まらせていただいて実際に禅や瞑想の体験をしたことは今までにない新鮮な記憶として残っています。あと、いけ花の授業も印象に残っています。

いけ花と聞くと花を針に刺す剣山を思い浮かべる方が多いと思うんですけど、授業ではこみわらといって藁を干して束ねたものに花をいけていました。剣山は花が針に刺されて痛そうだなと私は思ってしまいますし、こみわらだとより自然に花がいけられるように感じました。

(※いけ花やこみわらに関しては、上の花士 珠寳さんにインタビューした記事より詳しくご覧いただけます)

ー初期の作品や、自分がアートに興味を持ったきっかけから今までを振り返った上で、今後の意気込みやこれから挑戦したいこととかがあれば教えていただきたいです。

 何度か口にしている「あなたが花で私は花瓶」ということにも重なるんですけど、空っぽの運用を通じて今後も他者とコミュニケーションを取っていきたいと考えています。

それに加えて、今は自分が表現したいものを表現するような個人の感情表現だけで終わっているように感じています。現代アートをする人は、自分が考えていることを美術史の流れやあらゆる状況などを汲んだうえで専門領域を突き詰め、問題を社会に提示していくことが役割の一つだと考えています。

今後は美術史の勉強をし直したり社会の状況にもアンテナを張りながら、他者と自己の関係性を考えるような作品制作を行っていきたいと考えています。


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SHAKE ART! さん、ありがとうございました。

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