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経営力=アート✖️クラフト✖️サイエンス

経営者は、企業の代表として何でもかんでも求められるのが現実ですが、「優れた経営者」を目指すために、どんな能力を磨けばよいのでしょうか?経営判断に必要な能力を集約すると、以下の3種類に大別できます。


クラフト力:

着実に業務を遂行する現場力
ものづくりであれば技術開発から調達、製造、配送の統制管理、サービス業であれば技術や接客サービスのノウハウなど、日々の業務の積重ねの中で蓄積される実務能力

アート力:

まだ誰も見たことのない未来を描き出す創造力
共感を呼ぶミッションやビジョン、コンセプトメイクを行い、従業員や顧客、パートナー企業を巻き込むカリスマ性

サイエンス力:

論理的に体系立てて考える分析力
市場環境や営業データから会社が置かれた状況を冷静に分析し、客観的な視点で勝算のある戦略方針を導く戦略構築能力

1つの能力に偏った経営判断がもたらすもの

この3つの能力のバランスの取れた経営判断が大切で、3つの内どの能力に偏っても、問題が生じます。例えば、

アート力偏重→実現性のない理想を語るナルシスト経営
クラフト力偏重→発展性・主体性のない下請経営
サイエンス力偏重→無味乾燥な近視眼経営

どこかで聞き覚えがありませんか?アート力偏重は創業者(特に社会的起業)に多く、クラフト力偏重は日本の中小製造業の課題として指摘されることが多いです。また、サイエンス力偏重は、MBA卒業生が企業幹部として重用されすぎた米国で問題視され、揺り戻しの流れで現在の欲望の資本主義批判、パーパス経営への注目、ビジネス界の哲学回帰に至っています。

1つの能力が欠落した経営判断がもたらすもの

では3つの能力の内2つの能力があればどうか?というと、それでも不十分です。

アート力欠如→イノベーションを生み出せない慎重経営
サイエンス力欠如→戦略なき盲目経営

こちらも両方聞き覚えがありますね?終身雇用制度を背景とした製造業の現場力を武器に世界で戦ってきた日本企業は、高いクラフト力を誇る一方、アート力やサイエンス力のバランスを欠いた経営になりやすく、イノベーションの停滞や戦略不在に陥りやすい傾向にあります。

とはいえ、私が思うに最悪なのはクラフト力欠如。起業段階で実務能力がなければそもそも事業として成立しませんが、既存事業に着任した経営チームにクラフト力がない場合、現実無視の上滑り経営か、最悪の場合組織破壊に至ります。ヒーロイックに掲げられた美しい理想に向かって組み上げられた戦略を一方的に現場に押しつける結果、現場は疲弊してモチベーションを失い、長期的に改善されないと人材流出、企業自体の競争力の低下を招いてしまうのです。

経営「チーム」でバランスの取れた経営判断を

この3つの能力は、一人でバランスを取る必要はありません。経営チームとして、最終的にバランスの取れた経営判断ができればそれでよいのです。
分析に基づく戦略構築という性質上、サイエンス力だけは外製化も可能であり、サイエンス力を補完する専門職が経営コンサルタントです。
一方、企業の競争力の源となるクラフト力や、企業の存在意義に関わるアート力は外製化が不可能です。特にアート力は、経営者自身が能力を磨いて、パーパスやミッション、ビジョン、バリューといった企業の精神的支柱を提示していくことが求められます。

他のタイプの能力を尊重する姿勢が大切

チームであるからには、お互いの持つ異なる能力を尊重することが重要です。過去の実績に基づく帰納的な論理構築を得意とするクラフト系人材、原理原則から推論を展開する演繹的な論理構築を得意とするサイエンス系人材は、各々議論すると非常に強力です。したがって、現状から飛躍して未来を創造しようとするアート系人材は、勝敗を決めるような論戦に持ち込まれると論破され、経営判断からアート的な要素が失われてしまいます
経営チームでは、クラフト系人材やサイエンス系人材が得意な白黒をつける二元論の議論に持ち込まず、自分たちはどういう未来を生きたいか、善いこと、美しいことは何か、という、正解も基準もない、哲学的な議論を重視し、積極的に参加していく歩み寄りが大切です

まとめ

一人で3つの能力をバランスよく備えた経営者を目指す必要はありません。ご自身の能力がアート力/クラフト力/サイエンス力のどのタイプかを考え、不足している部分に才能豊かな人を社内に取り込んで育成し、バランスの取れた経営判断ができる経営チームをつくりしましょう


参考文献:Henry Mintzberg「MBAが会社を滅ぼす」日経BP社

※本記事は、ヘンリー・ミンツバーグ教授の提唱する概念をベースにしていますが、ヘンリー・ミンツバーグ氏はアート要素は帰納的であると主張されているのに対し、本記事では、クラフト要素を帰納的であると考え、サイエンス要素とクラフト要素をともに論理に基づいた主張を行うもの、対して、アート要素は飛躍と選択を伴う主張を行うものとして再整理しています。

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