240203 エウゲニ・オネーギン(エフゲニー・オネーギン)@新国立劇場
かつて関東住みだった頃には、定期会員にもなっていた新国立劇場。
新国での観劇は8年ぶり、日本でオペラを観るのは2019年の松本以来、5年ぶり。
色んな思いをじわじわ噛み締めつつ、の鑑賞となりました。
2019年、コロナ直前の年は日本における「オネーギン」の当たり年でした。
8月に松本・セイジオザワフェスティバルでの「オネーギン」と、10月に新国立劇場で新演出の「オネーギン」
松本の方へは3公演全て通いましたけど、新国の方は、東京まで行く体力・気力が湧かなかった+最終日は確か、台風で公演がキャンセルになったかと記憶しています。
仲良くしてくださっているフォロワーさんたちの感想を読んだり、後にはコロナ禍での「巣篭もりシアター」として、ネット配信を見ることもできましたが、再演にあたる今回はキャストが前回よりも揃っていると思われ、8年ぶりに足を運んだ次第です。
何を見ても聞いても、そりゃ、5年前の松本での記憶が未だ生々しく。。。
おそらく、今後どんなに素晴らしい「オネーギン」の実演に巡り会えたとしても、あの時の記憶は私の視覚・聴覚・脳裏に深く刻まれていて、「聴き比べ」になってしまうと思います。
でも、それはそれ、これはこれで、日本でのオペラ実演鑑賞復帰戦としては充分、楽しむことができました。もし今でも首都圏に住んでたとしたら、おそらく二回以上は足を運んだであろう、せめてもう一度見てみたかった。。。と忸怩たる思いを抱いた公演でした。
色々突っ込みたくなるのは、まあ、かつては「ロシアもの普及委員会」とか「ロシアンシンガーを愛でようw」とかいう企画を立ててたくらい、ロシアものへの思い入れは強いゆえ。。。ということで、ご容赦いただければ幸いです。
タチヤーナを歌ったエカテリーナ・シウリーナは、そこそこ中堅どころのロシアのソプラノだと認識しています。もともとジルダやスザンナ等を歌っていた声そのものは依然ピュアなままで、儚さを感じましたが、それゆえに、この役にはどうしても細く感じてしまい。。。
タチヤーナは「揺れる女」ではあれども、芯の強さ(最後、オネーギンにどんなに言い寄られても突っぱねるだけの意志の強さ)は兼ね備えていると思うので
それを表現できる音色とは、強靭で鋭い声を大前提とした上で仄かな暗さと鋭さ、適度な重さ・・・が必要だと思うのですよ。
そこの基本が不足しているので、どうしても物足りなさを感じた次第です。
そして体型はかなり残念なことになっていて💧
バストのすぐ下で切り替えになっている衣装も良くないのでしょうけど、オリガとオネーギンが(オペラ歌手としては桁違いに)スリムな分、彼女の丸さ(と顔の大きさ)が際立って
「月のように顔の丸いオリガ」は「・・・いや逆だろ!!」と突っ込みたくなってしまって。。。
(誰もそんな失礼なこと書いてないね・・・ごめんね)
あと身長もそんなに高くないので、無駄に高身長のオネーギン(ごめん💧)との絡みは視覚的にかなり無理がありました。
跪いたオネーギンがタチヤーナの肩ぐらいまであるので、普通に立って抱き合うと、オネーギンが子供を抱きしめているみたいになっちゃうのは。。。
そして、タチヤーナは最後のオネーギンとの応酬場面では、寝巻きのような、というか、ネグリジェとかスリップ姿ではなく、絶対に毅然とドレスを纏っていて欲しいの!!!!!
まして、舞踏会での赤いドレスを脱ぎ捨てて自ら寝巻き姿になるのはどうなの?!って、思っちゃいましたが、これは演出の意向ですので仕方ないですね…
タイトルロールのオネーギンのユーリ・ユルチュク。
今回、理想的なオネーギン(の容姿)って言うご意見、多かったですねえ。
それこそ多分、バレエのオネーギンならアレはアリかなって言うくらい、すらっとした人だったけど、歌手としてのオネーギンに求めるものとは違うなあ…(辛辣でごめんよ)
今回、高身長だったことを高評価している聴き手が多かったようですが、私はあれが特にプラスに働いたとは思えませんでした。
嘗てペーター・マッティがオネーギンをやった時の映像を見た時にも感じたんですが、オネーギンは180センチ台前半ぐらいで留めるべきです!
確かに長身痩躯、イケメンだけど、なんつうのか、重心が定まらない感があって。(なので個人的には無駄にイケメン&長身、っておもっちゃった)
(まあ低い分にはシークレットブーツとかでなんとかなるけど、高いのを縮めることはできないから、本人の責任じゃないんですが)
歌も悪くはないけど、率直に言って印象が薄く・・;
声も澄んだバリトンで美声なんだけど、オネーギンに必要なアク(悪じゃないよ)とか、押し出しが薄く・・・
オネーギンって、単にイケメン&イケボじゃ、何かが「足りない」んだよねえ。
そしてこの役は、多少不器用でも硬い声の方が良い。
この人でなければだめ!!というほどのカリスマ性、特徴ある声ではないので、
いっそ(2019年松本で大活躍だった)日本人でこの役を立派に歌いこなせるバリトン・大西宇宙氏に活躍の場を与えたらどうだったの?!と感じた次第です。
オリガのアンナ・ゴリャチョーワは多くの方々が言及なさっていたように、あのフリルブリブリの衣装はちょっと。。。でしたけど、低音が往年のロシアのメゾ・エレーナ・ザレンバ女史並によく響いて◎
レンスキーのヴィクトル・アンティペンコは、イタリアオペラみたいな大声テノール、という印象しかない。。。(ごめん、こちらも辛辣で)
レンスキーのアリアって、あんなに有名なんだけど、いわゆる「人の声」で心を持って行かれた記憶がなく。。。
今まで耳にしたレンスキーのアリアで、一番ストンと気持ちに入ってきたのは、ミッシャ・マイスキーのチェロでの演奏だったりしてw
旋律としてはほんっと、綺麗だな〜〜って思うんですけどね。
レンスキーって、望んだわけでもないのに、自ら死へ突き進む悲しさに酔っているおバカな若造。。。というイメージなので、割と日本人には、潜在的にわかりやすいキャラだと思うんですけどね(特攻隊ちっくというか)
旋律が美しい故に、イタリアオペラのように歌い上げるtenorが多いんですが(松本の時もそうだった。。。)もう少し淡々と歌った方が、悲しみがよりダイレクトに伝わる気がするんですけどね。
難しい…
で。
みんな大好き⁈グレーミン公爵。たった一曲歌うだけなのに、歌い方によっては場を持っていっちゃう、役得というべきか、ある意味「ズル〜〜〜い!」役です。
ウクライナ・オデッサ出身アレクサンドル・ツィムバリュクは
(2019年松本オネーギンで皆の心を鷲掴みにした)私のご贔屓アレクサンドル・ヴィノグラードフと同い年で、ロンドンのエージェントAskonas Holtでも一緒だし
(ただしヴィノグラードフは近年、イタリアのMelos Operaでの仕事の方が多い)
レパートリーも被るので、一度自分の耳で聞いてみたかった。
図らずも、日本で、二人が同じ役を歌ってくれることになるとはラッキーでした。
バスとして立派な声と強靭なブレスコントロール&音域の広さをもちながらも、響きが高いが故にキワモノ扱いされ気味のヴィノグラードフよりかは、典型的スラブ系バス声というか、サビの効いた美声には、聞き惚れました。
ちょいと往年の名バス・ニコライ・ギャウロフっぽい響きも感じられた・・・かな。
それに軍服が良く似合う。ちょっと演技過剰な気がするのは、この演出だから仕方ないのでしょうけど、登場した時にオネーギンの背後から「だーれだ?!」な仕草でオネーギンの背後から目隠しをしちゃうのはご愛嬌。
実際、彼がグレーミンを歌うことは、私を8年ぶりに新国立劇場へ足を運ばせた大きな要因の一つなので、今回来日してくださったことには本当に感謝してます。
オペラって、時に「人の声の圧」に煽られてうるっとくることがありますが、合唱も活躍するこの作品に於いては、久しぶりの新国立劇場合唱団に、涙腺を刺激されました。特に2幕の、オネーギンとレンスキーの諍いに、合いの手のように入る合唱には、グッとくるものがありました。
今回、ダンスはバレエ団に任せればいいのに・・・という感想も散見しましたが、私はむしろ「日本人の合唱団でも、これだけ自然に動けるようになったんだ!」と、好意的に受け止めました。
とまあ、細かいことは突けば色々あるんだけど、総じて楽しめました。
ご贔屓さんの追っかけから離れて、自分が心から好きな演目を心許せる友人と鑑賞する。。。ってのが、一番楽しかったりするもんです。
もし関東に住んでたら、二回以上行っただろーなー、と思う公演。
今回客入りも盛況で(ほぼ満席に近い状態の新国なんて、嘗て経験したことないかも^^;;;;)
若い女性も多かったし、なんだかんだで「オネーギン」は人気演目で、みんな好きなんだな・・・っていう、肌感覚がつかめました。
あとは、まあ。
チャイコフスキーが通俗的、故に「オネーギン」も通俗的(色んな意味でわかりやすい作品だと思う)だから、他のロシアもの(例えば「ボリス・ゴドゥノフ」とか)と比べたら
「ナーンか、ちょっとねw」的なスノッブさんにも声を大にして言いたい。
斜に構えてないで素直に「私もオネーギン、大好き!」って言えばいいのに(笑)
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チャイコフスキー「エウゲニ・オネーギン」@新国立劇場オペラパレス(2024年2月3日・千秋楽)
【演 出】ドミトリー・ベルトマン
【指 揮】ヴァレンティン・ウリューピン
【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団
【タチヤーナ】エカテリーナ・シウリーナ
【オネーギン】ユーリ・ユルチュク
【レンスキー】ヴィクトル・アンティペンコ
【オリガ】アンナ・ゴリャチョーワ
【グレーミン公爵】アレクサンドル・ツィムバリュク
【ラーリナ】郷家暁子
【フィリッピエヴナ】橋爪ゆか
【ザレツキー】ヴィタリ・ユシュマノフ
【トリケ】升島唯博
【隊 長】成田眞
Eugene Onegin
Music by Pyotr Tchaikovsky
Opera in 3 Acts
Sung in Russian with English and Japanese surtitles
Conductor: Valentin URYUPIN
Production: Dmitry BERTMAN
Set Design: Igor NEZHNY
Costume Design: Tatiana TULUBIEVA
Lighting Design: Denis ENYUKOV
Choreographer: Edvald SMIRNOV
CAST
Tatyana: Ekaterina SIURINA
Eugene (Yevgeny) Onegin: Yuriy YURCHUK
Vladimir Lensky: Viktor ANTIPENKO
Olga: Anna GORYACHOVA
Prince Gremin: Alexander TSYMBALYUK
Madama Larina: GOKE Akiko
Filipyevna: HASHIZUME Yuka
Zaretsky: Vitaly YUSHMANOV
Monsieur Triquet: MASUJIMA Tadahiro
Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra