宇都木昭

専門は言語学、音声学、韓国語。ときどき専門外の多文化社会やインターナショナルスクールや…

宇都木昭

専門は言語学、音声学、韓国語。ときどき専門外の多文化社会やインターナショナルスクールや、子育てしながら思ったいろいろなことなども書きます。 https://sites.google.com/site/utsakr/

最近の記事

「教授ではなく先生と呼んで」をめぐる日韓対照言語学

「教授」に対する違和感大学の教員になって十年以上が経つが、最近気になることがある。それは、学生からよく「教授」と呼ばれることだ。特にメールに多い。例えばこんな具合だ。 オノマトペだったら同じ大学のA先生のところに行くべきじゃないかというツッコミはさておき(A先生、新書大賞おめでとうございます!)、気になるのは「教授」と呼ばれていることだ。ポイントは二つあって、一つには「私は教授じゃなくて准教授なのに・・・」ということ(最近教授に昇進したのだけど、准教授の頃から「宇都木教授」

    • 私は「言語学な人」なのだろうか:韓国語音声学から出発した一研究者のアイデンティティ

      この記事は、アドベントカレンダー「言語学な人々」の3日目の記事として執筆している。 アドベントカレンダーといえば、我が家はこの冬にチョコレートの入ったアドベントカレンダーを買ってきた。紙箱には24の窓があり、毎日1か所を開けると、そこにはチョコレートが入っている。うちの子どもたちはこういうのが大好きだ。 「言語学な人々」もこれと同じだ。毎日一人ずつ「言語学な人」が登場する。 1日目は松浦さんだ。言語学関連の数々の学会の委員をこなし、その上このアドベントカレンダーを毎年企

      • インターナショナルプリスクールに子どもを入れたいと思ったときに知っておくべきこと

        インターナショナルプリスクール(インタープリ)が増えている。英語ネイティブの先生たちが教える幼稚園だ。街で見かけて興味を持つ人はけっこういるかもしれない。試しにと思って見学に行って、先生の質問に英語で答える子どもたちの姿に驚き、ますます興味を持つかもしれない。そしてインタープリの校長先生からの説得力ある説明を受け、多少お金はかかっても、インタープリに是非入れたい、いや、入れないと自分の子にきちんとした英語は身につけさせられないと思うかもしれない。 でも、インタープリに子ども

        • 子連れ学会出張をしていた頃

          一週間ほど前、東洋経済ONLINEに「母親の「子連れ出張」に理解が及ばない日本の現実」という記事が出た。「子の出張帯同費用の支給」に関する東大の総長裁定や日本進化学会第25回沖縄大会の子連れ発表セッションが紹介されていて、自分が子連れで学会出張していた頃を思い出した。 そういうわけでここから先は私自身の話。 なぜ子連れで学会に行くのかうちの子どもたちは、2013年生まれと2015年生まれの二人だ。コロナ禍の前は二人とも幼稚園生だった。私も妻もフルタイムの大学教員で、専門分

        「教授ではなく先生と呼んで」をめぐる日韓対照言語学

          韓国語教員からみた第二外国語の現在

          私は専任教員として韓国語(うちの大学では「朝鮮・韓国語」と呼ぶ)を教えている。学部・大学院で専門の授業も教えつつ、大学全体の(教養科目の一部を成す)第二外国語(うちの大学では「初修外国語」と呼ぶ)としての韓国語の授業も担当するというかたちだ。 教員目線からの第二外国語の話、特に最近の動向を書こうと思ったのは、それが今後第二外国語の大学教員になろうとする人たちの参考になるかもしれないと思ったからだ。ただし最初に断っておくと、事情は大学によっても言語によっても異なる。私がこれか

          韓国語教員からみた第二外国語の現在

          週末は子どもと一緒に図書館に(後編):子どものために本を選ぶコツ

          目指す方向性この記事は、読書と図書館に関する前編の続きである。 前編では、うちの子どもたちの日本語力の向上のために、読書が大切だと思い立ったことを書いた。そして、読書と言語能力に関する研究をいくつか紹介した。 研究をふまえて目指すべき方向性は、『読書と言語能力』の中で猪原氏が述べている以下の点に集約されると思う。 「本人の言語水準に合わせた本」というのは、知らない単語が多少含まれているぐらいが理想的である。文脈からの類推で、語彙を増やしていくことができる。難しすぎるとこ

          週末は子どもと一緒に図書館に(後編):子どものために本を選ぶコツ

          週末は子どもと一緒に図書館に(前編):読書と日本語力

          はじめに私は週末に、子どもたちと車で図書館に行く。行く途中では騒がしかった子どもたちが、図書館からの帰り道には静かに本を読み始める。読書記録アプリによれば、娘は昨年1年間に343冊の本を読んでいる。 実のところ、これは子どもたちがもっと小さかった頃からずっと続けてきたことではなく、ここ2年ぐらいのことだ。その前は、図書館にあまり足を運ばない時期があった。 前編と後編に分けて書く今回の一連の記事は、図書館に通う私たちの日常、および、その背景としての読書と日本語力/国語力との

          週末は子どもと一緒に図書館に(前編):読書と日本語力

          悩み多きマルチリンガル子育ての記録

          「家では何語で喋るんですか?」私たち家族がよく受ける質問の一つに、「家では何語で喋るんですか?」というのがある。しかし、この質問に答えるのはけっこう難しい。我が家には三つの言語(日本語・韓国語・英語)が混在しているし、そのバランスは絶えず変化してきたからだ。 私と妻は韓国で出会った。私の韓国留学中のことだった。私は韓国語を留学前から長く勉強していたし、妻は当時日本語を全く知らなかったので、出会ったばかりの頃には韓国語のみで会話していた。今では妻は日本語がずいぶん上手くなった

          悩み多きマルチリンガル子育ての記録

          YouTubeの中のTAたち ―音声学の授業から―

          ※この文章は名古屋大学生協『かけはし』(教職員・院生版生協だより)2022年7・8月号への寄稿を転載したものです。 2020年春、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、大学の中は混乱していた。4月からの授業をどうするかという問題である。当初、3月ごろ、名古屋大学の方針は、部分的にオンライン授業を取り入れようというものだった。3月下旬にはオンライン授業の講習会がZoomで開催された。4月になると、全面オンライン授業に方針転換。オンデマンドとかリアルタイムとか、ZoomとかNU

          YouTubeの中のTAたち ―音声学の授業から―

          多文化社会の申し子たちの居場所としてのインターナショナルスクール

          プロローグその日の朝はいつもより早かった。私たちは6時前に起き、朝食を食べると、7時ちょっと前に家を出た。1月だったので外はまだ薄暗く、ちょうど日が出るか出ないかというところだった。車で数分走って、大通りの近くに車を停めた。KFCやファミリーマートが並ぶその大通りは私たちが普段から車でよく通る道だったが、こんなに早い時間に来たのは初めてだった。数分すると、その場所には他の親子が集まってきた。見た感じで判断する限り、欧米系の親子もいれば、アジア系の親子もいれば、日本人の親子もい

          多文化社会の申し子たちの居場所としてのインターナショナルスクール

          韓国語は声調言語になったのか?

          はじめに話の前提として、まず二つ。 1.現代韓国語の多くの方言は、アクセントによって単語の意味が区別されることがないと言われてきた。日本語の共通語では、「雨」と「飴」はピッチ(高さ)で区別されるが、このようなことがないということだ。「現代韓国語の多くの方言」と書いたのは、中世の韓国語(いわゆる「中期朝鮮語」)や「雨」「飴」に似た特徴があったと言われており、また現代の慶尚道方言にもあるからだ。ともかく、ソウルの人々を含め、韓国の多くの人々の言葉には、日本語のアクセントに類する

          韓国語は声調言語になったのか?

          IPAへの複雑な想い

          以下は松浦年男さんが企画した「言語学な人々」というアドベントカレンダーの記事として書いたものです。 ------ 私は音声学者であり、大学で音声学を教えている。私は音声学を教えるのが好きだ。 音声学の授業の中心はIPAだ。たぶんどこの大学でも言語学の授業で音声学を習うときにIPAを多かれ少なかれ習うと思うけれど、この記事の読者の中には専門的な言語学・音声学に全く触れたことのない人もいるかもしれないので説明しておくと、IPAとはInternational Phonetic

          IPAへの複雑な想い