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インターナショナルプリスクールに子どもを入れたいと思ったときに知っておくべきこと

インターナショナルプリスクール(インタープリ)が増えている。英語ネイティブの先生たちが教える幼稚園だ。街で見かけて興味を持つ人はけっこういるかもしれない。試しにと思って見学に行って、先生の質問に英語で答える子どもたちの姿に驚き、ますます興味を持つかもしれない。そしてインタープリの校長先生からの説得力ある説明を受け、多少お金はかかっても、インタープリに是非入れたい、いや、入れないと自分の子にきちんとした英語は身につけさせられないと思うかもしれない。

でも、インタープリに子どもを入れる前に、もうちょっと情報を知っておいたほうがよいと、経験者としては思う。

我が家は子どもたちをインタープリに通わせた。私自身は、子どもを通わせる前は、インタープリに対する、そしてバイリンガルに対する認識の解像度があまり高くなかったと思う。それは身近にインタープリに子どもを通わせる親がいなかったからなのだが、もしそういう親が身近にいて話を聞けたらよかったのにと思う。そんなわけで、この文章を書いている。

最初に断っておくと、ここから書く話は基本的に自分の経験と周囲から見聞きした話にもとづいている。インタープリも多様なので、うちの子を通わせたインタープリ以外のスクールにどれほど当てはまるかはわからない。また、私は言語を研究する者であるが、言語研究はとても広く、英語教育やバイリンガリズムは私の専門分野ではない。

・・・という言い訳をしたうえで、ここから話を進めたい。


どれくらい出来るようになるのか

バイリンガルやインタープリに関して、世間によくあるイメージを言葉にまとめると、こんな感じだろうか。

「世の中にはモノリンガルとバイリンガルがいる。適切な環境さえ整えば、誰でもバイリンガルになることができる。日本語モノリンガルの子たちは英語ができないが、日英バイリンガルの子たちは英語がペラペラだ。そして、日英バイリンガルにするための環境の一つにインタープリがある。」

実際にはそれほど単純ではない。確かにインタープリに通う子たちの多くは、インタープリという環境の中で自然に英語を習得していく。全く英語に接していない子たちに比べれば、間違いなく英語はできる。ただ、英語が「できない」と「ペラペラ」の間には無限の中間段階があって、連続体を成している。そのどこに位置するかについて、インタープリの子たちにはかなり個人差がある。

個々の子たちの英語のレベルには、私の印象では、インタープリで過ごす時間が影響していると思う。うちの子の通ったインタープリには延長保育があった。延長保育をしなければ午後早い時間に帰るが、延長保育を利用すればかなり遅くまで園で過ごすことになる。延長保育を利用している子たちのほうが英語ができる傾向にあるように見えた。

これは応用言語学的にも納得がいく話ではある。言語の習得には良質のインプットの量が重要だと言われている。園で過ごす時間が長ければ長いほど、英語のインプットの量は多くなる。しかも、うちの子の通ったインタープリでは、延長保育の時間が遅くなればなるほど子どもが少なくなるので、ネイティブの先生と直接コミュニケーションをする機会が増す傾向にあった。通常レッスンの時間には、一人のネイティブの先生に対して大勢の(大半は日本語を母語とする)園児たちがいるので、個々の子どもたちがネイティブの先生と直接コミュニケーションする機会は限定的であったと思う。

小学校に入ったら忘れるらしい

インタープリに通わせ、親同士の仲がよくなるにつれて、いろいろと情報が入ってくる。親によっては、今通っている子のほかにも上の子がいたりする。そして、上の子もかつてはインタープリに通わせていたりする。そんな先輩ママさんが、衝撃的な話を教えてくれることがある。

「プリに通っていたころはけっこう英語しゃべってたのにね、小学校に上がったら全部忘れちゃったみたい。」

これは専門用語でいうところの、「第二言語喪失」(L2 attrition)という現象だ。親の仕事の関係で英語圏に行き、そこで英語をかなり習得した子どもが、日本に帰国後に英語をすっかり忘れてしまうという話は、よく耳にする。一般に、こういう英語圏からの帰国子女の子たちよりもインタープリの子たちのほうが英語のレベルは低いので、帰国子女よりももっとあっけなく英語は忘れてしまうだろうことは、想像に難くない。

ともかく、そんな先輩ママさんからの話を聞いた他の親たちは、対策を考えることになる。小学校に上がったら英語の塾に通わせようとか(インタープリ出身者を対象とするコースを設けている塾もある。これがけっこう高い)、自宅でオンライン教材をやらせようとか、英語の動画を見せようとか、英語の本を読ませようとか。(それらの効果のほどについては、何か言えるほどの経験や専門知識を私は持っていない。)

確実に効果があると言えるのは、小学校以降もインターナショナルスクールに通わせることだ。ただ、そうなると、いつまでインターナショナルスクールに通わせるかという悩みが出てくる。小学校の途中から公立に移るか、高校卒業までずっとインターナショナルスクールで通すか・・・。また、子どもの国語力の問題もある。インタープリのうちは子どもの日本語力にはあまり影響はないだろうが、小学校以降もインターナショナルスクールに通うとなると、普通の小学校に通う同年代の子どもたちよりも国語力が落ちる(例えば、ちょっと難しい言葉は知らないとか、漢字が苦手だとか)ことは、ほとんど避けられないと思う。(後から挽回することはできるかもしれないが。)もっと現実的な悩みとしては、授業料が高い。一般に、インタープリよりも小学校以降のインターナショナルスクールのほうがお金がかかる。

ちなみに、インターナショナルスクールについては、以前に記事を書いた。(ただし、英語教育の観点からではなく、多文化社会の観点から。)

ところで、小学校に入って英語をすっかり忘れてしまっても、頭の奥のほうのどこかには残っていて、後で改めて英語を学ぶときにアドバンテージになるということが、もしかしたらあるかもしれない・・・と、何の根拠もなく思ったりもするが、実際のところよくわからない。ただ、自分の子どもがインタープリに通い、その後小学校で英語をすっかり忘れてしまったという親は、そういう希望を持っていたほうが精神衛生上は良いと思う。

インタープリの多くは認可外保育施設である

英語教育の話からは外れるが、インタープリの多くが認可外保育施設だということも押さえておいたほうがいい。認可外ということは、そこで働いている先生たちには保育士や幼稚園教諭の資格が必要とされていないということだ。先生たちの多くは、子どもを扱う専門家だからではなく、英語のネイティブであったり英語の上手な日本人だったりという理由で、インタープリに雇われている。多くの場合、英語教育の専門家というわけでもないと思う。

先生たちは(私が見てきた限り)みな良い方たちだ。園児たちのことを常に考えてくれている。自らも子どもがいたり、あるいは子どもがいなくてもインタープリでの経験を通じて子どもたちに多く接したりということで、子どもの扱いには慣れている。

ただ、認可保育園や幼稚園で働いている保育士や幼稚園教諭の資格を持つ人たちは、資格をとるために学校で専門的な勉強をしてきている。その専門性は決して侮ることができないと思う。インタープリではない普通の保育園や幼稚園のメリットを挙げるとするならば、この点にある。

認可外であることは、園の経営にも影響を与えているのだろう。インタープリの費用は、認可保育園・幼稚園と比べて高い(ただし、最近は幼保無償化制度のもと、利用者は一定の条件が整った場合にある程度の補助を自治体からもらうことができる)。かといって、先生たちの労働条件はさほど良いように見えない。先生・スタッフの給料の低さは、インターネットで求人情報を調べてみればわかる。先生たちの入れ替わりの激しさの理由の一つは、ここにあるのではないかと思う。

もっとも、学費が高いわりにスタッフの給料が低いことの理由は、認可外だというだけではないようにも思える。利用者からみると、あの高い学費はどこに行ってしまったのだろうと思う。2023年6月ごろに、東京都港区のインタープリが突如閉鎖になり、そのスクールの呆れた実態が話題になった。そこまで不誠実な経営者は稀だと思うし、私自身はうちの子を通わせたインタープリの校長先生はそれなりに信頼しているのだけれども、認可外であるということは国や自治体の目がほとんど届かないということであるので、園が信頼できそうなところであるかは利用者自身がよく検討した方がよいと思う。

実はたいしてインターナショナルでもない

インタープリは「インターナショナル」という名前を掲げている。インターナショナルというのは、日本語でいえば「国際的」だ。国と国との際、つまり複数の国にまたがっているということだ。

うちの子が通っていたインタープリは、英語圏の様々な国出身の先生たちが働いていた。その点ではインターナショナルだったかもしれない。子どもたちに関しては、大半(9割ぐらい?)は両親が日本人という家庭環境の子どもたちだった。

うちの子はインタープリに1歳から入り、同じインタープリのキンダー(幼稚園)コースに年少から入った。

キンダーコースの入園式。親子ともいつもと違う衣装に身を包み、期待と緊張が入り混じった表情で園に足を踏み入れる。そこからキンダーの生活がスタートする。園には様々なイベントがある。例えば、芋ほり遠足とか(私も公立の幼稚園生のとき、芋ほり遠足に行った)。発表会に力を入れていて、練習は数か月にわたる。うちの子たちは、この発表会の様子を収めたDVD(有料)を今でもときどきDVDラックから出してきて楽しく見ている。準備に時間を重ねるのは運動会も同じで(こちらは1か月ほど練習を重ねただろうか)、当日はダンスやソーラン節をビシッと披露し、親たちを感動させる。

給食は残さず食べるように指導される。レッスン中は英語しか使ってはいけない。(だから子供たちは、友達に日本語で話しかけるときには、耳元でこっそりささやく。先生に見つからないように。)

通わせていた当時はあまり気がつかなかったのだが、その後の小学校段階で)別のインターナショナルスクールに子どもたちを通わせるようになって、それ以前に通わせていたインタープリが如何に日本的だったかに気づかされた。(ただし、これはインタープリによってもけっこう違うのだろうとも思う。)

もちろん、そうは言っても、英語圏出身の先生たちがいたり、日本人の先生・スタッフも海外経験を持っていたりするので、普通の幼稚園・保育園とは異なる文化がインタープリにはあったと思う。インターナショナルと日本的の中間的な文化といえばよいのかもしれない。

普通の日本の幼稚園に通った私にとってはインタープリの様々な(日本的に見える)やり方にあまり違和感がなかったし、多くの父母もそう感じていたのではないかと思う。一方で、少数の海外出身の親の中には、カルチャーショックを感じた人もいただろう。

もちろん、これが良いとか悪いとかいう話ではない。ただ、「インターナショナル」から想像されるイメージとはちょっと違うという感じがしたというだけだ。同様の幼稚園を韓国では「英語幼稚園」といったりするが、この呼び方の方がしっくりくる。

そもそも英語学習は早い方がいいのか

さて、改めて英語の話に戻そう。インタープリに子どもを通わせる親の中には、英語学習は早ければ早いほど良いと考えている人が多いかもしれない。実際、そのような話は世間に広く流布している。しかし本当にそうなのだろうか。

これについては、『英語学習は早いほど良いのか』という、そのものズバリの本がある。専門家によって書かれた本で、とてもおすすめである。

この本が言わんとすることのポイントは、「一概に早ければよいともいえない」ということと、「そもそも調べるのがとても難しい」ということだ。

調べるのが難しく、分かっていないことが多いというポイントを押さえたうえで、さらに重要な点の一つとして、領域ごとの違いがある。つまり、発音、文法、語彙など、言語能力の側面ごとの違いだ。例えば、早いうちに英語に接したほうがネイティブっぽい発音の習得において有利だとしても(実際には、それほど単純な話でもないようだが)、語彙の習得に関しては遅い段階で英語に接した子どものほうが有利だということがありうる(これも単純ではない)。学問的には本当に複雑でわからないことが多いので、一概には言えない。ただ、専門家ではない私たちにとっての教訓は、英語の発音が上手なインタープリの子を見ても、「やっぱり英語を習得するには早い方がいいんだ」という単純な結論はくださないほうがいいというだ。

もう一つこの本で書かれていることの中で重要な点は、インプットの量の重要性だ。英語習得の開始年齢の効果はよくわからないことが多いが、インプットの量に効果があることは、ほぼ間違いないだろう。つまり、英語を習得するにはたくさん英語に接したほうが良いということだ。これが何を意味するかというと、中学生とか高校生とか大学生とか、あるいはもっと後になってからでも、英語にたくさん接する機会を持てるならば、英語をきちんと身に着けるチャンスは十分にあるということだ。

おわりに

インタープリに関して、良い面もネガティブな面もあるよという文章を書こうと思っていたのだが、書いてみるとネガティブなことばかり書いてしまった気がする。

ただ、一方で、良いと感じる面も、人それぞれにあるだろう。例えば、小さいうちから外国人の先生たちと触れ合う機会が持てたことは、ポジティブに評価する人が多いかもしれない。どの点を良かったと感じるかは、親の価値観や子どもの個性ともかかわることで、おそらく様々なのだろうとと思う。

私自身はどう思っているかというと、うちの子どもたちをインタープリに通わせたことは、(通わせ始めたころには想定していなかったのだが)その先の道につながる重要なステップだったと思っている。インタープリに通わせたおかげでその後のインターナショナルスクールに子どもたちが難なく溶け込めたし、多文化的な背景を持つうちの子たちを通わせる場として、今のインターナショナルスクールに満足している。もちろんこれは、我が家の特殊な事情とかかわっている。

事情はそれぞれの家庭で違っていて、どの家庭もそれぞれに特殊であると思う。正解があるわけではなく、しっかりと情報を得たうえで、各家庭なりの選択をすればよいと思う。

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