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じゃんけんぽいっ!

認知症がある、同居の姑さん、お花さんの話。
認知症の人って、見えないものが見えたり、見えているはずのものが目に入らなかったりします。お花さんは、鏡に映った自分が、自分ではなくて他の誰かに見えるようです。

お花さん、おトイレの回数が増えてきて、落ち着かないとトイレへ行ったり、来たりの繰り返しです。トイレから帰ってくると、すぐにトイレに行きます。家の中をよく歩いています。
おトイレの前に、洗面所があります。そこの鏡に映った自分に話しかけるようになりました。

「あなたの名前は?」
「私?私はお花っていうの」
「えっ、あなたもお花って言うの!」
「偶然ねぇ、一緒の名前!!」
「そんなことあるのぉ!」
「あなたの誕生日は?」
「私は、3月10日」
「えっ、あなたもそうなの?」
「信じられなぁい」
「もしかして、私たちって双子なのかしら…」

という感じ、何ともかわいらしい姿です。鏡のお花さん(ミラーお花さん)に向かって、笑顔で話しかけています。
そこで、私がのぞくと、「(覗かれているから嫌だわ)トイレ行こう!」っとトイレに入ります。
そして、出てくると・・・また鏡の前で
「あなたの名前は?」
「私?私はお花っていうの」
「えっ、あなたもお花って言うの!」
「偶然ねぇ、一緒の名前!!」
が始まります。
その繰り返し。ずっと話が続いています。
住所を聞いては「同じやね」
お父さんやお母さんの名前も「同じやね」っと。
とても楽しそうに話しかけています。

そのころは、お花さん、少し怒りっぽくなっていました。
どうしても家族の中では、「〇〇やったらダメ」「〇〇やった?」的な言葉が多くなってしまい、自分でどうしたらいいのか不安が増えてきた時期かと思います。
できないことや伝わらないことが増えてきていて、ついつい家族も苛立ちが出てしまいます。
だんだん言葉の理解が乏しくなって、迷いが出て来たり、何やるにしても指示されないとできなくなってきて、お花さんも自信がなくなってきたのだと思います。
出来ない、わからないことで、苛立ちがあるのでしょうね。

そんなころ、ミラーお花さんに出会い、自分と似ている人がいて、笑顔で話しかけてくれて、自分が理解できる言葉(自分で言っている言葉なので…)で答えてくれて。(?答えは返ってきていないけど、お花さんには返事が聞こえているのですよね、かなり耳が遠いのだけど、笑)
それも双子のように、同じ境遇で、偶然なことばかり。こんな偶然はあるのぉっていう喜びいっぱいです。
ミラーお花さんに、笑顔で話しかけている姿は、どんどん増えていきました。
お花さんにとって、一番心安らぐ人となっていきます。

ミラーお花さんに向かって、
「じゃんけんポン!」
「あいこでしょ」っと。
「私たち、気が合うのねぇ、やっぱり双子なんじゃないの?」っと。
嬉しそうに、話しかけています。

気が合う仲間がいる安心感なんでしょうね。
誰かが見ていることを気づくと、
「アッチ行こう!」
と、ミラーお花さんと一緒に(?)リビングに戻ります。

そんな状態が続いたのですが、だんだん、鏡がなくても、ミラーお花さんとお話するようになりました。
一人で座っていても(鏡の前でなくても)、
「あなたの名前は?」
「私?私はお花っていうの」
「えっ、あなたもお花って言うの!」と。
ベットで寝ていても、寝るまで楽しそうに話しかけています。

幻覚、幻聴、独語・・・
私たちには見えない・聞こえないものがある、どんどん一人の世界に入っていきました。

ある日、
孫「おばあちゃん、おまんじゅう食べる?」と聞くと。
お花さん「食べるわ、この人にもあげてね!」
と見えないミラーお花さんにも、おまんじゅうをあげてほしいことを言ったそうです。
孫は、なんて答えたらいいのか??
「う、うん、そうね…おまんじゅうは1個しかないの!ごめんね。おばあちゃんの分だけね」
そうそう、上手です。否定せずに、受けとめて。傾聴、傾聴。


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