全学授業オンライン化で「ユーザー目線の大切さ」を痛感
nodesの光明
全学授業オンライン化で「ユーザー目線の大切さ」を痛感
我々、情報メディア教育研究部門は、教員が授業の課題や資料を配布したりテストをしたりできる「学習管理システム(ITC-LMS)」の提供や「教育用計算機システム(ECCS)」の運用などをやっています。授業ではかなりの台数の端末が必要になりますが、各授業で同じ環境が必要となるため、全学に1500台程度の端末を設置しています。他にもGoogle社のGoogle Workspace for Educationのアカウント提供、Webサイトのホスティングサービスの提供なども行っています。
昨年のコロナ禍が始まった時期、東大は2020年3月18日に「全部の授業をスケジュール通りオンラインでやります」と声明を出しました。世間的には「1ヶ月ずらすのが現実的だ」などの話がありましたが、本学では学事暦を遅らせずにやることになりました。実は、私たちはその前から準備をしていて、田浦センター長が中心となり、いろいろな情報を一元的に閲覧できる「utelecon」というポータルサイト(https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/)を作っていました。従来は授業の出席を紙に書くなどして実施している授業もありましたが、オンライン授業では実施できないためLMSの機能を使うことを大前提に全部組み上げていく必要があったわけです。
すぐには動かないプログラムを担当教員総出で精査
ITC-LMS自体は以前からサービスを提供していました。コロナ禍以前は全体の1/5程度の科目でしか利用されていませんでしたが、コロナ禍では東大全体で学生・教職員を合わせて数万人の利用が想定されたので、それに耐えられるようにするというが最初の課題でした。4月6日が教養前期課程の授業開始日で最初のピーク。それに備えて3月頭から現LMSを納入・運用しているキヤノンITソリューソンズ(以下キヤノン)さんと打ち合わせを重ねて「同時接続1万人」に耐えられるように対応していきました。
近頃ではこのようなシステムはマイクロサービスアーキテクチャという方法を採用し、クラウド上で機能ごとに独立して作り、ネットワークで結んで互いにデータをやり取りします。そうすれば各機能のメンテナンス性が向上し、アクセス数が増えた場合、各機能のインスタンスを増やしていけば、システムの負荷を分散でき、急激なアクセスの増加にも柔軟に対応することができます。ITC-LMSもクラウド上で実装されるマイクロサービスアーキテクチャを採用していました。そのため、インスタンスとリソースを増やせばアクセス負荷の増加に柔軟に対応できるはずでした。しかし、実際に授業が始まると負荷を分散できず、その結果、利用者の皆様はITC-LMSが重い、アクセスできないという状態に陥ってしまいました。問題の原因を突き止めるために、一つ一つのプログラムを精査していく作業が必要になりました。そこでキヤノンさんからITC-LMSのソースコードを公開してもらいました。それをプロジェクトに関わる教員全員で、各種ログと突き合わせて、修正する作業を繰り返しました。その結果、5月中旬ごろには安定して稼働するようになりました。
アンケートを取って、日々、ユーザビリティを向上
ITC-LMSが多くのユーザに使われ始めると「こういう機能がほしい」などの要望が出てくるようになったので、2020年7月にアンケートを取り、優先順位をつけてユーザビリティを改良しました。2021年もアンケートで2,400名の方から回答をいただき、順次優先度の高いものから改良改善をしています。
コロナ禍のオンラインシステム拡充の過程で、マニュアルをいろいろ用意しても、ユーザが増えるとそれだけでは伝えきれないことを知りました。同じシステムでも人によって使い方が違うので、通り一遍のマニュアルだけでは分からない人が出てくるんですね。これはシステムが使われないと気づかなかったことで、「ユーザ目線に立つことの大切さ」を痛感しました。コロナ禍はまだしばらく続きそうですから、今後も技術面やユーザビリティに関して学んで行こうと思っています。
岡田和也/専門はコンピュータネットワーク。2014年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。2016年より情報基盤センター情報メディア教育研究部門助教。2022年より同特任助教。
深く学ぶには
教育機関のデジタル化の取り組みを後押しする国立情報学研究所の「教育機関DXシンポ」はコロナ禍の初期から継続して開催されている。