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30秒ごとに更新する「ゲリラ豪雨予測システム」を開発

飛翔するnodes

世界中でさまざまな分野の研究者がスーパーコンピュータを用いた研究活動を行っています。ここでは、気象とブラックホールという 2つの大きな自然現象の解明に、どのようにスーパーコンピュータが用いられているのかを見てみましょう。

30秒ごとに更新する「ゲリラ豪雨予測システム」を開発

三好建正(理化学研究所計算科学センターチームリーダー)

これまでの天気予報システムではゲリラ豪雨を正確に予測することが困難でした。
 まず、ゲリラ豪雨を「観る」ことができないと予測ができません。従来のレーダは「5分毎」の気象データを測定できます。パラパラ漫画のように連続させて未来の形を予測するのですが、突発的に成長するゲリラ豪雨の予測には、5分では間隔が長すぎます。最新の「フェーズドアレイ気象レーダ」は従来の100倍のデータを一度に取得できて、「30秒毎」に取得できるようになりました。このデータを使うことでゲリラ豪雨を「観る」ことができるようになりました。
 次に、予測手法。連続のデータを比較して、「左から右に動いてきたものはそのまま右に動き続けるだろう、こうやって動いてきたからそのまま動き続けるだろう」と予測しています。従来、予測ができるのは「10分後」まででした。しかし、ゲリラ豪雨はわずか5分で変化してしまうので、予測が難しいわけです。そこで、我々は大気の中で起こることを物理的に詳細にシミュレーションする方法を用いて「30分後」まで予測できる方法を開発しました。

現場で見えているものをコンピュータの中に作り出す

 たとえば、雲ができるプロセスですが……水蒸気が冷やされて水に変わる。すると雲粒ができる。そして雲粒同士がぶつかって大きくなっていく。マイクロメートルサイズの雲粒がミリメートルサイズになってきます。そうすると重くなって落ちてくるんですけど、それに打ち勝つぐらいの上昇気流があると落ちてくるはずの雨粒が巻き上げられてさらに大きくなります。上空で停滞して、くっついてさらに大きくなってとても大きい粒になると落ちてきます。ゲリラ豪雨を思い浮かべてみると、厚い雲が黒っぽく見えます。雨粒が大きすぎて光が通りにくいから黒く見えるんですね。
 こういった過程をどうやってシミュレーションするかというと、新しいフェーズドアレイ気象レーダの30秒ごとの雨粒のデータをつなぎ合わせることで、「実際の現場で見えているもの」をコンピュータの中に作り出します。この際、雨粒以外の湿度や、気温、気圧など、いろいろな気象データをシミュレーションします。これによりコンピュータが未来に向かってどんどん計算していきます。そして、実際観測されるデータと突き合わせながら30秒毎に30分後までの予測をリアルタイムで配信します。予測結果は現在検証中ですが今のところよい結果が出ています。
 実はこのシステムを最初に作った時にはこの30秒毎のデータを1つ取り込むのに京コンピュータを使っても約1時間かかったので、予測にはまだまだ使えませんでした。そこで行なったのは、まずプログラムの効率の悪いところを一つ一つ探していく「チューニング」という作業です。約1時間をなんとか約10分まで高速化できました。ところが、最初は簡単に速くなるのですが、徐々にチューニングの精度が上がってくると、手間に対してあまり速くならなくなってきます。
 そこで次に工夫したのが、ソフトウェア同士のデータの受け渡しの部分です。元々「データを読み込んでシミュレーションするソフトウェア」と「観測データと突き合わせるソフトウェア」は違うソフトウェアでした。シミュレーションしたら結果を出力して、データを渡してやる必要があったんです。大容量のデータなので時間がかかっていました。そこで、くっつけてひとつのソフトウェアにしました。そうなるとデータをメモリ上で参照するだけで受け渡しをできるので、大幅に高速化することができました。また、通常、精度の高い科学技術計算を行う場合は64bitの実数を使うというのが当たり前でした。これを32bitの実数にしたことでメモリの容量が半分ですみ、さらに単純に倍速で計算ができるようになりました。大きな違いですね。ここで問題になるのが精度の問題ですが、本当に精度が落ちてしまう計算はほんの一部だということがわかったので、32bitでも問題なかったのです。

世界でも群を抜いた高精度予測を実現

 我々はOakforest-PACSを用いてこのような工夫を行い、「30分後の気象を30秒ごとに新しいデータを取り込んで予測する手法」を開発し、ゲリラ豪雨の発生を事前に高精度で予測できるようになりました。これは世界でも群を抜いた「予測」です。現在はスマートフォンのアプリとして雨雲の予測が見られるようになっています。しかし問題は予測した後。society5.0とよく言われますが、バーチャルとリアルの融合という意味で「予測をどのように社会に生かしていくのか」という点が大切です。急に激しい雨が降ることに対して影響を受ける人間活動はいろいろありますから、その行動のプライオリティを作っていくことにもテクノロジーを活かす。そして、プライオリティごとに「もっとこんな天気予報があれば嬉しい」という声がユーザから出てくるのが理想的な関係ですね。

三好建正/専門は気象データ同化。京都大学理学部卒業、気象庁に入庁後米国メリーランド大学に留学、博士号(Ph. D. in Meteorology)取得。気象庁予報部、メリーランド大学助教授を経て2013年より現職。

深く学ぶには
「30秒ごとに更新するゲリラ豪雨予報」プレスリリース

東京大学情報基盤センター nodes vol.1 CONTENTS
創刊にあたって
[特集] いま、スーパーコンピュータでCOVID-19に立ち向かう
  スパコンで薬剤の効果を探る
  見えない飛沫を可視化する
[連載] nodesの光明
  全学授業オンライン化で「ユーザー目線の大切さ」を痛感
[連載] 飛翔するnodes
  30秒ごとに更新する「ゲリラ豪雨予測システム」を開発
  「冬眠するブラックホール」の実態を解明
nodesのひろがり
  動物の鳴き声の変化を可視化
  真の教育とは何か
  野生動物にセンサーを装着
  センターの研究をバズらせるために
編集後記
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