見出し画像


おまえが何も
言わないから
私は冬が来ると
冷えた頬に
爪を立てて
忘れかけていた
名前を呼ぶけれど
声はひとつひとつ
空に攫われて
やがて真っ白な
結晶になって
舞い降りて来る

部屋の中で
椅子に腰掛けて
空気の襞を
じっと見つめる
視野を漂う
血管の細切れの幻
脊柱の後ろを
蟻が這うような
感覚を
引き剥がして
氷の壁に
投げつける

たそがれる
窓に張り付いていた
遠いむかしの
おまえの声の
残響が
だんだん
干からびて
縮んでいって
雪の夜空に
攫われて行くのを
手をこまねいて
ただ 
見送るだけの






この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?