ウスバカゲソウ

一歩進んで moonwalk 月旅行

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記事一覧

禍話リライト「ボウコ」【怪談手帖】

20代のAさんが、社会人になってから何年かぶりで実家に帰省した時の話。 「仕事でいろいろあって…ちょっとだけ逃げたくなったんです……」 両親との会話もほどほどに…

禍話リライト「川案山子」【怪談手帖】

諸事情で実家との縁を切って久しいというDさんは、ほんの数年前までひどく捨て鉢な生活をしていた。 そんな時代の彼が、安さだけが取り柄のような、とある川沿いの集合住…

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禍話リライト「朧猿(おぼろざる)」【怪談手帖】

「少年自然の家」ではなかったはずだという。 当時Eさんの所属していた子ども会では、前年度まで合宿で使用していた施設が老朽化による建て直しのため借りられなくなった…

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禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

Bさんという男性の方から頂いた体験談である。 彼は10代のころ、家族や教師と折り合いが悪く、事あるごとに学校をサボったり家を飛び出したりしていた。 そんな時によ…

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禍話リライト「梟の部屋」

それは、インターネット黎明期に噂された、ある動画の名前だという。 90年代末ごろ、「梟(フクロウ)の部屋」という動画がヤバいらしい、との噂が一部のネット掲示板で…

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禍話リライト「大首の家」【怪談手帖】

「今でもまだ怖いんだよ、ずっと。考える度にドツボに嵌る気がして…本当は考えない方がいいんだろうけど……」 話者であるAさんは、今の職業や年齢については明示しない…

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禍話リライト「箒神」【怪談手帖】

「長っ尻って言うんでしたっけ?ほら、なかなか帰らないお客さんのこと」 Aさんは、彼女曰く”空想のタバコ”を挟み込んだ痩せた指先で、トントンと絶え間なく机を叩きな…

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禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

某登山口でふた昔ほど前に噂されていたという話。 宵の口、山の傍から降りてくる人影として、山伏のようなものが現れることがあったという。 本物の山伏、所謂修験者とい…

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禍話リライト「古いテレビ」【怪談手帖〈未満〉】

「私はそのころ、今もそうかも知れませんが、とにかく物知らずで愚鈍な子でした……」 現在イラスト関係の仕事をされているAさんの幼少期の記憶は、彼女が云うには「灰色…

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禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

ある日の夕方、Iさんは運動がてら家の近所からもう少し足を延ばして目的地もなく散歩していた。 涼しくなった風に秋の訪れを感じつつ、足元ばかりを見てあれこれと考え事を…

禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

Cさんの旅先での体験。 シャッター通りと化した商店街を散策していると、土産物屋が一件だけ開いていた。 通り過ぎる時、子どもの泣き声がしてきたので思わず店の中を覗く…

108

禍話リライト「とおりゃんせ降ろし」

禍話リスナーであるAさんの体験談。 小学生のころ、誰から聞いたのか憶えていないが 神社に向かって「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌うとお化けが”降りてくる” そ…

禍話リライト「となりのおんな」【甘味さん譚】

「結局、一番怖いのは生きてる人間なんだよね」 聞き捨てならない話だが、実際そう思っている人は少なくない。 所謂ヒトコワである。 一番怖いかどうかは人によると思うの…

禍話リライト「埋女(うずめ)」【怪談手帖】

体験者Aさんが、「性別を明かさないで欲しい」という条件と共に、『怪談手帖』の綴り手である余寒さんへ語った体験談。 「私自身はそれを体験してもいないし見てもいない…

禍話リライト「ムジッテ」【怪談手帖】

「どっちかっていうと、今でもあの辺りじゃ不審者扱いなんですけど」 とは、この話をしてくれたAさんの弁である。 今は関東の大学に通っている彼女、郷里は東北にあるのだ…

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禍話リライト「ボウコ」【怪談手帖】

禍話リライト「ボウコ」【怪談手帖】

20代のAさんが、社会人になってから何年かぶりで実家に帰省した時の話。

「仕事でいろいろあって…ちょっとだけ逃げたくなったんです……」

両親との会話もほどほどに、シャワーだけを済ませ自分の部屋のベッドへと倒れこんだ。
ずっと拭えない全身の倦怠感と、頭に纏わりつくモヤモヤとした感覚。

「体力には自信あったんですけどね、ずっと運動部だったし」

社会で必要なのは、体力だけではなかった。
同僚や上

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禍話リライト「川案山子」【怪談手帖】

禍話リライト「川案山子」【怪談手帖】

諸事情で実家との縁を切って久しいというDさんは、ほんの数年前までひどく捨て鉢な生活をしていた。
そんな時代の彼が、安さだけが取り柄のような、とある川沿いの集合住宅に住んでいた頃のことだ。

深夜に起きた仲間内の厄介事からようやくの思いで抜け出した彼は、隣の区から歩きとおして夜明け前に家へ帰ってきた。
心身ともに擦り切れて、道路横の欄干に肘を掛ける。
帰宅前に一息つきながら、彼はその川を眺めていた。

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禍話リライト「朧猿(おぼろざる)」【怪談手帖】

禍話リライト「朧猿(おぼろざる)」【怪談手帖】

「少年自然の家」ではなかったはずだという。

当時Eさんの所属していた子ども会では、前年度まで合宿で使用していた施設が老朽化による建て直しのため借りられなくなったため、その年からの新たな宿泊先を検討していた。
その時に、会員の一人が人伝に探してきてくれたのが、”K”という施設だった。
あまり新しくはないものの、去年までの場所に比べると非常に安価で利用できる、という点が決め手だったそうだ。

「その

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禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

Bさんという男性の方から頂いた体験談である。

彼は10代のころ、家族や教師と折り合いが悪く、事あるごとに学校をサボったり家を飛び出したりしていた。
そんな時によく逃げ込んでいたのが、隣町の低い山の中ほどにある、父方の親戚の家だったのだという。
「〇〇(地名)の叔父さん、叔母さん」と呼んではいたが、父の兄弟という訳ではなく、どちらかといえば祖父母に歳の近い遠縁の老夫婦だった。
彼らは所謂”本家”と

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禍話リライト「梟の部屋」

禍話リライト「梟の部屋」

それは、インターネット黎明期に噂された、ある動画の名前だという。

90年代末ごろ、「梟(フクロウ)の部屋」という動画がヤバいらしい、との噂が一部のネット掲示板で囁かれていた。
しかし、たびたび貼られるリンクはブラクラや違法サイトに繋がる悪戯ばかりで、実際どのような動画なのか詳細は不明のまま、噂だけが一人歩きしていた。
ただ一点、中年の女性が出てくるらしい、ということだけは知られていた。
それは、

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禍話リライト「大首の家」【怪談手帖】

禍話リライト「大首の家」【怪談手帖】

「今でもまだ怖いんだよ、ずっと。考える度にドツボに嵌る気がして…本当は考えない方がいいんだろうけど……」

話者であるAさんは、今の職業や年齢については明示しないで欲しいと言ってこの話を切り出した。
彼が大学生の頃、曰くつきの家で目撃してしまったモノの話。

それは地元では有名な、とある事件の舞台となった一戸建てだった。
報道ではぼかされていたものの、被害者である女性が異様な状態で見つかったという

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禍話リライト「箒神」【怪談手帖】

禍話リライト「箒神」【怪談手帖】

「長っ尻って言うんでしたっけ?ほら、なかなか帰らないお客さんのこと」

Aさんは、彼女曰く”空想のタバコ”を挟み込んだ痩せた指先で、トントンと絶え間なく机を叩きながら言った。

「そういう迷惑なお客をさ、箒で追い払う御呪いってあるでしょ?」

「”逆さ箒”、ですね」

箒を逆さまに襖や壁に立てかけて、手拭いを掛けるなどして長居する客の退散を願う。
古い俗信のなかでは、豆知識の類として知っている人も

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禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

某登山口でふた昔ほど前に噂されていたという話。

宵の口、山の傍から降りてくる人影として、山伏のようなものが現れることがあったという。
本物の山伏、所謂修験者というわけではない。
それは、下ってくる人影の姿かたちを見れば分かる。
装いこそ、一般的に連想される伝統的な修験者の様子なのだが、その顔を見ただけで宗教に詳しくない登山者や若い人にもそれが異様な存在であることが分かるという。

輪郭の内側の真

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禍話リライト「古いテレビ」【怪談手帖〈未満〉】

禍話リライト「古いテレビ」【怪談手帖〈未満〉】

「私はそのころ、今もそうかも知れませんが、とにかく物知らずで愚鈍な子でした……」

現在イラスト関係の仕事をされているAさんの幼少期の記憶は、彼女が云うには「灰色の記憶」であるという。
物心もつかぬうちに病気で母親を亡くし、父子家庭で過ごしたAさんだったが、小学校に入ってほどなく父親も事故でこの世を去った。
その後は親戚の家に引き取られ、そこからようやく彼女の日々は人並みの色づきかたをするようにな

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禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

ある日の夕方、Iさんは運動がてら家の近所からもう少し足を延ばして目的地もなく散歩していた。
涼しくなった風に秋の訪れを感じつつ、足元ばかりを見てあれこれと考え事をしていたせいだろうか。
ふと気が付くと、大通りから離れて普段通らない道に入り込んでいた。
人通りは無い。隣町に近い、住宅と空地の点在する一画である。
日も暮れつつある中、秋らしい虫の声だけが聴こえてきて、物寂しさを掻き立てられる。

(そ

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禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

Cさんの旅先での体験。
シャッター通りと化した商店街を散策していると、土産物屋が一件だけ開いていた。
通り過ぎる時、子どもの泣き声がしてきたので思わず店の中を覗くと、入ってすぐのところに小学生くらいの男の子がいて、半泣きの顔で店の壁を見上げて

「お父さん…お父さん…」

と繰り返している。
父親らしき人は見当たらない。
迷子かな、と思いつつその子の視線を追う。
ペナントやキーホルダーが並ぶなか、

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禍話リライト「とおりゃんせ降ろし」

禍話リライト「とおりゃんせ降ろし」

禍話リスナーであるAさんの体験談。

小学生のころ、誰から聞いたのか憶えていないが

神社に向かって「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌うとお化けが”降りてくる”

そんな噂が流れたことがあった。
興味を持ったAさんは試してみることにした。

下校途中にある、なんの変哲もない神社。
Aさんはそこの社に向かって「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌い始めた。
すると、確かに何かが近づいてきている感覚がある

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禍話リライト「となりのおんな」【甘味さん譚】

禍話リライト「となりのおんな」【甘味さん譚】

「結局、一番怖いのは生きてる人間なんだよね」
聞き捨てならない話だが、実際そう思っている人は少なくない。
所謂ヒトコワである。
一番怖いかどうかは人によると思うのだが、私たちの周囲には確かに怖い人たちが蠢いている。
その恐怖は誰でも身近に感じられる、というのがヒトコワの醍醐味だ。

禍話の準レギュラーである、廃墟マニアの甘味さん。
その甘味さんが体験したという”ヒトコワ”。
そのきっかけは、些細な

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禍話リライト「埋女(うずめ)」【怪談手帖】

禍話リライト「埋女(うずめ)」【怪談手帖】

体験者Aさんが、「性別を明かさないで欲しい」という条件と共に、『怪談手帖』の綴り手である余寒さんへ語った体験談。

「私自身はそれを体験してもいないし見てもいないんですよ。
だから、私にとってこれはただの”噂”なんです」

Aさんはあらかじめそのように断ってから話を始めた。
Aさんが子供のころ、周囲のごく狭い範囲で「女のお化け」が噂になったことがあった。
噂が流布した当時は、あの口裂け女が社会現象

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禍話リライト「ムジッテ」【怪談手帖】

禍話リライト「ムジッテ」【怪談手帖】

「どっちかっていうと、今でもあの辺りじゃ不審者扱いなんですけど」
とは、この話をしてくれたAさんの弁である。
今は関東の大学に通っている彼女、郷里は東北にあるのだが、住んでいた地域でおかしな人物が目撃されているのだという。

「地域、というかうちの町を含む、ごくごく狭いエリアで。
あのへん、長い道とか坂が多くて」

そこを歩いていると、行く先向こうの道の遠い角から、男が覗く。
壁から出した首をグッ

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