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一歩進んで moonwalk 月旅行

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最近の記事

禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

Bさんという男性の方から頂いた体験談である。 彼は10代のころ、家族や教師と折り合いが悪く、事あるごとに学校をサボったり家を飛び出したりしていた。 そんな時によく逃げ込んでいたのが、隣町の低い山の中ほどにある、父方の親戚の家だったのだという。 「〇〇(地名)の叔父さん、叔母さん」と呼んではいたが、父の兄弟という訳ではなく、どちらかといえば祖父母に歳の近い遠縁の老夫婦だった。 彼らは所謂”本家”とはあまり関係が良くなかったようで、親戚の集まりなどにも顔を出すことなく、隠遁じみ

    • 禍話リライト「梟の部屋」

      それは、インターネット黎明期に噂された、ある動画の名前だという。 90年代末ごろ、「梟(フクロウ)の部屋」という動画がヤバいらしい、との噂が一部のネット掲示板で囁かれていた。 しかし、たびたび貼られるリンクはブラクラや違法サイトに繋がる悪戯ばかりで、実際どのような動画なのか詳細は不明のまま、噂だけが一人歩きしていた。 ただ一点、中年の女性が出てくるらしい、ということだけは知られていた。 それは、どこにでもいそうな、例えば近所のスーパーや公園で見かけるような、普遍的でありふれ

      • 禍話リライト「大首の家」【怪談手帖】

        「今でもまだ怖いんだよ、ずっと。考える度にドツボに嵌る気がして…本当は考えない方がいいんだろうけど……」 話者であるAさんは、今の職業や年齢については明示しないで欲しいと言ってこの話を切り出した。 彼が大学生の頃、曰くつきの家で目撃してしまったモノの話。 それは地元では有名な、とある事件の舞台となった一戸建てだった。 報道ではぼかされていたものの、被害者である女性が異様な状態で見つかったというのが半ば公然となっており、それでいてどういう状態だったのかについてはてんでばらば

        • 禍話リライト「箒神」【怪談手帖】

          「長っ尻って言うんでしたっけ?ほら、なかなか帰らないお客さんのこと」 Aさんは、彼女曰く”空想のタバコ”を挟み込んだ痩せた指先で、トントンと絶え間なく机を叩きながら言った。 「そういう迷惑なお客をさ、箒で追い払う御呪いってあるでしょ?」 「”逆さ箒”、ですね」 箒を逆さまに襖や壁に立てかけて、手拭いを掛けるなどして長居する客の退散を願う。 古い俗信のなかでは、豆知識の類として知っている人も少なくないだろう。 彼女は僕の言葉に頷きながら、トトン、と指先のリズムを狂わせて

        禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

          禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

          某登山口でふた昔ほど前に噂されていたという話。 宵の口、山の傍から降りてくる人影として、山伏のようなものが現れることがあったという。 本物の山伏、所謂修験者というわけではない。 それは、下ってくる人影の姿かたちを見れば分かる。 装いこそ、一般的に連想される伝統的な修験者の様子なのだが、その顔を見ただけで宗教に詳しくない登山者や若い人にもそれが異様な存在であることが分かるという。 輪郭の内側の真っ黒な顔の形にヌラヌラと煌めく幾つもの光点と、棚引く雲のような紋様が蠢き、渦巻い

          禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

          禍話リライト「古いテレビ」【怪談手帖〈未満〉】

          「私はそのころ、今もそうかも知れませんが、とにかく物知らずで愚鈍な子でした……」 現在イラスト関係の仕事をされているAさんの幼少期の記憶は、彼女が云うには「灰色の記憶」であるという。 物心もつかぬうちに病気で母親を亡くし、父子家庭で過ごしたAさんだったが、小学校に入ってほどなく父親も事故でこの世を去った。 その後は親戚の家に引き取られ、そこからようやく彼女の日々は人並みの色づきかたをするようになった。 「それまではそうじゃなかったんです。母のことはほとんど憶えていなくて。

          禍話リライト「古いテレビ」【怪談手帖〈未満〉】

          禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

          ある日の夕方、Iさんは運動がてら家の近所からもう少し足を延ばして目的地もなく散歩していた。 涼しくなった風に秋の訪れを感じつつ、足元ばかりを見てあれこれと考え事をしていたせいだろうか。 ふと気が付くと、大通りから離れて普段通らない道に入り込んでいた。 人通りは無い。隣町に近い、住宅と空地の点在する一画である。 日も暮れつつある中、秋らしい虫の声だけが聴こえてきて、物寂しさを掻き立てられる。 (そろそろ戻ろうか…) 踵を返しかけたところで、微かな違和感を覚えた。 (なんだ

          禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

          禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

          Cさんの旅先での体験。 シャッター通りと化した商店街を散策していると、土産物屋が一件だけ開いていた。 通り過ぎる時、子どもの泣き声がしてきたので思わず店の中を覗くと、入ってすぐのところに小学生くらいの男の子がいて、半泣きの顔で店の壁を見上げて 「お父さん…お父さん…」 と繰り返している。 父親らしき人は見当たらない。 迷子かな、と思いつつその子の視線を追う。 ペナントやキーホルダーが並ぶなか、妙に浮いたデザインの人形があった。 スーツ姿の男性を模した小さな人形だった。 そ

          禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

          禍話リライト「とおりゃんせ降ろし」

          禍話リスナーであるAさんの体験談。 小学生のころ、誰から聞いたのか憶えていないが 神社に向かって「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌うとお化けが”降りてくる” そんな噂が流れたことがあった。 興味を持ったAさんは試してみることにした。 下校途中にある、なんの変哲もない神社。 Aさんはそこの社に向かって「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌い始めた。 すると、確かに何かが近づいてきている感覚がある。 (来る!来る!) すぐそこまで気配が迫ると慌てて逃げだした。 お化けの姿

          禍話リライト「とおりゃんせ降ろし」

          禍話リライト「となりのおんな」【甘味さん譚】

          「結局、一番怖いのは生きてる人間なんだよね」 聞き捨てならない話だが、実際そう思っている人は少なくない。 所謂ヒトコワである。 一番怖いかどうかは人によると思うのだが、私たちの周囲には確かに怖い人たちが蠢いている。 その恐怖は誰でも身近に感じられる、というのがヒトコワの醍醐味だ。 禍話の準レギュラーである、廃墟マニアの甘味さん。 その甘味さんが体験したという”ヒトコワ”。 そのきっかけは、些細なことであったという。 甘味さんがとある企業でバイトをしていた時の話だそうだ。

          禍話リライト「となりのおんな」【甘味さん譚】

          禍話リライト「埋女(うずめ)」【怪談手帖】

          体験者Aさんが、「性別を明かさないで欲しい」という条件と共に、『怪談手帖』の綴り手である余寒さんへ語った体験談。 「私自身はそれを体験してもいないし見てもいないんですよ。 だから、私にとってこれはただの”噂”なんです」 Aさんはあらかじめそのように断ってから話を始めた。 Aさんが子供のころ、周囲のごく狭い範囲で「女のお化け」が噂になったことがあった。 噂が流布した当時は、あの口裂け女が社会現象となり、そして収束した年からさほど経たない時代だったので、口裂け女のコピーみたい

          禍話リライト「埋女(うずめ)」【怪談手帖】

          禍話リライト「ムジッテ」【怪談手帖】

          「どっちかっていうと、今でもあの辺りじゃ不審者扱いなんですけど」 とは、この話をしてくれたAさんの弁である。 今は関東の大学に通っている彼女、郷里は東北にあるのだが、住んでいた地域でおかしな人物が目撃されているのだという。 「地域、というかうちの町を含む、ごくごく狭いエリアで。 あのへん、長い道とか坂が多くて」 そこを歩いていると、行く先向こうの道の遠い角から、男が覗く。 壁から出した首をグッとこちらへ向けて、大きく目を開いて見ている。 鼻が高くて彫が深い、所謂濃い顔で、

          禍話リライト「ムジッテ」【怪談手帖】