「ROEを徹底解剖!SEC開示分析講座」第13回
みなさん、こんにちは!
アメリカ株式義塾です。
「米国株式投資で必須の武器!SEC開示分析講座」第13回を始めましょう。前回からは、企業の財務分析に必要不可欠な財務比率について詳しく見ています。第12回は収益性比率(Profitability ratios)を説明しました。復習したい方はこちらの記事からご確認ください!
今回の<SEC開示分析講座>では、前回の収益性比率(Profitability ratios)に続き、会社の財務健全性を把握する際に直感的に企業の状況を把握できる指標である短期流動性比率(Short-term liquidity ratios)と長期流動性比率(Long-term liquidity ratios)を分析する方法を学びましょう。
皆さんも関心のある企業について収益性比率の分析をした後に、流動性比率も分析してみてください。最後には、関心のある企業の流動性比率を産業別平均流動性比率と比較するための”コツ”もお教えします。
それでは最初に、前回学んだことをちょこっと復習しましょう。
前回は短期流動比率と長期流動比率について上記のようにご説明しました。今回はさらに詳しくご説明します。
短期流動比率(Short-term liquidity ratios)
企業が短期に返済しなければならない債務を問題なく返済できるかどうかを見る指標。
短期流動比率は、とある企業の短期的な債務の支払能力を測る指標です。短期とはどのくらいかというと、明確に定められた基準はありませんが、通常は1年程度を基準にします。債務の支払とは、要するに借金を返済することです。
短期流動比率は流動負債(Current liabilities)と流動資産(Current assets)の関係を測定します。流動負債には、買掛金や未払金、短期借入金などが含まれます。一般的には借りたお金に対して短期間で債権者に返済しなければならない金額などはすべて流動負債に含めて計算されます。
算出方法を見てみましょう。
流動比率 (Current ratio)
流動比率は、企業が短期的な債務の支払を履行できる能力を示す指標です。この比率は、総流動資産(Total current assets)を即座に現金に変換できると仮定して、総流動負債(Total current liabilities)を即時に返済する必要があると想定し、計算しています。
では、流動比率はどのくらいが適切なのでしょうか?
これにも明確な基準はありませんが、流動比率は最低でも2:1(つまり200%)、すなわち流動資産が流動負債の価値の少なくとも2倍であることが推奨されます。流動資産は、通常、急いで現金化しなければならなくなった場合、そのものが持つ本来の価値で現金化することはできないので、安全マージンを考慮するために200%が推奨されています。簡単に言えば、流動資産の中で現金ではないものは、早く現金化しようとする際にはいくらか安値で売らなければならず、本来の価値よりも割り引いて考えるため、200%に設定するということです。たとえば、急いで現金が必要で、未開封の新品のノートパソコンをすぐに中古で売ろうとした場合、希望の価格ではなく、10~20%値引きした価格で急いで売ることになると考えればわかりやすいでしょう。安ければ買い手がつきやすいですからね。
しかし実際には、最近、多くの企業で適切な流動比率を維持することが非常に困難になっています。流動資産の価値を算定する基準がますます厳しくなっているためです。そのため、絶対的な流動比率の数値だけを見るのではなく、見ている業界の平均的な傾向を調べ、同じ業界内で流動比率を比較することが重要です。
酸性試験比率 (Acid test ratio)
さて、酸性試験比率というものもあります。
酸性試験比率は当座比率とも呼ばれます。これは流動比率と似た概念ですが、短期流動比率をより厳密に測定するために修正された流動比率です。
なぜAcid test(酸性試験)という名前なのかと言うと…
遥か昔、約200年前に北米で金の採掘ブームが起こった際、採掘された金が本物の金かどうかを確認する方法として、金に硝酸(Nitric acid)をかけて起こる反応を見るというものがありました。それで、何かに対するより厳しいテストという意味の慣用句として「Acid test(酸性試験)」という言葉が生まれました。
この酸性試験比率は、総流動資産から棚卸資産を控除します。このアプローチは、総流動資産が容易に現金に変えられる種類の資産であるとはいえ、常にそれが本来持つ価値で容易に現金に変換できるわけではないという点を強調するため、より慎重な指標となっています。より厳しい指標であるため、「Acid test(酸性試験)」という言葉が使われているのです。
財務諸表では、ほとんどの企業の連結貸借対照表に「Inventories(棚卸資産)」という項目があります。これは在庫とも言い換えられるものですが、これらは現金にすぐに変換することは難しく、急いで売らなければならない場合には、本来持つ価値よりも低い価値で販売せざるを得ません。
そのため、ほとんどの保守的な分析家は、このInventories(棚卸資産)を総流動資産(Total current assets)から完全に除外して流動比率を計算します。これが酸性試験比率です。特に、棚卸資産が総流動資産全体のかなりの割合を占めている製造業の企業は、酸性試験比率でチェックすると安全です。
長期流動比率(Long-term liquidity ratios)
企業の全般的な債務返済能力を確認することで、将来的にどのようになるかを予測する指標です。もちろん、長期流動比率は短期流動比率とは対照的な概念です。企業が1年以内に返済しなくてもよい借金は、すぐには影響がありませんが、いずれは流動負債に変わり、会社の首を絞めることになります。
短期流動比率が、企業が即死するかどうかを測定する指標であるのに対し、この長期流動比率は企業のより包括的な財務健全性に関わっています。長期流動比率は、事業に使用された資本が、株主から得たものが多いのか長期金融から借入したものが多いのかその度合いを測定できる指標です。
長期流動比率にもいくつかの計算方法があるので見てみましょう。
ギアリング比率 ( Gearing ratio)
ギアリング比率(Gearing ratio)は、企業の自己資本に対する負債の割合を示す数値です。借入金と社債で調達された資本の比率を測定する指標です。つまり、全資産のうち何%が借金で賄われた資産かということです。
例えば、白カブ部長が(株)アメリカ株式義塾のA1という車種の新車を2千万で買ったとして、そのうち1.6千万を5年後に一括返済する保証付融資で賄った場合、A1という資産に対して負債が関与する比率は非常に高いということになります。この他人資本の比率をギアリング比率と言います。この比率が高いほど、借入および社債への依存度が高くなります。逆に、負債比率が低いほど、株主が払ったお金である自己資本(Total stockholders' equity)への依存度が高くなります。当然ですが、ギアリング比率が高いほど財務リスクのレベルも高くなります。
しかし、実際のところは、原理的な話ですが、企業の財務責任者たちは難しいジレンマに直面しています。ほとんどの企業は最初から多額の資金を持って始められるわけではなく、IPOをしてアメリカの証券取引所に上場しても資金調達が十分でないため、結局のところ成長のための資金を調達するためには何らかの形で長期負債(Long-term liabilities)が必要になります。しかし、この長期負債の導入は財政的なリスクを増大させます。
負債比率 (Debt-to-equity ratio)
続いて、似たような概念であるこの負債比率について少し説明します。
基本的にはギアリング比率と使い方は同じで、株主資本に対する負債の割合を表します。当然、比率が高ければ問題の多い会社だということになりますね。
では、なぜ計算式に株主資本が突然出てくるのかというと、総資産(Total assets) = 総株主資本(Total stockholders' equity) + 総負債(Total liabilities)だからです。
この内容が難しいと感じた場合は、株主資本について説明している、以下のリンクを参照してください。
話を戻して、一般的には負債比率が200%を超えると問題があると言えますが、200%付近であったりそれ以下であれば大きな問題ではありません。しかし、これも業界によって異なるため、その業界の平均負債比率を必ず確認する必要があります。
インタレストカバレッジレシオ (Interest cover ratio)
さて、もう一つ指標をご紹介します。
前述のギアリング比率は長期負債の相対的なレベルを測定するのに対して、インタレストカバレッジレシオは総売上に対する利息の費用を測定します。すなわち、インタレストカバレッジレシオは、企業の借入金等の利息の支払い能力を測るための指標であり、その企業がギアリング比率を維持できるかどうかを確認する一つの方法となります。ちょっと分かりにくいでしょうか?
例を挙げて説明します。
私の月給が50万円で、1億円のマンションを購入するケースを考えてみましょう。当然、そんな現金はもってないので、大半が銀行から多額の融資を受けてを購入します。住宅ローンが2%だとすると、どうなるでしょうか。
将来のアパートの値上がりは無視すると仮定すれば、今返済しなければならない利息だけで年間200万円、月に16.7万円です。つまり、月給50万円のうち16.7万円、つまり33.4%が元金ではなく利息として出ていくことになります。公式に当てはめると、50万円 / 16.7万円 = 299%となります。これが今回の例でのインタレストカバレッジレシオです。
このように、インタレストカバレッジレシオは税引前当期純利益(Net profit before interest & taxes)を利息費用(Interest paid)で割って計算します。この値が小さいほど、その企業が現在稼いでいるお金で長期負債の利息を返済するのが難しいということを意味します。もちろん、投資すべきではないでしょう。このインタレストカバレッジレシオは、企業の現在の財務状態がどれだけ厳しいかを直感的に示す重要な指標です。
クルーズ船会社3社で実践!
さて、ここで 2019年のRCL、CCL、NCLHの3つの企業について、4つの流動性比率を比較してみましょう!
結果をこの下に載せておきます。
さて、計算できたでしょうか。
このように、興味のある会社について一度整理してみてください。数字を見つけて計算するのは少し面倒ですが、計算自体は全く難しくありません。10-K公示にある連結財務諸表(Consolidated financial statement)を見れば、すべての項目が載っているので簡単に計算できます。
産業別平均流動比率
さて、先ほど興味のある企業と産業別平均流動比率を比較することが重要だと申し上げました。どのように比較すればいいのでしょうか?
今度は、みなさんの多くが興味をもっているであろうトヨタ自動車を含む自動車製造業を題材に取り上げます。興味のある自動車業界の企業を自動車製造業の平均流動比率と比較したいですよね。
では、産業別平均流動比率はどこで見つけられるのでしょうか?
自動車業界ならFord Motor Company(F)やGeneral Motors(GM)などをご覧になりたいですよね。産業別平均流動比率を簡単に見ることができるサイトをお教えします。まず、以下のリンクにアクセスしてください。
All Industries: industry financial ratios benchmarking
その次に、ここにある「All Industries」と書かれた部分をクリックしてください。
すると、このように業種別の大分類が表示されます。ここで、該当する各大分類の横にある小さな白い三角形をクリックしてください。この場合、自動車製造会社なので製造業ですね。そこをクリックしてください。
すると、このように小分類がずらっと表示されます。自動車産業は、37. Transportation Equipment(運送設備)に該当します。これをクリックすると、該当産業の平均流動比率の結果が表示されます。
これで該当する産業の全ての同業他社の平均流動比率を見ることができます。ギアリング比率は別途表示されませんね。負債比率は総負債 / 総資産で、ギアリング比率は長期負債 / 総資産で求められるという点だけ注意してください。おおよそ似たようなものとして見ても構いません。Quick ratioは酸性試験比率と同じです。
これで皆さんも、投資したい会社の基本的な財務比率を自分で分析できるようになりましたね。何度かやってみると全く難しくありません。これからも会社の財務分析に関する内容や指標をたくさんご紹介していきます。
次回は新しい価値投資指標を取り上げます。
今回もお読みくださりありがとうございました。次回もお楽しみに!
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