3回楽しめる本「キリンを作った男」

以前、アサヒビールのスーパードライ誕生の物語を読みました。

今度は、キリンの稀代のマーケター前田仁さんの評伝を読みました。

とても面白い本で、3回じっくりと味読しました。
1回目は前田さんの評伝として。2回目は変化を恐れて硬直する組織の恐ろしさについて学ぶ教材として、3回目は自分の仕事に活かせるところはないか参考書として読みました。

まず前田さんの評伝として。前田さんのキリンでのサラリーマン人生は、まさに山あり谷ありです。「一番搾り」「淡麗」「氷結」を生み出した凄腕マーケターの前田さんですが、その前に取り組んだ清涼飲料の新商品開発はことごとく失敗に終わっています。その後ビールの開発担当となり、「一番搾り」を開発することで苦境に立たされていたキリンを救っています。しかし、この多大な貢献に関わらず、直後にワイン部門に左遷されてしまいます。まさに「出る杭は打たれる」です。さらに左遷されたワイン部門でやりがいを見出してはたらいていたところで、さらに子会社に飛ばされています。組織の恐ろしさを垣間見るエピソードです。
子会社で雌伏のときを過ごしていた前田さんですが、発泡酒の開発のため呼び戻されます。そこで「淡麗」を開発、ヒットさせることで再びマーケターとして第一線に戻ってくるのです。
このような左遷からの復活劇に、私利私欲を追わない「ギブ・アンド・ギブ」であり多くの人に慕われていたという人物評を相まって、私は西郷隆盛を連想してしまいます。沖永良部島に流されながらも表舞台に返り咲き、現在でも多くの人に愛されている西郷隆盛を重ね合わせても、決して大袈裟ではないと思います。

次に、変化を恐れて硬直する組織の恐ろしさについてです。キリンは「キリンラガー」の成功によって成長しましたが、「キリンラガー」の成功体験から抜け出せなくなってしまいました。変化を恐れる組織となった結果、前述のように成果を出した社員は左遷されるようになっています。改めて、組織のメンバーが組織内の権力に意識が向く「内向き状態」になることの怖さを教えてくれます。前田さんはキリンの子会社の人材を抜擢して多様なメンバーを集めることで、「外向き」の組織を作り上げていきます。組織に「揺らぎ」を与えることの重要性を痛感しました。

最後に、自分の仕事のヒントとして。前田さんの仕事ぶりには、仕事をより良いものにするためのヒントが詰まっていました。
特に印象深かったのは、『越境』する感覚というものです。
前田さんがこのように書き残しています。

勇気を持って他人の縄張りに口を出し、おせっかいを仕掛けることが求められます。
嫌味を言われたり争いになることを恐れていては縦割り組織は崩せませんし問題点の解決はできません。

これはまさにサイロ化による弊害を防ぐことだな、成果を出す人はサイロを飛び出し、サイロの外側にいる人々と積極的に交流しているのだな、と強い印象を受けました。

また上司としての前田さんも組織から部下を庇ったり、多様なメンバーを集めて強い組織を作ったり、まさに理想の上司といった趣があります。この辺りはいつか自分がマネジメントをする立場になったときに読み返そうと思います。

以前読んだスーパードライ誕生の物語も良かったですが、この本を読んで「一番搾り」にも熱い思いを感じるようになりました。
今度から「スーパードライ」と「一番搾り」どちらを贔屓にしようか。
むむむ、悩ましい・・・。
しょうがない、両方飲むことにしよう。


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