サイロ・エフェクトを読んでサイロ化の弊害を痛感する

サイロとは、スペシャリストの集まった部署やチーム、場所を意味している。本書では、組織の細分化と専門特化が進むことの弊害を「サイロ・エフェクト」と呼んでいる。組織が細分化された結果、個別最適化が進み全体最適化に繋がらない現象である。例えば、自部署の目標の達成に固執する余り他部署と協力しない、といった状況だ。皆さんにも心当たりがあるのではないだろうか。

前半ではソニーやUBS銀行を例に、サイロ・エフェクトが如何に大きなダメージを組織に与えるかが描かれている。後半はFacebookやクリーブランド・クリニックがサイロ・エフェクトと闘った模様が述べられている。

特に第二章で述べられている2000年代のソニーの様子は衝撃的である。社長の出井さんがカンパニー制を採用してサイロ化を推進した結果、「35個のソニー製品に、充電器が35個ある」状況になってしまった。同じ会社の製品であるにも関わらず充電器に互換性がないのである。また、プレイステーション部門はオフィスの周囲をガラスの壁で囲っていたらしい。独立心旺盛と言えば聞こえがいいが、大日本帝国陸軍の関東軍のような状態である。このようにサイロが細かく深くなった結果、ソニーはアップルやサムスンに負けてしまった。このようにサイロ・エフェクトは組織に大きなダメージを与える。

ちなみに稲盛和夫さんのアメーバ経営もサイロ化を推進する経営手法だと思うが、なぜ京セラやKDDI、日本航空でうまくいったのか気になった。アメーバ経営については概要しか知らないので、稲盛さんの著作を読んで単なる細分化・専門化と何が違うのか調べてみようと思う。

本書で一番印象に残っているのが、最後の「効率を追求しすぎるとうまくいかなくなる」という一文である。現代社会は効率化を求められる。そのため組織はどんどん細かく分化していく傾向がある。組織で生きる個人にとっても、サイロの中で個別最適に勤しむ方がサイロを壊しにいくより楽である。しかし、サイロに閉じこもって目先の利益を追求した結果、長期的には何も生み出さなかったならまだしもむしろ悪影響を与えた、なんてことになったらあまりに悲しいではないか(システムを無批判に受け入れることを山口周さんはハンナ・アーレントさんの著作を例に「悪」と述べている)。そしてなにより、外に踏み出した結果新しい視点を獲得することは、とてもわくわくするおもしろいことだと思う。

クリーブランド・クリニックのトビー・コスグローブは語っている。

「分野を問わず、事を成そうとする者はパソコンをしまいオフィスを出よう。新たな場所や普通とは違うやり方をしている人と出会うための旅に出るのだ」

さあ、サイロを飛び出し、サイロの外側にいる人々に会いに行こう。


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