📰 365 SUOMI vol.1 ウクライナ学生の学びを支援

フィンランド語を学び始めて、いよいよ８年目に突入しました。目下の課題はスピーキングとヒアリング、そして語彙力の向上です。

日頃からトレーニングを兼ねて、定期的にフィンランドのニュースサイトを講読していますが、せっかくなので、フィンランドの気になるニュースや面白そうなトピックスを日本語に翻訳して「365 SUOMIシリーズ」として記録しておこうと思います。

フィンランド における
ウクライナの大学生への学習支援

第1回で取り上げるのは、2022年3月29日にHELSINGIN SANOMAT が公開した、ウクライナの学生への取材記事です。友人のモニカ・ルーッコネンさんがリンクをシェアしてくれました。

原文はこちら

Venäjän hyökkäys | Metallimusiikki sytytti kiovalaisessa Nazar Dovžokissa Suomi-kipinän – Nyt mies hakee opiskelemaan Itä-Suomen yliopistoon, vaikka pääsee tuskin lähtemään maasta

記事では、ウクライナ人の大学生へのインタビューのほか、東フィンランド大学、トゥルク大学、ヘルシンキ大学の対応がそれぞれ紹介されています。

それぞれに世界に一歩近くタイミングがあります。それは決して、誰かに何かに強制されて踏み出すものではないし、今の自分には近すぎると感じたら、遠ざかってもよいと思います。

わたし自身、ウクライナのニュースに日々胸を痛めています。映像を見るのが辛くて、しばらくテレビをつけていません。

少しずつ
世界に近づきたい

わたしがnoteで展開しているシリーズに「等身大のフィンランド」があります。第１１回は、冬戦争の時代を生きた祖父の足跡を辿る、アヌ・カーリナさんの記録をご紹介しています。

このシリーズをはじめるきっかけになったのが、今回の戦争でした。ロシアとウクライナの動向に関するフィンランドの反応が知りたくてフィンランド語のニュースを読んでも、耳馴染みのない単語が並び、辞書を引いて単語の意味がわかったとしても、その文脈を適切に理解することが難しいと感じたからです。

フィンランドとロシアの戦争の歴史について、教科書を読むだけではなくて、市井の人の声に耳を傾けてみたいと思ったことも理由の一つです。

今は辛いな、という方は、少し時間が経って、大丈夫になってからでも構いません。

チャンネルを合わせる準備が整っておられましたら、以下の記事にお進みください。

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メタル音楽が灯した心
刹那のフィンランド

「何かを学びたいなら、夜が明けてもまだ自分が生きているという確証が必要です」、そう語るのは、ウクライナ人の学生、ナザール・ドヴゾキさん、27歳です。彼は、今年3月に東フィンランド大学へ願書を送った、100人以上のウクライナ人学生の一人です。

東フィンランド大学では3月のはじめに、ロシアがウクライナを攻撃して母国での研究が中断された学位の学生たちを対象に、それぞれの研究への権利と助成金の申請を開始しました。20席の枠に、水曜日までに135件の応募がありました。

ロシアがウクライナを攻撃する前、ナザール・ドヴゾキさんは新型コロナウィルスによる規制のため、フィンランドの大学生と同様に、リモートで授業に参加していました。戦争が彼の研究を中断しましたが、ドヴゾキさんはこの度、おそらく今後もリモート授業が続くかもしれないということを聞きました。しかしながら、彼は研究が何かをなすとは信じていません。もしも身近なところで戦争が起こった場合、研究に集中することは難しいのです。

東フィンランド大学はウクライナ人の学生に英語で学習する機会を提供していますが、ナザール・ドヴゾキさんはそれには興味がありません。彼はフィンランド語を学びたいのです。

ドヴゾキさんは2013年からキエフ国立言語大学でフィンランド語を学びました。現在はフィンランドで、フィンランド語が日常的に話される環境で、フィンランドの人たちの中で、フィンランド語の学習を続けることに関心があります。

金曜日、ドヴゾキさんがキエフから「フィンランド語で」電話取材に応じてくださいました。

「フィンランド語を話す人たちに囲まれて生活する環境に身をおいてこそ、私自身の言語レベルが向上することを知っています。」と、流暢なフィンランド語で彼は言います。

ドヴゾキさんは、音楽がきっかけでフィンランド語に興味を持つようになりました。フィンランドのメタルバンドを聴いていた彼の関心は、次第に、フィンランド語やフィンランドの歴史にも広がったのです。

彼にはフィンランド人の友達がいます。2016年にはフィンランドのヴァーサで開催されたサマーコースに参加しました。

フィンランド語を学習しながら、ドヴゾキさんはキエフで語学力を生かした仕事に就いています。彼はフィンランド語を教えたり、（フィンランドの元大統領で、フィンランド軍の最高司令官として数々の戦争を指揮した）カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイムの『Muistelmat』と、（フィンランドの作家で、ジャーナリストの）ピーア・レイノの『Taivas』をフィンランド語からウクライナ語に翻訳する作業に携わったりしました。

現在は自宅でフィンランド語のカスタマーサービスの仕事をしています。チャットサービスを使って、消費者からの質問にフィンランド語で回答しています。彼女とおばあさんと一緒に暮らしています。おばあさんは助けを必要とし、町を離れることができずにいるからです。

「電気や水、十分な食料、町から調達可能な物資などがあるから、私は仕事をすることができます。キエフでは常に爆撃や警報が鳴り響いています。それでもここは、比較的、安全です。今やウクライナでは本当に安全な場所なんて見つかりませんけどね」

戦争の真っ只中にあって、ドヴゾキさんは異常な心理現象を体験しました。何度も何度も同じ日を繰り返し生きているような感覚に陥ったのです。

東フィンランド大学がウクライナ人の学生を対象に公募する研究申請について、彼はフィンランド人の仕事仲間からその情報を聞きました。

「友人は、私がこの機会にチャレンジできるかもしれないと言ってくれました。」

しかしながらドヴゾキさんは、その機会を自分がたやすく掴むことができるとは全く思っていません。自分が大学から選出されるとは信じていないのです。そしてもし選ばれたとしても、彼はフィンランドへ来ることが適切とは思っていません。ロシアによる爆撃のため、ウクライナでは、18歳から60歳までの男性の出国を制限する戒厳令が敷かれています。

それでもドヴゾキさんは研究申請を提出し、この先の行方を見守ることにしました。

「何事もやってみなければチャンスは生まれません。チャレンジする必要があります。だけど私は何も期待していません。私たちの国では戦争が起こっていて、すぐには終わらないでしょう。何かを期待することなんてできません。おそらく、そうですね、私が勉強できるようになるのは、敵意を手放したときになるかもしれません」

ナザール・ドヴゾキさんは東フィンランド大学からの答えを待っています。大学にはウクライナ人学生から、現在までで135件の応募がありました。定員は20席です。

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東フィンランド大学のタピオ・マッタ校長は「数多くの応募がありました。基準を満たし、研究の継続が理にかなっている場合と判断した場合には、定員よりももっと多くの学生を採用します。」と話します。採用された10人は10000ユーロの助成金を手にします。

まずはじめに、個人の研究への権利が与えられます。迅速で柔軟に対処できるからです。加えて、無料で大学の授業を履修する権利が付与されます。授業にはそれまでの研究に関して必要な条件を含みません。

また、大学は、英語での学位プログラムへの申請書類を準備しています。学位の学生として入学することを可能にします。

申請は夏に開始されます。マッタ学長の見通しでは、採用人数はだいたい「数十人」規模であると考えられています。ウクライナ人に加えて、例えば、ロシアから逃れてきた人々も募集に応募することができます。

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「トゥルク大学では、ウクライナから逃れてきた人々は、フィンランド奨学金プログラムを通じて国際的な修士課程の研究に応募することができます。」と語るのは、トゥルク大学のピーア・ビュリョン副学長です。

奨学金は授業料と生活費にあてられます。ウクライナから逃れてきた人々への奨学金の割り当ては大学が決定します。

「インターナショナルマスターの選考はまもなく終了します。もしも定員を超えた場合、私たちは、どうすれば対象者に権利を提供できるかを確認します。さらに、彼らには、本学が開講するインターナショナル科目を無料で履修する権利が与えられます。期間は少なくとも1年間です。トゥルク大学では、それぞれの学部に様々なインターナショナル科目を用意しています。たくさんの選択肢があります。」

トゥルク大学では、個人の研究への権利を与えられる人数について、事前に割り当てを決めませんでした。

「各学部でどれだけの学生たちを受け入れることができるかを確認しています。私の見立てでは、本学で採用できる人数は多いと思います。状況を管理できるという観点では、割り当てを（事前に）決定することは確かに賢明です。そのことは、追加で資金を調達する必要があるかを考える判断材料にもなります。数十人の学生が修士課程あるいは個人の研究を開始することができるでしょう。」

大学は公開研究に制限を課していません。

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ヘルシンキ大学では、戦争によってウクライナの大学で研究を中断させられた学位の学生で、フィンランドに到着した人々に対して個人の研究を行う権利を認めると話しています。研究費用はかかりません。

「その他の申請は開示されていません。審査や単位の認可は各学部に任されています」と、ヘルシンキ大学の開発ディレクター、スサンナ・ニーンニスト・シヴランタさんは話します。

先週末までに手続きされた申請書類は約20件ほどでした。これまでのところ、大学は許可できる件数に関して上限を定めていません。

「モジュール研究もしくはカリキュラム研究は許可されますが、学位は与えられません。学位の学生になるには通常の申請期間に応募し、出願者の国籍が有利に働くようなことはありません。」

2023年秋まで、ウクライナ人は無料でヘルシンキ大学の公開授業を受講することができます。

2022年3月29日付HELSINGIN SANOMATを翻訳