中身が変化するという紙辞書
2020年。高度にインターネットが発達し、知りたいことはなんでもネットで調べられる時代。もちろん、言葉の意味も。
わからない言葉に出会って、ググるのではなくわざわざ辞書を引く人はほとんどいないだろう。辞書だといちいち時間がかかるし、そもそも情報がアップデートされない。
けれどこんな時代においても、紙の辞書が好きだという人は一定数いるらしい。匂いや手触りが安心する、だとかなんとか。
情報社会の荒波の中で出版社がそんな小さな声に希望を見出したのか、情報をアップデートする機能を備えた紙の辞書が満を持して発売された。見た目は、従来通りの紙の辞書。しかし、中にかかれてある情報がユーザーに合わせて随時変化していくのだという。「中身が変化する辞書」は各種SNSで話題をさらい、一躍ヒット商品となった。
そうなれば、気にせずにはいられないのが私の性分である。どうも、昔から新しいものや人気なものに惹かれる。紙の辞書なんてもう高校卒業以来数十年使っていないが、今回もひとつポチってしまった。
だが届いた商品を見て、正直期待はずれだったと思った。本当に普通の紙の国語辞典だし、中をパラパラとめくってみても特段変わったところはない。
数日間は特に調べたい言葉にも出会えず、辞書を使う機会がなかった。
しかし、唐突に調べたい言葉と出会った。私の単身赴任のため、離れて暮らしている娘から、
バ先つぶれてお金ないぴえん
とLINEが来たのだ。バ先とはなんだ。ぴえんとはなんだ。
久しぶりの娘からのLINEに浮足立つ反面、わからない言葉に混乱する私の視線の先には、あの紙辞書。すがる思いで駆け寄り、探す。
は、、ば、、あった。
バ:バイトの略 <類語> バ先:バイト先
な、なるほど…!バ先とはバイト先のことか!
次は、ひ、び、ぴ、、
ぴえん:泣いているさまを表す擬態語
おお。
ということは、娘はバイト先がつぶれてお金がなくなって悲しんでいるのか!よし、
礼香チャン、久しぶり💗(笑)😄🎵おこづかい、入れとくよ💕🎵💗😆来週そっち帰るから、観光でも、行きたいなぁ😄モチロン礼香チャントネ(*´艸`*)
送信!
おっと、いつになくはやい返信。
あざまる水産~
なんだこれは。
えっと、あ、あ、
あざまる水産:ありがとう、ありがとうございます
なるほど~
礼香ちゃん、お礼なんていいよ♡そっちも曇りなのかな😜⁉️礼香ちゃんにとって素敵な1日になりますよウニ(^_^)😃(^з<)
娘と会話が成り立つのもこの辞書のおかげだ。今までは内容がわからず適当に返事していたからな。この辞書は私の知りたい言葉ばかり載っている。
*
はあ…うざ。なんだこの記号。誰が使うんだ、こんなの。
(*´艸`*):照れ顔
きも。まあ、お小遣いくれたし我慢しよ。
*
「こんな感じでどうですかね?
辞書がユーザーに合わせて情報をアップデートしていった結果、オジサンは若者言葉辞典を、女子高生はオジサン絵文字辞典を持つようになってお互い理解しあい、ハッピーエンド♪みたいな!」
「まあ、悪くないな。よし、上にもかけあってみるか。」
「ありがとうございます!」
<おわり>
今ならあなたがよもやまサポーター第1号です!このご恩は忘れません…!