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年増女は嫉妬する。それは犬も同じ。
女性は年齢を重ねると、若い女性がうらやましくなるものです。
全くうらやましく思わない、という方がいるでしょうか。
もしそういう方がいたら、その方はまだ本格的に年を取っていないということです。
自分はまだ女としてやっていけると、心のどこかで思っているはずです。
確かに20代みたいにぴちぴちはしていないけど、その代り内面的にも充実してきて、金銭的にも余裕ができて、今の方が絶対幸せ!と思っているはずです。
しかし、Xデーはひしひしと近づいてきます。
そして、ある時を境に、二度と昔には戻れないのだと痛感するのです。
その時とは、閉経です。
女性として子どもを産み育てる機能が終了する、その時。
女性は閉経してみて、若いということがどれだけ貴重なことであったか痛感するのです。
さて、体は閉経によって分かりやすく歳を取りますが、心はどうでしょうか。
それが問題です。
心って歳を取れないんですよ。なかなか。
逆に閉経してからの方が、20代や30代の若い男性を追っかけたくなったりします。どんなに頑張っても若い女性に勝てっこないのに、勘違いしてというか、現実逃避をして、若い男に振り向いてもらおうとします。さらにたちが悪いと、若者同士の恋愛を妨害しようとしたりします。
私はそれと同じ光景を犬に見たことがあります。
20年前、私はタイへ旅行しました。
いまはどうか分かりませんが、当時は野犬がたくさんいたんです。
ある晩、屋台でご飯を食べてると、野良犬がうろうろやって来ました。
茶色く毛の短いオスの中型犬でした。
その犬はしばらく地べたを嗅ぎながら歩いていたんですが、突然、ぴーんと尻尾と耳を立てて直立したんです。視点は微動だにせず、まっすぐ遠くへ向けられていました。まるで警察に合図されたシェパードのように。
視線の先を追っていくと、白く毛並みのきれいな若いメス犬が立っていました。
一目で分かりました。彼らは恋をしているのだと。
前から知り合い同士なのか、その時初めて出会ったのかは分かりませんでしたが、明らかに特別な空気が漂っていました。
二匹の若き犬は互いに歩み寄り、そして首をこすりつけ合ったりしていましたが、お互いにその気になったのか、その場で交尾に至ろうとしたのです。
私は一瞬ぎょっとしましたが、タイの人はなーんとも思っていないようで、そのままバミーをすすっていました。
オス犬がメス犬の腰に前足をかけ、いざ本番!となったときです。
なんと!!そこへ妨害者が来たのです。
その妨害者は、筆舌尽くしがたい哀愁の漂った声で、長ーく遠吠えをしました。何だか文句を言っているように、少ししゃべったようにも聞こえました。
愛する二頭から2,3メートル離れた場所で、アウアウと悲しい声で鳴き続けました。
その声の主は、痩せて毛並みも悪く、顔の垂れさがった雌の老犬でした。
私はその様子をはっきり覚えています。
尻尾は力なく足の間に挟まれていて、足もちょっと不自由で、毛はところどころ抜けていて、明らかに老犬でした。
その悲しげな遠吠えに、一瞬ひるんだオス犬でしたが、気持ちが高まっていたのか、そのまま交尾を続けようとしました。
若く美しきメス犬の方は、すました様子でアクションを待っています。
しかし、交尾をしようとすると、またその老犬が邪魔するわけです。
トライ、ひるむ、トライ、ひるむを数度繰り返したのち、さあいよいよ今度こそはというときです、なんと妨害者は愛する二頭にとびかかったんです。
この妨害を受けて、さすがに驚いた二頭の恋人たちは、さっさとその場から退散していきました。
そこにはぽつんと老いたメス犬が残されました。視線の先にはそそくさと逃げ去るオス犬がいました。
あの老犬の悲しそうな様子。
愛の交尾を見せつけられても悲しい、いなくなられても悲しい。
それは、この世の終わりのような寂しさでした。
その様子は、当時若かった私にも強烈な印象を与えました。
「いつか、私にもああいう日が来る」と。
そして、数十年経って、いまその時を迎えています。
若いうちの惚れた、腫れた、フラれたなどは、本当の恋愛の苦しみではありません。
本当の苦しみは、閉経して決定的に女でなくなったときに、収めようのない寂しさとしてやってくるのです。
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