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またふたりで劇場へ

先日、夫と宝塚歌劇を観に行った。
宝塚歌劇は私が子供の頃から愛し続けている100年以上の歴史ある女性だけの歌劇団だ。

私は夫と付き合いだしてしばらくした頃、勇気を出して一緒に宝塚歌劇を観に行こうと誘ってみた。出演者は全員女性はもちろんのこと観客も最近は男性の方もかなり増えてきたが、それでも女性が多く、女性に溢れた世界。

男の人は珍しいしと断れるかと思ったが案外興味を持ったようでエリザベートという名作中の名作を一緒に観劇した。

その観劇は数年前の話で夫に感想を聞いても特段思い出せることがないくらい、良かったよといった抽象的な感想しかなかったと思う。

誘ったのはどんな反応を見せるか少し気になったのもあった。私は結婚する条件として、自分の趣味を否定しない人という事が若い頃から心ひそかに思っていた条件だ。

自分の趣味を好きになってもらおうだなんてそこまでは思わないけれど、ただ人の趣味や好きな事をバカにしたり否定する人は嫌だなぁと思っていた。

私自身、健全で度の過ぎない趣味を持つ事は良いと思う。それで人生が楽しいのなら私がそれを好きでなくても、無理矢理共有させたりしないで自分で楽しむ分には良いことだと思う。その人の人生なのだから。もちろん私が興味を示せば一緒に共有できたら尚いいとも思う。


あれから私たちも夫婦になり今でもたまに一緒に観劇に行く。
私が家で舞台のDVDを見たり、舞台でない番組を観たり(宝塚専門チャンネルがあるのでさまざまな番組があるのです)しているうちに、何の気無しに目にしている夫も少しずつ誰が誰かわかるようになったようだ。

私が月に1.2回、多いときは3.4回行くのだが、夫はだいたい半年に1回くらい。
比率がおかしいかもしれないが、宝塚ファンと宝塚ファンの夫という立場だとそうなるのは致し方ない。

本当はもう少し観に行く予定だったが、例のウイルスにより夫と予定していた公演に限ってことごとく中止になっていたからだ。しかも滅多に取れないような前方席ばかりだ。これはもはや呪われているのではないかと口では言わないが密かに思っていたところである。


「最近宝塚観に行ってないなぁ」

と夫が突然呟くようになった。

「観に行きたかったの!?」という驚きだった。ただ私に言われるがまま付いてきているだけだと思っていた。

そんなわけで、いつも観劇に一緒に行く母からこのチケットは2人で行ってきたら?と言ってくれたなかなかの前方席で夫と久しぶりに観劇する事にした。

夫と行く前方席のチケットということでまた中止にならないかと心配していたが、無事に観劇の日を迎えたのである。呪いではなくて安心した。

夫と半年ぶりに観た公演は雪組公演の「蒼穹の昴」普段は幕間を挟んでお芝居とショーの2本立てだが、今回は1幕2幕ともお芝居のみ。

ちなみに私は5組ある中でも1番雪組が好きだ。宝塚大劇場で上演される組全員が出演するいわゆるメイン公演は1組、1年で2作品ほどしかないものだから私も待ちに待ったという気持ちで昂っていた。


当日の朝、私がグッズを買いたいからと開店に間に合うように車で早めに宝塚大劇場へ向かい、開演前に腹ごしらえをして我々は劇場に向かった。

私はとにかく劇場が好きだ。あの劇場という空間が大好きだ。大金持ちになったら何がしたいかと言われたら自分の劇場を持ちたいと思うくらいだ。

特に宝塚大劇場は見やすくて豪華で他に類を見ない劇場で格別。
今回は1階の前方席。端の席ではあるが、前方席の横には花道という通路のような舞台がある。そこに立ってくれればすぐそこにいらっしゃるのでまぁ良く観える。

夫も近いねぇと嬉しそうだ。

そして今回のお芝居「蒼穹の昴」
小説家浅田次郎氏の中国を舞台にした長編時代小説である。ベストセラー小説ということだが私は全く知らなかった。

この作品の上演が決まってから4巻にも続くこの原作を読んだ。小説は好きだが苦手な長編で時代小説だったのでかなり苦戦はしたが、壮大なストーリーに胸一杯になった。

読み終わるとこれが宝塚の舞台でどう創り上げられるのだろうかとただただワクワクした。

舞台は本当に素晴らしかった。
登場人物が本で読んでいたままのイメージで現れる。タカラジェンヌの役作りへの探究心に毎回驚かされる。

長編小説を2時間半にギュッとしているので削られたエピソードも多いが、それでも大階段を使った紫禁城をはじめ豪華絢爛な舞台セットや、壮大な音楽、細部にまでこだわって作られたであろう衣装、そんな華やかかつ原作に忠実なミュージカルに私は心奪われた。

物語の終盤に原作でウルッと来ていた場面で、同じようにウルッとして最終的に涙が滴り落ちた。

本編が終わり少しのフィナーレの歌やダンスといったレビュー。
そしてパレード(階段降りて出演者全員が挨拶するやつ)で私は大好きな世界に浸る幸せを感じて再び涙を流した。

幸せすぎると涙が出るんですね。


「どうだった?」
「面白かった?」
「どの人がよかった?」

車の中で夫にいろいろと質問攻めにした。

夫は面白かったと言い、ここはこういう事だったの?とか、あそこの場面良かったねぇ、とかあの人良かったねえとか、最初とは比べ物にならないくらいに話をしてくれた。

〇〇さんの歌が良かったねぇ。〇〇さんかっこいいなぁとか名前を覚えているのも少しずつ宝塚ファンへの道を歩み出しているのではないかとほんの少し嬉しくなった。

夫はあの人がよかったねと言う時にその方が娘役さんだったりすると、可愛いとか美人とかいう言葉は言わない。顔が整ってるとかあの目がいいとか言い方をする。

どうやら一応私に気を遣っているようだと感じる。悪いが私もいろいろと弁えてるもんで、宝塚の娘役に嫉妬などしない。ほんまかわいいよなぁ、美人よなぁと共感しかしない。

私はむしろあの人が好きだと言って欲しいくらいなのに。でも、なんか気を遣ってる感じがおもしろい。

そうやって過ごす車中、私は嬉しかった。

もちろん1人で行くのも母と行くのも友人と行くのも楽しいのが宝塚だ。
けれど、いつも1番近くにいる夫と2人で楽しむというのはまた違った面白さがあるなと思った。

何よりも私の好きな世界を理解しようとしてくれていることがなんだか嬉しかった。

自分の好きな事を無理に好きになってほしいだなんて思わない。
けれど、好きな事を共有して日常でその会話をするだけで楽しいなんていう時間は嬉しいものだなとじんわりと噛みしめ、また一緒に観劇に行こうと決めた。


そしてこの舞台、蒼穹の昴があまりにも素晴らしかったので是非とも観てほしい。

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