裏木戸 夕暮

「文豪作品をひとしずく」。文豪作品から着想した短編を作家別にマガジンにまとめています。…

裏木戸 夕暮

「文豪作品をひとしずく」。文豪作品から着想した短編を作家別にマガジンにまとめています。その他、コトバアソビ集など。 復刻本を集めるのが趣味です。画像の骨董や小物は私物。

マガジン

  • 作家名「や行」

    文豪作品を元に創作の短編小説を書いています。

  • 童話、童謡、伝説、海外小説等

    童話、童謡、伝説、海外小説等を元に創作の短編小説を書いています。

  • 作家名「あ行」

    文豪作品を元に創作の短編小説を書いています。

  • 作家名「な行」

    文豪作品を元に創作の短編小説を書いています。

  • 作家名「さ行」

    文豪作品を元に創作の短編小説を書いています。

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「悪夢十夜」(元にした作品:夏目漱石『夢十夜』)

 浩輔は金になるバイトを探していた。しかし普通の求人に応募することは出来ない。勤めている会社が給料が低いくせに副業禁止なのだ。  そんな悩みを仲の良い先輩にこぼすと 「お前、口堅い?」 と意味深に囁かれた。 「え、何すか」  場所は会社の喫煙所。古いロッカールームを再利用しただけの狭くて汚い空間だが雨風が凌げるだけでも有り難い。それまでは吸いたかったら外へ行け、だった。  先輩は小声で 「俺、実は治験みたいなバイトを受けたんだけど都合が悪くなってさ。代わりに紹介してもいいぜ。

    • 「かのひとにこそ花を手向けめ」(元にした作品:吉屋信子『花物語』)

       私と姉は同じ日に生まれました。双子ではありません。父なる人は妻と愛人を持ち、奇しくも二人は同じ日に女児を産み落としたのです。姉は綺羅子、妹の私は志津香と申します。    広い屋敷の、姉は東の離れで、私は西の離れで育てられました。父は仕事に、母は社交に忙しい人でしたので、姉と私の世話は女中がしてくれました。とはいえ、我が家の女中たちは主人が居ないとサボりがちで、私たちは子どもながら自分のことは自分ですることを早くに覚えました。今振り返りましても手の掛からない、甘えることを知ら

      • 『私がお鍋さんを#買ったわけ』

         半年、もしかしたら1年以上前から購入を迷っていたものに「電気圧力鍋」があった。材料を刻んでスイッチオンで煮込み料理が出来るなんて、素敵・・  と思いつつ、 「そんなのを欲しがるなんて手抜きかしら」 「そんなお金があったら他のことに」 と、欲しい気持ちを抑えてきた。  ところが三日前の深夜、ついに通販でポチってしまった。  通販の買い物かごに入れて、削除し、また入れてを繰り返し、 (お、お、押しちゃう。押しちゃうぞっ・・) とポチリ。 (あ、あ、買っちゃった・・買っちゃった

        • 「百字物語」(元にした作品:百物語の伝承)

           役所から届いた封筒を面倒なので放っておいたら、会社帰りにワゴン車に押し込められて拉致された。 「な、な、なんですか」 「あなた、政府からの書類を放置されたでしょう。近頃こんな人が多くて困る」  スーツ姿の男は俺に目隠しをして車を走らせ、倉庫のような建物の狭い一室に押し込めた。 「文字を書いてください」 「は?」  殺風景なデスクと椅子が置かれた室内は刑事ドラマの取り調べ室のようだ。差し出されたのは、昔懐かしい文字の書き取り帳が一冊。 「ひらがな、カタカナ、漢字。日本の文字で

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        「悪夢十夜」(元にした作品:夏目漱石『夢十夜』)

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          「夜」(元にした作品:百人一首 右大将道綱母 嘆きつつ 獨りぬる夜の明くるまは いかに久しき ものとかは知る)

          「ねぇ、今日も帰らないのかな。どう思う?」  涼子は寂しさをこらえながらスマホの向こうへ問いかける。返事はアッサリしたもので 『11時半だしねー。もう寝ちゃいなよ』 サバサバした明るい声。その明るさに涼子は救われる。 「でも、そういう時に限って寝入った途端に帰って来られてさ。気まずくなるの」  恥ずかしそうに笑う。相手も 『お人好しねー』 と笑う。  ドン、と部屋に鈍い音が響いた。涼子が身構える。気配を察した相手が尋ねる。 『どうかした?』 「あぁ、お隣か上か下か分からないけ

          「夜」(元にした作品:百人一首 右大将道綱母 嘆きつつ 獨りぬる夜の明くるまは いかに久しき ものとかは知る)

          「A・B・C・Dの関係」(元にした作品:百人一首 清少納言 夜をこめて 鳥のそら音ははかるとも 世に逢坂の 関はゆるさじ)

           スマホから呼び出し音が虚しく鳴り続ける。  A 子が諦めかけた頃、相手が通話に出た。 「B奈!良かった、出てくれて」 『あんまり何回もメッセージが来るから・・何?』 「会って話したいの」 『今言って』 「その・・メッセージとか電話だと、うまく言えない。お願い、一度会って」 『あのね。電話に出たのは、連絡はもうやめてって言うつもりだったの。この通話が終わったら着拒するつもりよ』 「B奈・・」 『D男さんのことでしょ?今更何。A子がプロポーズを断ったんじゃない。取り返そうなんて

          「A・B・C・Dの関係」(元にした作品:百人一首 清少納言 夜をこめて 鳥のそら音ははかるとも 世に逢坂の 関はゆるさじ)

          「再会」(元にした作品:百人一首 紫式部 廻り逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな)

           この街に来るといつも探してしまう。だから避けてきたが、出張では仕方がない。 「元カノがいる街なので行きたくありません」  そんな言い訳を上司にしたら、鼻で笑われ同僚に揶揄われ社内中の噂になること請け合いだ。商談を手際よく済ませてさっさと帰ろう。そう思っていたのだが、気負ったのが逆効果となり 「説明が上手いし熱意もある。これからも担当は君に頼もう」 と先方に気に入られ、 「是非夕食を一緒に」 と誘われた。相手は自分よりも大きな会社の部長である。断れる筈もない。  せめてもの救

          「再会」(元にした作品:百人一首 紫式部 廻り逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな)

          「恋しくて」(元にした作品:万葉集 紫草のにほへる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに我恋ひめやも)

          (ああ、今日も可愛い)  通勤路、和樹は毎朝ため息をつく。 (向こうも俺を見てる・・よな?視線を感じる。シャキッとしろ俺)  その窓の前を通る為に髪型をキメているといっても過言ではない。時間にして数分、十何メートルかの距離を不審者と思われない程度にゆっくりと歩く。たとえ、遅刻ギリギリでその後猛ダッシュをすることになろうとも。  社会人二年目の細川和樹。  彼は道ならぬ恋をしていた。    アパートから駅までの途中に大きな邸宅がある。  売りに出されていたがなかなか買い手がつか

          「恋しくて」(元にした作品:万葉集 紫草のにほへる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに我恋ひめやも)

          「汀(みぎわ)にて」(元にした作品:大手拓次 蛇の花嫁 より ほのあをき貝)

          「忘れ貝を知っていますか」 「さあ」 「悲しいことを忘れるそうです」 「本当にあるの」 「僕の手の中に」 「何を忘れたいの」 「いいえ、これはあなたへ」 「わたし?」 「僕を忘れてください」  をんなの髪はかぜに靡いて男を絡めとる。  お願いだから離して欲しいと男は泣く。 「忘れてください。忘れてください。僕はあなたを幸せに出来ないから」  髪はますます縛り上げる  ご存じだろうか、をんなの髪ほど頑丈な鎖のないことを   「お金がないから?地位がないから?それとも醜いからか

          「汀(みぎわ)にて」(元にした作品:大手拓次 蛇の花嫁 より ほのあをき貝)

          「おめでたくない人々」(元にした作品:『おめでたき人』武者小路実篤)

           カウンターの男がハァとため息をついた。 「どうしました。先程までご機嫌でしたのに」  バーテンが声を掛ける。  男はふっと顔の緊張を解いて笑った。 「そう見えたかい?半分は虚勢だよ。お代わり。薄めにね」  氷がだいぶ溶けたグラスを差し出す。  男は先程まで、同年代と思しき男と楽しげに飲んでいた。明日早いからと言って相手は先に帰ってしまい、男は一人残された。 「聞いてくれるかい。店も空いてるし」  男は語り始めた。 「一緒だった奴、俺の従兄弟でさ。一彦ってんだけど。従兄弟の

          「おめでたくない人々」(元にした作品:『おめでたき人』武者小路実篤)

          「夢吸い」(元にした作品:金子みすゞ「夢売り」)

          白い面をつけた黒装束の影が夜の街を彷徨い 後を追いかけて女が縋り付く どうぞ、どうぞこの子の夢を吸ってください くだらない夢をいつまでも追って 現実を見ないのですどうか、どうか。 影は細い口を蚊のように伸ばし子どもの脳天へ突き刺して アストロノーツになる夢を吸ってしまった うん、お母さん僕公務員になるよ 塾へ行って大学へ行って就職して定年までしっかり勤めるよ 人が変わった子どもを抱いて 母親は喜んで帰っていった 夢などいらない見るもんじゃない枕の上の妄想で十分だ、と 夢を捨て

          「夢吸い」(元にした作品:金子みすゞ「夢売り」)

          「友情もどき」(元にした作品:『友情』(武者小路実篤)

           一通の封書がある。披露宴の招待状だ。  優は返事を決めかねていた。どちらを選択しても結果は後悔に終わるだろう。自分の思いは、差出人も理解しているに違いない。  結婚するのは十年来の親友であり、その伴侶もよく知っている。  親友が招待状を送ってきたのは礼儀と慣習の一環である。  その間に挟まっているものが友情なのかどうか。  誰も知らない。  鴇田優と鴨川拓朗は高校で出会った。一年で同じクラスになり、互いに姓に鳥の名が入る相手として認識した。 「これ、トキだっけ」 「トキタ

          「友情もどき」(元にした作品:『友情』(武者小路実篤)

          「山に咲く小さな花を見に」(元にした作品:伊藤整『雪明りの路』188頁 ひとりしづか A Reverie)

          「一人ポツンとしている奴がさ、『私は繊細なの。人とは違うのよ』って顔をするのが生意気でならない」  学生時代、そう言って私を揶揄う男子が居た。向こうは向こうで (俺は他人が気づかない所も見てるんだぞ、へへん) という顔に見えるのだけど、私は無駄な喧嘩は売らない。本を閉じて席を立つと向こうは勝者の顔で笑った。他のクラスメートは無関心だった。私にも、その男子にも。  私は一人で居るのが好きで、幸いそれ以上揶揄われたり苛められたりすることなく学生時代を終えた。今時ボッチなんて死語

          「山に咲く小さな花を見に」(元にした作品:伊藤整『雪明りの路』188頁 ひとりしづか A Reverie)

          「あの角を曲がって」(元にした作品:エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』)

           ベッドの傍のテーブルに封筒と500円玉。僕は500円玉をポケットに入れ 「じゃあおばあちゃん、出してくるね」 と封筒を鷲掴みにする。返事はない。おばあちゃんの鼻の下には透明のチューブが貼り付けてあって、おばあちゃんはチューブから酸素を吸っている。 「おばあちゃん、もう長くないかも。出来るだけ顔を見せてあげてね」 と言うお母さんは、パートや介護で毎日忙しそう。ちなみに、おじいちゃんは僕がもっと小さい頃に死んだらしい。  先月、肺の病気で入院していたおばあちゃんが帰って来た。

          「あの角を曲がって」(元にした作品:エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』)

          「ともだち100人いるかしら」(原作:童謡『一年生になったら』)

          (大人の理屈っていうか、もう迷信だと思うんだわ。友達が多くて元気で明るい子イコール良い子ってのが) (それな) (本気で100人いたらめんどくせーな。3日に1回は誰かの誕生日じゃん) (多分昔はさー、連絡手段が乏しくて。口コミや噂が情報源だったりコネとかも大事で。だから友達つうか人脈って意味じゃねーの) (今の時代、情報ならネットでいいし)   (別に友達ゼロでもやってけるよな。いてもいいけど量より質だろ。数いても邪魔) (うちの親もさぁ、ママ友とか言ってキャアキャ

          「ともだち100人いるかしら」(原作:童謡『一年生になったら』)

          「百年」(原作:童謡『大きな古時計』作詞:保富康午)

           片付けをしていると古い作文が出てきた。  読み返した涼子は後悔に襲われた。  拙い字で残酷な言葉が書かれている。 <おじいちゃん、だいすきです。ひゃくねんながいきしてください>    祖父の家の片付けを手伝って欲しい、と母から依頼が来たのは二ヶ月も前のことだ。多忙な涼子はなかなか時間が取れず、連絡は夏に受けたのに都合がついたのは秋になった。 「少しずつ片付けてたんだけどね、量が多くて」 「プロに任せたら?」 「最後はそうするけど、大事なものはとっておきたいから」  涼子に

          「百年」(原作:童謡『大きな古時計』作詞:保富康午)