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作家名「た行」

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文豪作品を元に創作の短編小説を書いています。
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記事一覧

「陰」(元にした作品:谷崎潤一郎『陰翳礼讃』)

 私は女の横顔をずっと見ていた。 「この本を読むと静かな気持ちになるの」  長いスカートを…

裏木戸 夕暮
3か月前
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「100回生まれ変わっても君の奴隷」(元にした作品:谷崎潤一郎『痴人の愛』)

「いらない」 「ごめん・・」  予約が出来ず、開店前から行列が出来る人気店で買ったスイーツ…

裏木戸 夕暮
6か月前
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「Don’t smell ,baby」(原作:田山花袋『蒲団』)

「先生、いい匂い・・・」  若い女はうっとりと呟き、初老の男の胸に顔を埋める。  男は照れ…

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「酔待草」(原作:竹久夢二『宵待草』)

 フリーライターの山田西樹は酒場の記事を多く書く。  基本何でも書くのだが呑兵衛な為に酒…

「月曜の朝」(原作:谷川俊太郎『朝のリレー』)

自転車で行き過ぎる女の人は30分後 入居者の排泄物を処理する 青年の背負ったリュックには …

「いい加減な男」(原作:太宰治『斜陽』)

 友達が付き合っていたら、あんな男はやめておけと言っただろう。  私はそんな男に惚れた。 …

「白い花」(太宰治「フォスフォレッスセンス」の二次創作②:死)

 透明のアクリル板を挟んで男女が向かい合っている。  灰色の箱のように殺風景な部屋だ。  スーツ姿の男が口を開いた。 「ご主人との馴れ初めを伺ってもよろしいですか」  女は少し戸惑う様子だった。  何故そんなことを訊くのだろうと。暫く考えたのちに 「・・・あの人と、前の奥様の話からになりますが・・・」  女はゆっくりと話し始めた。 「あの人」には妻が居た。誰もが羨む仲の良い夫婦であった。  ある日その妻が死んでしまった。  誰からも好かれる妻を誰よりも愛していた男は悲嘆に暮

「果実」(原作:太宰治『桜桃』)

 あの男が嫌いだった。  いつもお道化て調子の良い言葉を並べるくせに、うちは毎日火の車で…

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「サ・ヨ・ウ・ナ・ラ」(太宰治「グッド・バイ」の二次創作:別れ)

「よしこれだ。プランはバッチリ」  俺は手帳をピチンと閉じて、夜へ出た。  五人の女をフる…

「さよならはリボンをつけて」(竹久夢二「三味線草」50頁の二次創作)

      かけてよいのは衣桁に小袖       かけてたもるな うす情 「おっ、気が利…

「憧憬という名の香り」(原作:田山花袋『蒲団』)

 これは私が若い頃の話だ。誰にも言うつもりは無い。ここだけの秘密の物語だ。  まだ青年と…

「愛の栞」(谷崎潤一郎「鍵」の二次創作:不倫)

 妻は夫の日記を読んでいた。夫は意地の悪い年寄りで、妻はいたいけな若妻であった。  夫は…

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「|憧《あくがれ》」(原作:谷崎潤一郎『春琴抄』)

「ふん、また来てやがる」  師匠の言葉に弟子の凰水は窓の外を見た。  外は雨である。  そ…

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「恋う」(谷崎潤一郎「刺青」の二次創作②:恋愛)

(画像は復刻本の「刺青」背文字部分と、河出書房新社「橘小夢 幻の画家 謎の生涯を解く」p112より)  ひと目で心奪われた。次の瞬間私は目を逸らした。  彼女に、この気配を悟られてはならないから。  白い肌に静脈が沈んでいる様子は、誰しも見たことがあると思う。  其れは病人の弱々しい肌かも知れず、幼子のふくよかな肌かも知れない。  だが、私が見た彼女の肌は何に例えよう。そうだ・・  青い蜘蛛の巣。  彼女の絹のような肌の奥には、サファイアの胴体と水晶の脚を持つ蜘蛛が棲