元フジテレビ内田恭子さんが語る、マインドフルネスとの出会いと学び
マインドフルネスを体現している、心豊かな人生を送っている方からまなぶシリーズ第三弾。
今回は元フジテレビアナウンサーの内田恭子さん(以後、内田さん)。
フジテレビ退社後、テレビ、雑誌で活躍。現在もタレント、フリーアナウンサーとしても活躍されている内田さんが、マインドフルネスディレクター・トレーナーとしての活動をはじめたとのこと。
今回、なぜマインドフルネスをはじめたのか・教えるようになったのか、お話を伺ってきました。
プロフィール
内田 恭子(うちだ きょうこ)
ドイツ・デュッセルドルフ生まれ、アメリカ・シカゴ、横浜で育つ。
慶應義塾大学商学部卒業後、フジテレビに入社。「すぽると!」や「笑っていいとも」など、多くの人気番組に出演し、看板アナウンサーとして活躍。フジテレビを退職後は、タレント、フリーアナウンサーとして活動。現在、マインドフルネストレーナーとしての活動も行なっている。
箕浦 はじめまして、本日楽しみにしておりました。よろしくお願い致します!
なぜマインドフルネスをはじめたのか
箕浦 内田さんがマインドフルネスを始めたと聞いて、少し驚きました。なぜマインドフルネスをはじめられたのですか?
内田さん いま振り返ると、とても自然な経緯ではじめたのかなと感じます。元々、心理学に興味があって、コロナ禍で家にいる時間が増えた時に、ラストチャンスだと思って大学院にいくための受験勉強をし始めました。
受験勉強をはじめて、近代心理学の勉強をしているときに、マインドフルネスが出てきて、直感的にこれを学びたいと思いました。
箕浦 直感的に感じたというのはどういったことでしょうか?
内田さん 座学というよりプラクティカル(実践的)なものに興味がありました。アメリカで育ったので、セラピーとかカウンセリングに対して身近だと思っていましたが、日本ではまだ完全に身近な存在ではないと感じています。
日本だと、心の問題は、家族間で抱え込んでしまうケースが多く、海外のように気軽に病院以外の第三者に相談するというようなことにハードルの高さがあると感じていました。
箕浦 そうですね、日本だと身近に相談や解決する手段があまりないし、第三者に頼るというのも心理的な抵抗があって、広まっていかないという問題がありますよね
内田さん そうなんです。フジテレビの社員時代、メディアは緊急対応なども多く、ストレス負荷が多くかかる現場なのですが、ストレスで苦しんでいる人たちをたくさん見てきたので、そういう人たちが気軽に頼れる場があるということは、とても大切だなと感じていました。
そういった場として、マインドフルネスが活用できるんじゃないかと、ピッと直感的に感じました。
箕浦 なるほど。海外だと、セラピーとカウンセリングと並んで、自分一人でも出来るし、第三者である講師とのセッションなど、マインドフルネスの活用が広がってきていますよね
内田さん はい、日本でもそうなるといいですね。箕浦さんは、なんでマインドフルネスをはじめられたんですか?
箕浦 内田さんは、アカデミックな側面からマインドフルネスに出会ったということですが、私は、どちらかというとカルチャー的な側面からマインドフルネスに出会いました。
大学時代に、1年間休学をして、インドのゴアに1ヶ月ほど滞在していました。1960年代後半のヒッピー文化が、デザインとか、内面の豊かさを大切にする考えとか好きで、ヒッピーの聖地とされていたインドのゴアに興味があって行きました。
内田さん インドのゴアではどのような体験があったのですか?
箕浦 インドはヨガ発祥の地で文化として根付いているので、ヨガのクラスが至る所であって、滞在先であったクラスに参加してみて、クラスの最後に現地の先生がメディテーションを教えてくれて、そこではじめてマインドフルネスを体験しました。
当時は英語も分からなかったんですが、”Inhale(息を吸う)”・”Exhale(息を吐く)”という単語だけ、何とか聞き取って、見様見真似でやっていました。
ただ、数分間のメディテーションのあと、ものすごく頭の中がスッキリして落ち着いた感覚があって、それから瞑想を、時には音声ガイドも聞いたりして、習慣化しておこなうようになりました。
どうやってマインドフルネスを習得したか
箕浦 内田さんは、マインドフルネスを知ってからどのように習得されたのですか?
内田さん マインドフルネスを色々調べていく中で、日本だと教育機関で取り上げているところが少ないため、アカデミックに正しく学べる場所が見つからなかったのですが、米マサチューセッツ大学のオンライン講座を見つけて、8週間のMBSR(マインドフルネスストレス逓減法)プログラム*を受講してみました。
* MBSRとは、1970年代に米医学博士ジョン・カバット・ジンが考案した、ストレスを減らし慢性的な身体的な痛みを和らげる医療プログラム。医学的な効果が実証され、マインドフルネスが徐々に広まっていく機会となったプログラム
そしたら、脳科学をベースにすごくロジカルにプログラムが出来ていて、それがものすごく楽しくて、楽しくて。
箕浦 なるほど。それまでぼんやりしていたマインドフルネスのイメージがガラッと変わったわけですね
内田さん はい。そこからは、米スタンフォード大学の講座を受けたり。また、ドイツにあるヨーロッパ最古のマインドフルネスセンターであるIMA(Institute for Mindfulness-Based Approaches)の講師になるための講座を2年半ほど受けました。
箕浦 めちゃハマっていますね。
内田さん マインドフルネスは学べば学ぶほど奥が深くて。あとは、自分でプラクティス(実践)を続けていくということが大事なので、座学だけではなく、自分で習慣化して、実際に教えることで学んでいます。
日本だと体系的に教えてくれるところが少ないように感じ、私は海外のものをベースに習得しました。
箕浦 日本では、研究室ベース*ではマインドフルネスに取り組んでいるところはありますが、大学組織としての取り組みは慶應大学(ストレス研究センター)くらいで、まだまだのように感じます。
* Upmindでも、東京大学滝沢龍研究室と共同研究で、マインドフルネス瞑想の効果について実証実験をおこなっております(23年6月に研究進捗・成果を発表予定)
内田さん 日本でも、科学的なエビデンスベースで、きちんと学べる場所が増えていくといいですよね。
箕浦 内田さんが、そういったイメージを広めていかれるのに、Upmindとして非常に期待をしています笑
社会人時代のストレスに対するケアについて
箕浦 マインドフルネスに出会ったのは最近かと思いますが、フジテレビ時代などは、生放送などプレッシャーが大きかったと思いますが、どのように自身のケアを行われていましたか?
内田さん 会社員時代は、夜の生放送なども担当していて、生活リズムが逆になっていました。それでも朝に会社にいかないといけない時もあって、若さ、体力で乗り越えれていた部分はあったのですが、しんどい時もありました。
箕浦 今では働き方改革などもあると思いますが、内田さんが働かれていた当時は、相当きつい印象がありますよね
内田さん そのような生活をしていて、少しいっぱいいっぱいになってしまった時期があって、会社にあるクリニックに行ってみたこともあります。一日中、頭が起きずに、脳に霧がかかったようなモヤっとした状態で。
ただ、クリニックに相談に行くと、すぐに薬を処方されてしまって。自分はあまり今まで薬に頼らないタイプだったし、まだ薬を飲む段階でないと思っていたので、そうやってすぐに薬を処方されてしまうのに、怖さを覚えました。
箕浦 その体験が、冒頭にもあった、日本では、家で悩みを抱えるのと、病院にいく中間の手段がないという、内田さんの問題意識にも繋がりますかね。
内田さん はい。症状は一人一人違うので一概には言えませんが、薬に頼る意外にも自分を守ってあげる方法は他にもあると思います。
ただ、同僚と当時のことを話すと、そのときやっぱり私は疲れ切ってたよって言われます。約束を急にドタキャンしてしまったり。
箕浦 その時に、マインドフルネスのような手段を知っていると良かったですね
内田さん はい、ただ当時は知識はありませんでしたね。
ただ、仕事で、嫌な思い出は全くないんですよ。退職する時には、なんて楽しい時間を過ごしたんだと、自分では思いました。ですけど、やっぱり心と体は疲れていたみたいで、安心感からか、退職後に体中に湿疹がバーっと出てしまいました。
箕浦 心と体は正直ですね、安心感からそうなるという話はよく聞きますよね
内田さん 箕浦さんは、社会人時代どうでしたか?
箕浦 チームラボと、ベイン・アンド・カンパニーというアメリカの経営コンサルティング会社で働いていて、労働時間が長い業界なので、周りで体調を崩される方は多かったですが、自分は大丈夫でした。
基本、自分が楽しめる、人間としての成長につながる、環境に身を置くことを決めているので、そういう環境でなくなってきてしんどいなと感じたら、環境を変えてしまいます笑
内田さん 今も自身で起業されて忙しいと思いますが、いかがですか?
箕浦 いくらでも仕事があって出来てしまう世界なので、仕事の期限はあまり決めずに、疲れたなと思ったら、無理をせずに友達と飲みに行ったり、休むようにしています。
契約があると難しいこともありますが、仕事って、自分が大切だと思い込んでしまっているだけで、1,2日遅れてしまったところで、影響があるものって少なかったりします。
世の中は僕らが考えているよりはるかに複雑で、色々な事象の積み重ねでほんの少し変わっていくかどうか。そこに少しでも関われたら、ラッキーというくらい。
長期的に自分が意味があると思うことを続けていくことが大事だと思っているので、短期的に無理をしないようにしています。
フジテレビを退職されてから今まで
箕浦 フジテレビを退職されてから、コロナ禍でマインドフルネスに出会うまで時間があると思いますが、どのように心身のケアをされていましたか?
内田さん ケアではないですが、退職して、銀行の手続きなど自身ではじめてやることが多くて、あとは昼に外に出られることとか、ものすごく楽しくて。
また、一人でできないことが多かったので、周囲への感謝の気持ちを強く感じるようになりました。
箕浦 面白いですね、仕事と少し離れて、人間として地に足が付いた生活をすることで、楽しさや感謝を感じると。マインドフルネスと近い感覚があるように思います。
内田さん はい、そのあと子供も生まれてすぐ子育てに入って、子育ての大変さは今後もずっと続くと思いますが、一人の人間としてより豊かに時間をすごしたいという意識が、退職後は強まった気がします。
箕浦 子育てをされている中で忙しいとは思いますが、現在はどのようにマインドフルネスを生活に取り入れていますか?
内田さん 仕事も不定期であったりするので、毎日この時間というのはないですが、子供達を送り出したあとに、長くて1時間くらい、体を軽く動かしてメディテーションをしたりしています。
やはり、教えている自分がきちんとプラクティスをおこなっているということは非常に大切だと思うので、何とか30分とか、時間がない時でも続けるようにしています。
箕浦 分かります。私も5分とかでもいいので必ず毎日続けるようにしています。
できれば、30分とか。そのくらいきちんと時間を取った方が、その日の一つ一つの選択とか、自身に周囲にも優しく、自分らしくいれて、上手く暮らせている感覚があります。
マインドフルネスを始めてから変わったこと
箕浦 マインドフルネスを習慣に取り入れるようになってからの一番の変化は何ですか?
内田さん 箕浦さんが話していたような感覚と、私がはじめに気づいたのは子供との接し方になります。
箕浦 興味深いですね、どう変わりましたか?
内田さん マインドフルネスは自分自身に”気づく”ことで、自分が普段接している色んな人・モノに対しての接し方に気づきを与えてくれるように思います。
子供との接し方でいうと、無意識に”親は子供にいろんなことを教えてあげないといけない”と考えていました。
箕浦 なるほど。あとは”親は完璧でなくてはならない”とか
内田さん どうしても子供と話すときは、子供を一人の人間として尊重して話を聞いてあげるというより、親の立場から色々聞いてしまっていました。
また、アナウンサーが職業なので、間を埋めるというのが職業病で、どうしても私から色々話してしまう。
ただ、マインドフルネスを始めてからは、”こうした方がいいよ”とか言うのではなく、ただ子供に無言でただ寄り添ってあげるとか、そういった接し方が出来るようになりました。
箕浦 子供を一人の人間として尊重して接することができるようになったと。
内田さん はい。今では、ただ隣に一緒に座って、多くは話さずにただ一緒に呼吸したり。その時間が子供も心地よい時間みたいで。ちょっと子供が大変な時とかは、私から話さなくても、子供の方から「ママ、一緒に座って呼吸しよう」と言ってくることがありました。話をしなくても一緒に座っているだけで、お互いの存在を感じる。それだけで子供にとっては安心する材料になるんですよね。
箕浦 微笑ましい素敵なお話ですね。
内田さん 今の年頃になって、やっと色々気づけるようになって。当たり前だと思っていた常識とか価値観を、改めて見直すことができるようになった気がします。
箕浦 マインドフルネスの”気づく”力が教えてくれることって大きいですよね。
内田さん 箕浦さんは、何か変化とかはありましたか?
箕浦 心に余白を持てることで、自分らしい選択肢を取れるようになることと、内田さんがおっしゃったのと同じで自身や周囲への接し方の変化が大きいですかね。
個人個人で、色んな生き方や価値観があって、本来は許容されるはずなんですが、なぜか働きはじめると、多くの方が、”早く出世しないととか”、”年収が高い方がかっこいい”とか、誰が決めたかも分からない、均一した価値観に寄ってくるように感じます。そしていつの間にか疲弊してしまっていると。
マインドフルネスで心に余白を持つことで、そういった価値観に流されずに、自身にとって大切な価値観に気づいて、自分らしく選択を取れるようになるかなと思います。
内田さん 自身や周囲への接し方の変化はどうですか?
箕浦 心に余白がもてると、自身にも周りにも優しく接することができるようになりますよね。
自身に対しては、今日は疲れているから、頑張ったからもういいやとか、無理をしない。
また、周りに対しては、周りがいて自分が存在する。そういった繋がりに気づけるとより周りに感謝できるようになりますよね。仕事で心に余裕がなくなって、本来言いたくない暴言を周りに吐いてしまっている人とかを見ると、マインドフルネスが広がって気づいてくれたらいいなと感じます。
内田さん まずは、”気づく”ってとても大切ですよね。
マインドフルネスをこれから広げていくには
箕浦 マインドフルネスを教える時に心掛けていることはありますか?
内田さん 教える立場ではありますが、マインドフルネスを実践して気づいて感じることは、みんなそれぞれ異なるので、基本的なスキルを教えるだけで、あとは一緒にやろうねという感じで、どういう気づきがあるとかは、教えないです。
箕浦 教えるって深いですね。むしろ教えずに、自身で気づいてもらった方が、学びになると。
内田さん 教えられた感覚よりも、自分のプラクティスを通じて気づいた感覚の方が、一生に残ると考えています。なので私は教えるという立場ではなく、マインドフルネスのスキルの使い方を皆さんに伝えていくという立場です。
箕浦 今後、内田さんはマインドフルネスを広げていくためにどのような活動をされていく予定ですか?
内田さん ”kikimindfulness”でオンラインなどを通して活動を続けていくのと、西洋医学のエビデンスが出てきているものの、まだ世代によっては、あやしいものと思われている方もいるので、そういった取り掛かりにくいイメージを変えていきたいですね。
自分で調べていても、どこが正しく教えてくれるところか分からなかったので。
箕浦 そうですね。親には今でもマインドフルネスの事業について反対されています、誰が価値を感じるのかと笑
ただ、科学的に効果があるという側面を上手く伝えたり、海外ではスタイリッシュなアプリやスタジオなどもあって、ライフスタイルとして根付いてきていたりもするので、若い世代のマインドフルネスへのイメージは、今後、少しずつ変わっていく気がしています。
内田さん 日本は、自身よりも他の人を優先としてしまう文化が根付いているので、もう少し自身と向き合う、自身をケアするように変わっていくことも必要かもしれないですね。
箕浦 はい。あとは病院にいくコストが日本は安いので、予防への意識が低いのも広めていく上でのハードルかもしれないですね。心の不調の予防にお金を使うというのが更に抵抗があると思うので、海外だと企業とか大学がマインドフルネスのサービスを従業員や学生に無償提供していたりしますが、そういった仕組みも必要なのかなと思います。
内田さん 話は少し変わりますが、昔から文学が好きで、ヘッセとか海外の詩集を読むのですが、晩年になると、みんな、結局、人生に大切なものについての詩が多くなる。それがとてもマインドフルネスの考え方と共通している部分が多いのです。
箕浦 興味深いですね。人生は有限なので、年を重ねていくときにどこかのタイミングで、今生きている人生は本当に幸せなのか。自分にとって何が残りの人生で大切なのかを考えて、マインドフルネスに行き着くのかもしれないですね。
年を取れば取るほど、自然と気づく機会は増えるので、高齢化社会の日本では、20,30年後とか自然に広まっているかもしれないですね笑
内田さん 箕浦さんは、今の年齢で気づいたのは早いですね。
箕浦 自由に自分の好きなことをやってた方がかっこいいみたいなところが多分価値観のベースにあって、マインドフルネスが相性が良かったんだと思います。
内田さん マインドフルネスが広がると、すごい優しい社会になると思うし、自分もそのままの自分でいていいという実感、そして他人に対してのリスペクトも生まれてくると思います。
箕浦 マインドフルネスされている方と大体こういう会話になります笑
是非、内田さんに広げていって頂きたいです。
「内田さん、お話しさせていただけて楽しかったです。今後のご活動も応援しています!」
対談を終えて
お子さんとの接し方の話が特に印象深かったです。
私たちは、日常生活でも、仕事でも、他人と話して理解しよう・理解してもらおうとしますが、時にはただ優しく寄り添ってあげることが大切な時もあること。
マインドフルネスの基本は「気づき」と「受容」。ただ、優しく寄り添ってあげる(受容)ということも、より実践していかないといけないなと、あらためて気付かされました。
今後の内田さんの活動が楽しみです。Upmindでも、共にマインドフルネスを広めていけるように、今後活動を広げていきたいなと思わさせてもらえる時間でした😌
代表取締役(箕浦 慶)プロフィール
オーストラリア・パース生まれ。2015年に東京大学工学部を卒業、チームラボに入社。2016年までスマートフォンアプリのエンジニアとして開発業務に従事。2017年に米Bain&Company(戦略コンサルティングファーム、東京支社)に転職し、経営戦略の立案に従事。2021年にUpmind株式会社を設立。瞑想歴はゴア(インド)で体験してから10年以上。
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