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UPGRADE with TOKYO 令和4年度 成果報告会

UPGRADE with TOKYOの成果報告会を実施

「UPGRADE with TOKYO」では、ピッチイベントがスタートした令和元年度の第1回から、4年度の第27回までの足跡を振り返る成果報告会を実施しました。

協働実積率は8割に達する

これまでの事業実績について、東京都産業労働局商工部の三角知恵人 創業支援課長より、説明を行いました。これまでの応募件数は延べ403社で、1テーマあたりの応募件数は約15となる計算です。優勝社等と都の関連部局等によるプロジェクト組成件数は32件。1社が複数の部局等と連携したケースもあります。また、組成した中から契約を結んだり、イベントにスタートアップのプロダクトを導入したりする協働実積率は8割に達しました(※実績は成果報告会開催日時点)。ただ、優勝社を対象にしたアンケートによると満足度は57%と6割に達しておらず、「来年度はもっと高めていきたい」(三角課長)と述べました。

5年度からは年度をまたいだ切れ目のない協働を可能に

令和5年度の事業展開について、新たな方向性を打ち出しました。従来の協働は東京都の部局だけが対象でしたが、区市町村や都の外郭団体のピッチイベントへの参加を可能にします。これによって、スタートアップの協働機会は倍増する見通しです。また、協働に至るまでの期間を大幅に短縮させるほか、年度の事業実施ではなく年度をまたいだ切れ目のない協働を可能にします。一連の取り組みによって「協働実績を増やし、満足度の向上を目指す」(三角課長)考えです。

「スタートアップと行政の連携の意義」をテーマに特別講演を実施

オープン・イノベーションは当然という意識を持つことが必要

また、最終報告会に併せて、事業構想大学院大学事業構想研究所の河村昌美教授が「スタートアップと行政の連携の意義」と題した講演を行いました。河村氏は前職で横浜市役所に勤務していた時、企業と行政のマッチング、コーディネートなど数百件の案件に携わっています。その経験を踏まえ「行政だけで解決できる課題は今の世の中でほとんどない」と指摘。オープン・イノベーションは当たり前だという意識を、特に行政職員が持たなければならないと強調しました。

共創の原則が重要だと強調

地方自治体とスタートアップの連携によるメリットについては、(1)地域の課題解決や自治体の業務効率化につながる(2)新たな技術、発想、サービスを地域課題解決に得られる可能性が高まる(3)行政が苦手なリーン・スタートアップ(仮説構築・検証を繰り返して最適なソリューションを創出する事業構想手法)を民間主導で実践できる-などを挙げました。

自治体とスタートアップの関係性を構築・維持するためには、両者の考え方、活動スタイルの違いを理解し乗り越えていく「共創」の原則が重要だと述べました。スタートアップは問題解決を図りながらスピーディーに業務を進めるスタイル。これに対し自治体は、ルールや過去の経験・事例を参考に段階的に業務を進めていきます。両者がこうしたお互いの経験を尊重し、意識的に歩み寄ることが共創につながるという訳です。

高齢者が困っていることを自治体と一緒に聞くことが、連携のためのカギ

また、スタートアップは、技術開発に由来するプロダクトにこだわる傾向が強いと言われていますが、それだけでは実際の地域・現場にある課題の解決は難しいと指摘。例えば、地域に住む高齢者が何に困っているのか・望んでいるのかを、自治体と一緒に観に・聞きに行くことが、連携のための最大のポイントだとしました。

河村教授自身、この1年間で200近い新規事業の指導に携わってきましたが、フィールドリサ―チをしっかり行った事業は、「これはうまくいくなあ」と感じることが多い半面、十分に行っていない事業は、うまくいきそうな事業構想は難しいと感じるそうです。フィールドリサーチで気を付けることについては、解決に値する問題・課題を見つける「問い」を作るところと自分の事業の仮説検証をする段階をしっかりと分けて、自治体や地域住民と一緒に仮説検証できればうまくいくと強調しました。その意識を忘れずに「現場の本当の問題は何なのかを考え、自分のソリューションを、住民が人生・生活の一部を使ってまで利用してくれるのかという検証をしっかりと行うことが必要。そのためにも、自治体と組むことは本当に重要でメリットがある」と話していました。

東京都との協業による成果をパネルディスカッションで振り返り

成果報告会では優勝社がどういった形で東京都と協働し、成果を残したかについて振り返るパネルディスカッションも行われた。スタートアップ側からは第1回で優勝した株式会社Stroly(ストロ―リー)の高橋真知・代表取締役社長共同CEOと第17回で優勝したBRJ(ビーアールジェイ)株式会社の山上高広・BIRD事業本部課長が出席。一方、東京都側からはStrolyと協働した産業労働局観光部受入環境課の津田秀樹課長代理と、BRJ協働先である都市整備局市街地整備部多摩ニュータウン課の香野雅之課長代理が参加した。(司会はデロイト トーマツ ベンチャーサポートの會田幸男)

イラストマップと位置情報技術を組み合わせたプラットフォームを提供するStrolyが優勝したのは、2019年12月に開催された第1回。テーマは「 VR、AR、5G、ビックデータ、AI 等の最先端技術を活用して行う取組」で、協業成果の一つとして東京・新宿エリアの観光デジタルマップを公開した。マップ上には、新宿エリア内の観光スポットに関する情報が表示されるほか、バーチャルな観光体験が可能となる。
電動キックボードシェアリングサービスを提供するBRJが優勝したのは第17回(21年11月)で、テーマは「最先端技術を活用した南大沢のまちの活性化と移動利便性の向上」。昨年11月から今年3月まで八王子市南大沢地区で実証を行った。

当初目標よりも多くのユーザーが、観光デジタルマップを利用

――まずStrolyと東京都との協働について伺います。東京都には抱えていた課題、Strolyにはプログラムのどこに魅力を感じたのかについて教えてください

津田 観光分野では、最先端技術を活用しながら、誰もがストレスなく楽しめる環境の整備を目指していました。Strolyの評価ポイントは、デジタルマップを通じた特色ある観光案内です。実証では、2021年はコロナ禍の影響で旅前の情報提供として活用し、2022年は新宿区の歴史マップを題材にしてスタンプラリーを実施しました。アクセス数は5万6000回を超え、非常に良い成果を残すことができました。

高橋 2019年は外国人旅行客の数が過去最大でした。ただ、オーバーツーリズム(観光公害)といった問題が顕在化したため、地域文化や歴史の深掘りによって、「単なる消費に終わらない観光」といった部分を提案できたらという気持ちで応募しました。コロナ禍によって外国人がゼロみたいな感じになり、非常に不安な時期もありましたが、旅中の利用というよりは、旅前用のコンテンツとして観光デジタルマップなどを開発。バーチャルで旅をするなど、密を避けて地域の情報を把握できるものにしました。2022年度の検証では当初目標の数値よりも多くの方に使っていただき、いいデータも取得できました。

難題だった電動キックボードの拠点整備は、スムーズに決定

――香野さんにも、東京都が抱えていた課題とBRJのプロダクトの魅力を伺いたいと思います
 
香野 南大沢地区では、令和2年度からスマートシティ事業を推進しており、産官学連携した協議会で「先端技術を活用したまちづくり」に取り組んでいます。この事業はいくつかの面から推進していますが、「モビリティ」という観点では、地域交通の円滑化や高齢者の移動支援、ラストワンマイルの確保等が課題となっており、電動キックボードのシェアリングはとても魅力的なサービスでした。南大沢地区は、駅前を中心にコンパクトに大型商業施設や大学があり、その周辺に住宅団地等がありますが、丘陵地で坂が多くなっています。また、駅からの移動手段は約8割が徒歩の状況であり、特に歩行者等の移動支援として、電動キックボードは効果的と考えました。

――BRJは協働事業のどういった部分に苦労しましたか
 
山上 南大沢は丘陵地帯。電動キックボードの機能的なメリットを、存分に活かせる場所だとは考えていました。一方で、大きな悩みがありました。坂道が多い場所のどこに電動キックボードの拠点となる駐車ポートを置けば、移動課題の解決につながるのか、という部分です。私自身、何度も足を運んだし、URなど団地を管理している団体からフィードバックをいただきました。「ここにポートを置こう」と決めても、1民間事業者だけではハードルが高いですが、結果的にスムーズに設置できたことは東京都と組んで良かった部分です。

安全性をPRするため3回にわたり試乗会を実施

――東京都が存在するゆえに、地場の企業などとコミュニケーションを取りやすかったことですね。検証は、どういったフェーズにありますか
 
山上 4カ月間にわたって検証しましたが、まだまだ特定の人しか利用していません。電動キックボードは自転車と異なり、小さいころからまったく乗ったことがない乗り物。自分が乗れるのかという不安を感じたり、実際にどういったルールで乗ったらいいのか、といった部分がハードルになっていて、利用まで足を踏み出せない人が少なくありません。触れる機会を引き続き作っていく必要があります。

――東京都は、どういったところが大変だと感じましたか

香野 導入にあたって「ポートの設置」では、事前の十分な現地調査はもちろんのこと、施設管理者さんとの十分な調整が必要でした。この調整では、サービス内容や必要性を繰り返し説明したり、協議会による文書依頼や、都による土地借用の仲介等の対応を行いました。また、新しい乗り物として、利用者への「安全面」の周知には注力しました。ちょうど別の場所で、電動キックボードの事故もあり、「安全な乗り物だよ」ということを認識してもらえるように、試乗会を3回実施し、住民の方に乗っていただいたり、操作法を教えたりしました。その他、施設管理者や地域関係者と協議し、このエリアは走ってはだめだという「ノーライドゾーン」をどこに設置するかといった調整を、地道に進めました。

――Strolyとの取り組みでも、事前の関係者を含めてのコミュニケーションは大事だと思う局面はありましたか
 
津田 自治体では上層部から、「あれはどうなっているんだ」とかなり突っ込んで聞かれます。双方向のコミュニケーションを緊密にして、最終的にどういった目標に向かって製品・コンテンツを仕上げていくのか、という部分の理解を深めていくことが重要だと感じました。また、自治体側は手続きやスケジュールが決まっているケースが多い。こちらの意図を説明しながらスケジュールを明確にして、認識をすり合わせるという作業も不可欠です。それがどのタイミングで、どういったものが必要なのかについて、丁寧に説明をしながら進めていきました。

都内のさまざまな自治体とコラボレーションを

――これから社会実装に取り組みますが、決意を教えてください
 
高橋 東京都との取り組みでは、バーチャルで遊んだりスタンプラリーで回ったりと、色々な機能の開発を行えました。スタンプラリーは周遊のインセンティブとなるため、われわれが想像したよりも街歩きを楽しんでくれたという結果が出ました。ピッチ時には、東京都の離島も含めて色々なマップをデジタル化しインタラクティブにしたいという話をしていました。こういったノウハウを、都庁の皆さんに限らず色々な自治体の人に提供しコラボレーションしたいですね。

津田 自治体側も積極的に提案することが大事だと感じました。観光デジタルマップには最終的に100スポット以上を掲載しましたが、新宿区役所や観光協会にはわれわれの方からアプローチして掲載の許可を頂いたり、飲食店にも直接電話して了解を取ったりしました。こちら側からも提案して、「ぜひより良いものに一緒に仕上げていきましょう」いった形で取り組むと、非常に良い結果が出ると感じています。

山上 単独で電動キックボードを広めるとなると、社会的な信用度がなかったりするため時間を要します。そのところをブレイクスルーできたのは、東京都と組んだおかげだと思っています。電動キックボードは今年7月に道路交通法が改正されて、より幅広い方に使っていただけるようになります。また、4月には一定条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」の公道走行も解禁され、モビリティ事業の受け皿はどんどん整っています。果敢にチャレンジすることを忘れずに事業を進めたい。

香野 今後は「持続可能性」という観点が重要になってくる。そのためには「官民連携」が必須である。民間の立場では、サービスの導入にあたり、事前の現地調査や市場調査がとても大事である。また、現在実証しながら、データにより評価・検証をしているが、今後も独り立ちして継続できるよう、サービスの改善や低コストによる運用、需要や収益性を考慮した事業の拡大・縮小を考えていく必要がある。一方、行政の立場では、導入時において、国や市を含む金銭的な補助ができれば良い。また、お金をかけないまでも、協議会等による協働実施、取組の広報PRのほか、事業者の公的認定による企業価値の向上等も考えられる。その他、行政が持っている多様な情報の提供や、可能であれば、地域の将来計画等への位置づけができれば良い。これらの取組により、官民連携を進めやすくなると考える。

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