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臨海副都心の人流解析で東京五輪を成功に導く。今後はスマートシティ領域などで貢献(第12回優勝社 株式会社ナイトレイ)

ナイトレイ(東京都渋谷区)との連携

東京五輪は新型コロナ感染症(COVID-19)の拡大の影響で1年延期となり、2021年7月から8月にかけて行われました。しかし感染の急拡大に歯止めがかからず、4度目の緊急事態宣言下での開催となり、感染爆発を未然に防げるかどうかが東京都や都民の最大の関心事でした。このため競技会場や選手村が集中する臨海副都心の人流をスピーディーに見える化し、必要に応じて感染拡大の予防措置を取ることを課題に掲げ、株式会社ナイトレイ(東京都渋谷区)と協働し、安心安全な大会の実現を目指しました。

人流ビッグデータを踏まえ、地域を分析

ナイトレイがイベントに登壇したのは、東京五輪直前の2021年6月。テーマは「臨海副都心をデータで見える化」で、タイミング的にも感染爆発が不安視され、情報を収集する高度な仕組みが求められていた時期です。「すぐにでも使える技術だ」。審査員の間でナイトレイの発表に対する評価は高く、優勝が決まりました。同社のサービスは「CITY INSIGHT(シティインサイト)」。独自の手法でSNS解析データや携帯基地局データなどの人流ビッグデータを収集解析して、地域における人々の移動・滞在活動や行動傾向を可視化、分析します。

CITY INSIGHT

採択後1カ月の間に準備を行い、成果を残す

五輪では、感染防止に向けて大会関係者らと外部との接触を断つバブル方式が導入されました。ただ、臨海エリアは海外から来た関係者や国内のスタッフ、観光客で人の移動は活発化することが予測されていたため、高度な対策が求められていました。しかも開幕したのは7月23日。採択が決定して1カ月しかありません。何よりも初動が大事なだけに急ピッチで準備を進めました。人々の移動・滞在に関する実態をデータから読み解き、想定外の行動や予兆があれば、東京都が即座に情報発信するという態勢で臨み、人流データの解析に着手。幸いにも感染爆発につながるような問題は生じませんでした。

まちづくりに必要なデータの収集に相性が良い

ナイトレイのサービスは、カメラの設置など大掛かりな下準備を必要とせず、人流を解析できる点が特徴です。この実証実験を通じ明確になったのは、まちづくりに必要なデータの収集に相性が良いこと。このため五輪後の次のステップでは、東京都港湾局と臨海副都心の民間協議会(DIC協議会)が目指す新たなまちづくりのロードマップ実現をサポートすることが目標となりました。それに向け2021年12月から2022年1月にかけて、臨海副都心への来訪者の動態分析を行いました。2021年12月30日から31日にかけては、日本最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット99(コミケ99)」が2年ぶりに開催されるなど、人流解析には適した時期でした。

想定外の人の流れも把握

その実証実験では、複合商業施設「有明ガーデン」に特定の時期や時間帯に滞在している生活者や来街者が意外に多いことなど、想定していたものとは異なる結果も得られ、SNS解析データから要因を推測することもできました。また、お台場エリアの勤務者や来街者が、どういったルートで周遊しているのかなどの傾向も把握できました。臨海副都心では回遊性の向上が課題となっているだけに、一連の実証実験をさらに発展させ、東京都が目指すデータを活かしたまちづくりにも貢献していくことが目標です。

株式会社ナイトレイとの協働について東京都港湾局の担当者へインタビュー

臨海副都心の課題にアプローチしたUPGRADE with TOKYO第12回。優勝社が選ばれたポイントや協働の進捗について、東京都港湾局の担当者にも話を聞きました。

――第12回のテーマを「臨海副都心をデータで見える化」とした理由は何ですか

臨海副都心ではスマートシティ化を目指し、研究機関、地元企業などと「Digital Innovation City(デジタル イノベーション シティ=DIC) 協議会」を立ち上げ、デジタルテクノロジーの実装とスタートアップの集積を目指しています。
スマートシティ化を進めていくうえで、データ活用が重要と認識していたのですが、都職員やエリア内の事業者だけでは最先端技術をキャッチアップするのは難しく、行き詰った状態でした。そんな時、ピッチイベントのお話を伺い、「臨海副都心をデータで見える化」をテーマとして参加させていただいた次第です。

――スタートアップの発表に対しては、どのようなことに期待していましたか

スタートアップは先進的な取組を進めているところが多いと聞いていたので、現状を切り開くヒントになりうる、新しい発想のソリューションを提示していただけることを期待していました。また、年度内には実証に取り組みたい、と考えていたので、フットワークの軽さを活かした提案がないかという点も期待していたところです。

――ナイトレイが優勝した要因は

当時は東京五輪という巨大イベントが間近に迫っており、これを意識したデータの利活用に向けた測定・解析を迅速に行えるというスピード感が魅力的でした。
また、データという実態のないものに対するつかみどころのなさに、課題解決の難しさを感じていたところ、人流データに加えてSNSの発信データも活用することで分かりやすく可視化する、という切り口が示されていたことも注目した点です。

――ナイトレイとの協働では、どんなところに可能性を感じましたか

ナイトレイさんとの協働をきっかけとして、事業のイメージが具体化され、データ活用のためのプラットフォーム構築に向けて、協議会内で活発な議論ができるようになりました。プラットフォームの構築は容易には完成しない大きな事業ですが、今回の協働で触れた(短期間で検証や改善を繰り返す)アジャイル的な取り組み方は、今後も事業を進めていく中で重要な発想だと感じます。

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