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「マンガ原画展ツーリズム」宣言! 〜推し活とも聖地巡礼とも違う「あの頃へ旅する」コト!〜


■「ニュー・ツーリズム」の中の「コンテンツ・ツーリズム」

「ニュー・ツーリズム」という観光用語があります。
従来の旅行とは異なり旅行先での人や自然との触れ合いが重要視された新しいタイプの旅行ということですが、「ニュー・ツーリズム」も細分化され「スポーツ・ツーリズム」「コンテンツ・ツーリズム」などの言葉もよく聞くようになりました。

「スポーツ・ツーリズム」とは、スポーツを観戦しに行くための旅行およびそれに伴う周辺観光やスポーツを支える人々との交流などスポーツに関わる様々な旅行のこと。

プロ野球でいうと熱狂的な阪神タイガース・ファンがタイガースの試合を追いかけて、全国各地を巡り、試合会場がある現地で観光したり、消費活動を行う、というのがわかりやすい例です。大谷翔平選手を追いかけて、渡米して、メジャーリーグの試合を会場で見るのもそれに当たると思います。

追いかけたくなるほど好きなチーム、スポーツ選手、歌手、俳優、キャラクターを応援することを「推し活」といい、少し前まではオタクだけの活動でしたが、「オタク」がメジャーでポジティブな言葉になった現在、大手を振って「推し活」を公言するオトナが圧倒的に増えました。

■「コンテンツ・ツーリズム」の細分化

「コンテンツ・ツーリズム」にはいくつか種類があります。
①ロケ・ツーリズム(映画やドラマのロケ地観光・聖地巡礼など)
②フード・ツーリズム(ご当地ラーメンめぐりやB級グルメ、ご当地食材グルメ観光など)
③産業ツーリズム(産業遺産や産業文化財などの見学や企業の製造工場見学など)
④アニメ・ツーリズム(アニメやマンガの舞台となった地域への「聖地巡礼」など)
⑤みちくさツーリズム(みちくさ学会で紹介されるようなマンホール蓋マニアによる撮影とコレクション、イベントなど)

▲「マンホールサミット2022 in所沢」に大集結したマンホールマニアたち

私が今回、ピンポイントで打ち出したいのは「マンガ原画展ツーリズム」というカテゴリーです。「アニメ」「マンガ」が入った用語はすでにありますが、「マンガ原画展とツーリズムを合わせた一つの単語」はまだ検索の結果ヒットしてはいません(2024年7月現在)。

④で挙げた言葉をちょっと掘り下げてみましょう。

④に含まれている「マンガ」は「アニメ化されたマンガ」の聖地巡礼ことだと考えます。それから、現在進行形で世界的ヒットを飛ばしているマンガの展示会です。

■マンガ作品の年代とターゲット・年齢層の問題

ご存知の通り、終戦後のマンガの歴史は(マンガの神様・手塚治虫先生の長編漫画単行本『新寳島』が刊行された1947年から数えても)70年は超えています。
そして、日本の「マンガ」のジャンルはかなり細分化されています。マンガ家人口も増えましたし、その作品数も膨大です。

▲「きたがわ翔原画展」…2024年も吉祥寺リベストギャラリー創にて7月30日まで開催中(写真は2023年の原画展の様子。左から、木村晃子先生、きたがわ翔先生、山田玲司先生)

日本のマンガは世界的にも大人気コンテンツとなりましたが、日本以外の国では「少年マンガ」「少女マンガ」「青年マンガ」というカテゴライズは知られていませんし、理解できていないと思います。特にヨーロッパでは日本のマンガは「娯楽」ではなく「芸術」として扱われています。日本でマンガ誌が誕生した時は読者の年齢・性別で分ける「少年誌」「少女誌」からスタートしました。これはターゲットの年齢・性別で分けるマーケティングが始まっていた証拠です。マーケティングが施されたということは芸術ではなくエンタメです。

この年齢・性別によるカテゴライズは近年あまり意味を持たないことになってきましたが、昭和40年代より日本のマンガで育ってきた「読者」からするとまだまだ大事なことではあるのです。

実は、マンガ原画展に足を運ぶお客さんの年齢は50歳代以上70歳代前半(2024年6月現在)中心です。その環境によってはギリギリ40代後半(アラフィフ)の人も入るかもしれません。

そして、この年齢層の人たちは、仕事的にも子育て的にも落ち着いてきた時期に入り、時間的、経済的、精神的にも余裕が出てきています。マンガを通じて昔を振り返ったり、子ども〜高校生(または大学生)の頃に読んだマンガを「懐かしい」と思い出し、あの頃の自分に還る機会を見出しているのです。

▲「松苗あけみ原画展」…作品数が膨大なので展示しきないと思われます。2024年、別の原画展の際にはまったく違う展示物が並びました。50歳代以上も何度も通い、毎年大盛況

この世代は、当時の世間の空気感から、アニメは小学生で卒業してしまうものと感じていたので(ボーダーラインは「ガンダム」にハマったかどうか)アニメで観光行動を起こすほどではありません(子育て中に子どもが見ているアニメや特撮物に一緒にハマるのは別のお話にします)。
また、現在ヒット中など、「大人になってから読んだ」マンガの展覧会は近所で開催されれば行きますが、別の地域にまで足を伸ばすことは稀です。

そうです! 前述の「④アニメ・ツーリズム(アニメやマンガの舞台となった地域への「聖地巡礼」など)」と、「マンガ原画展」に足を運ぶ人の年齢層が圧倒的に違うのです。

■「推し活」との違い

また、同じ人気マンガでも、「読んだことがある」「読んだことがない」「存在は知っている」「大好き」「推している」「実際に推し活している」「筋金入りのアニメオタク」と読者の年齢や種類は様々です。

つまり、足を運ぶ目的も違います。

従来の「アニメ・マンガの聖地巡礼やマンガ展覧会」のお客さんは、現在進行形の「推し活」やSNS発信がメインですが、マンガ原画展のお客さんは「懐かしい」「あの頃の自分」「最近のマンガについていけないから原点回帰」といった記憶を辿る旅なのです。

マンガ原画展のレポート記事はこちらをご覧ください。
『松苗あけみ、きたがわ翔…画廊系マンガ原画展や北九州市漫画ミュージアム[文月今日子展]が大人気の理由は?』

▲2022年6月に開催された「木村晃子原画展」も連日大盛況でした

また、前者のお客さんの層の中で、「ガチのオタク」と自負している人たちは「アニメ・ツーリズム」という用語でビジネス展開されるのを嫌います。「純粋に好きで訪ねている」のに最初からビジネス目的が見えると「あざとい」と嫌悪感を隠しません。

一方、後者のお客さん層(50歳代以上70歳代前半)はビジネス展開が見えようがあざとかろうが「○○ツーリズム」とカテゴライズされようが、あまり気にしません。

お金の使い方も違います。購入する物が違うのです。前者はグッズ類全般、後者はグッズ類よりも画集やオリジナルカラー原稿、カラー色紙など多少は高額でもお金を出します。オークションがある場合は、かなり熱くなり、負けたくなくなるようです。

ですから、「アニメ・ツーリズム」と「マンガ原画展ツーリズム」を一緒くたにせずに、分けて考えた方がいいと思うのです。

■「マンガ原画展ツーリズム」の具体的な例

個人的な例を挙げると、秋田県横手市にある「横手市増田まんが美術館」にて2024年春に開催された『原画収蔵記念 村上もとか展』(終了しています)は、スケジュール的に可能であれば、ものすごく行きたかったのです。ドラマも良かったですが、原作のマンガが非常に良いわけです。この原画展を見て、その後に秋田名物のおいしい横手やきそばや稲庭うどんをたらふく食べて、いぶりがっこと比内地鶏をお土産に買って帰ったら「マンガ原画展ツーリズム」でしょう。

▲「横手市増田まんが美術館」…初代名誉館長は「釣りキチ三平」の矢口高雄先生です

また、ながやす巧先生の「愛と誠」(原作・梶原一騎)は連載中にリアルタイムで読んでいたので、7/5〜8/20に旧尾崎テオドラ邸で開催中の『ながやす巧「愛と誠の世界展」』は個人的にど真ん中のドンピシャなのです。

「あの大仰な世界観!」「実写映画では、誠役は西城秀樹だったよね!」とか「文学を愛する美少女だと思ったらスケバングループの陰の大番長・高原由紀!」「彼女が常に抱えていたのってツルゲーネフの「初恋」だっけ?」とか「岩清水弘の名台詞、君のためなら死ねる!」と何故か熱くなってくるワケです。

▲明治の歴史ある洋館「旧尾崎テオドラ邸」はマンガ原画ギャラリーとしても大人気

この原画展を観に、別地方から東京に来て、ついでに歌舞伎町にゴジラタワーを見に行ったり、東京タワーに登ったりしたら「マンガ原画展ツーリズム」です。
でも、「アニメ・ツーリズム」ではないと思うのです。年齢層と目的が確実に違います。

そのあたりはちゃんと区別しておきたいと考えます。

こういった情報を紹介する側からすると、アニメやマンガに詳しくない人たちが主催・運営しているのが見えると、ちょっとだけ引いてしまいます。

でも、旧尾崎テオドラ邸の若いスタッフに「原画展が始まるので、この機会に『愛と誠』全巻読ませていただきました。すごくおもしろかったです!」と熱を持って言われると、シニア層も非常に好感が持てるのです。

「アニメ」「マンガ」どちらも「これぐらいの企画にしておけば客は来るだろう」と括られたり、一緒くたにされると、目的もハッキリしません。会場はしらけた感じになりがちです。

最初から区別しておけば、「マンガ原画展ツーリズム」に興味があるシニア層はちゃんと足を運びますが、どっちつかずだと、会場がカオスになっていそうと予想し、混雑が嫌なシニア層は足が遠のいてしまうのです。

そのあたりをハッキリさせるためにも今後は「マンガ原画展ツーリズム」を新しい用語として提言し、使用させていただきたいと考えております。

次に、「マンガ原画展ツーリズム」の展開案をご覧ください。

★『マンガ原画展ツーリズム』展開策

『マンガ原画展ツーリズム』の目的は以下の通りです。
・新たな旅行企画を立てることによって、国内(個人/中高年層)旅行のススメ
・マンガを通じて展開されるツーリズムの整理
・パクリや詐欺まがいの原画展開催の抑制・防止
・地方創生の新たな企画、きっかけ
・観光地の活性化
・「懐かしい」「大好きだったマンガと再会したい」「ファンだったマンガ家さんと会える」という中高年層マンガファンの「せっかく」+「ここまで足を伸ばした」+「ついでに」+「観光したい」という欲求を「併せて」満たす。
・マンガ原画の保護:マンガの原画は、人を集めることができる財産です。「文化財保護」の観点からも原画展を行うことは保管・保護を強化することになります。

この「マンガ原画展ツーリズム」の成功により最終的には、昭和〜平成と頑張ってきたマンガ家さんによる最新刊が続々と出版される世の中になることを目指します。

結果的に、漫画家さんたちが老後に絶望せず、伸び伸びと描き続けられる世界をつくりたい!と考えています。

●市場調査

ターゲット層の特定:主に50代以上のマンガ愛好者が中心となるため、その興味・関心を深く掘り下げます。
漫画家の要望:漫画家各人から「作品・活動に関しての悩み」「今後やりたいことなどの希望」「やってほしいことなどの要望」をうかがいます。
競合分析:他のコンテンツツーリズムやマンガ関連の展示会の現状と成功事例を調査する。過去のマンガ原画展の集客データを分析。

●パートナーシップの構築

①地方自治体や観光協会…マンガ原画展が開催される地域と連携し、観光資源と組み合わせたプランを提案。
②マンガ関連ミュージアムやギャラリー…マンガ原画展が開催される施設との企画からの連携
③出版社…出版社と協力し、独自の原画展を企画することも。
④漫画家団体…漫画家団体や団体所属の漫画家と連携。独自の原画展企画・開催も。
⑤漫画家…漫画家個人と連携(出版社が間に入った連携も)。
⑥旅行会社や鉄道会社…マンガ原画展とのツアー企画やコラボ企画連携。

●準備コンテンツの出版と発信

・「note」にて「マンガ原画展ツーリズム宣言」を公開(「note創作大賞2024」ビジネス部門エントリーにより(本記事)実行。
・出版…『マンガ原画展ツーリズム宣言』シリーズ(旅行体験取材・紹介)
①1つの原画展開催施設で1冊制作
②特定の地方で1冊制作
③全国各地で1冊制作(ライター1人が、マンガ原画展ツーリズムを実行し、取材・執筆)
④全国各地で1冊制作(複数人がマンガ原画展ツーリズムを実行し、取材・執筆し、1人が編集)
・動画制作…1本10分以内の動画を3本(3人)ほど制作し、YouTubeに公開する。

●原画展開催とイベント企画

・テーマ設定…「新刊出版記念の原画展」「昭和の名作マンガ原画展」や「特定漫画家の回顧展」など、テーマを明確にする。それにより、ターゲットも絞られ、よりスポットが当てやすくなる。
・原画展開催…実際に、原画展を企画・開催し、運営しながらも課題を探る。各方面の反応や意見・要望を見極めて、今後に繋げていく。
・関連イベント…原画展に合わせたトークショー、サイン会、ワークショップなどを開催する。

●プロモーション戦略

・SNS活用:FacebookやInstagram、Xなど、シニア層が多く利用するプラットフォームを中心に公式アカウントをつくり、プロモーションを展開する。

・プレスリリースにニュースを公開。地方紙や専門誌への記事掲載、地方局のテレビやラジオでの特集を依頼する。

●観光パッケージの開発

・周辺観光との連携:原画展開催施設と地域の名所やグルメを組み合わせたツアーパッケージを開発する。
・宿泊プラン:展覧会に参加するための宿泊プランを提案し、地元の宿泊施設と連携する。
・交通プラン:鉄道会社+自治体と連携し、原画展開催施設と地域の名所の観光を企画する。
(例:春日部市+東武鉄道+双葉社→クレヨンしんちゃん列車で、春日部の原画展施設へ)

●イベント終了後にも評価と改善を

・アンケート調査:展覧会参加者に対してアンケートを実施し、満足度や改善点を把握する。
・次回開催への反映:得られたフィードバックをもとに、次回以降の展覧会企画に反映させる。

▲「槇村さとる展」(終了しています)を開催した弥生美術館(東京都文京区)

今後、「マンガ原画展ツーリズム」は少しずつ少しずつ動いてまいります。
まずは、各所とコミュニケーションを図り、パートナーシップを結びながらも市場調査などを進めていきたいと考えています。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

記事内写真の撮影:清水亮一、田村裕未、魚住陽向(うおずみ・ひなた)

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