Speculative Designとは、何だったのか? #169
パーソンズ美術大学のTransdisciplinary Designにて、春学期のあいだSpeculative Designを勉強してきました。週2回の授業と毎回の課題に取り組むという生活を約16週間過ごして、Speculative Designについての理解が少しは深まったと思っています。そこで、「Speculative Designとは何か?」について学んだことを書いてみます。
未来とは?
Speculative Designのザックリとした説明として、「未来をデザインすること」という説明ができますが、そもそも未来とは何かから考えましょう。授業で示された表現を紹介します。
これらの特徴を図式化しているのが、Futures Conesです。未来はユートピアでもディストピアでもなく、現代と地続きの「何か」であるはず。でも、どんな未来が訪れるのかは誰にも予想がつかないという概念です。
つかみどころのない未来はたしかにフィクションと言えるでしょう。でも、そんなフィクションを語り合うことで、少しはより良い未来を生み出せるようになるのではないでしょうか。(ここでの「より良い」は誰にとっての「より良い」なのかという議論もありますが、今回は割愛します。)これがSpeculative Designに取り組む意味です。
似た分野との違い
Speculative Designとは何かをより明確にするために、似たような概念と比較をしてみます。未来を考えるといえば、サイエンス・フィクション(SF)があります。SFとの違いでいえば、SFの目的が「Entertainment」であるのに対して、Speculative Designでは「Statement」として未来を考えます。SFでは見る人が「面白かったね」という感想を抱けば成功かもしれません。一方、Speculative Designでは見る人に「こんな未来が実現したら、自分はどうするだろう?」といった疑問を持ってもらうことを目指します。
また、同じデザインの名を冠した「デザイン思考」との違いを考えてみましょう。デザイン思考では、ユーザーのニーズをくみ取って解決策を提示します。一方、Speculative Designでは、デザイナー自身の問題意識からスタートして、未来に起こりうる現象(問題)を現代に出現させます。"Do not try to find solutions"や"Not solve, but invent problems"とアドバイスされるように、問題解決ではなく問題提起をする点が特徴です。
そんなSpeculative Designの役目は、以下の言葉が端的に表していると思うので、引用します。日本語では、「想像できない未来は創造できない」という韻を踏んだ言葉もありますね。
Speculative Designはデザインなのか?
「問題解決をしない。むしろ、問題を生み出す」というと、「それはデザインなのか?」という疑問が生まれます。この疑問にどう答えるのかは人それぞれで、「未来に起こりうる問題を予め解決することにつながるからデザインだ」という答え方もできるでしょう。私の場合は、思考のプロセスがデザインと同じだからという理由で納得しています。
デザイン(思考)では、課題発見or課題解決、具体or抽象の2×2のマトリックスや、ダブルダイヤモンドモデルでデザインのプロセスを説明することがあります。以下の4つのステップを経る考え方を、デザイン的であるとしましょう。
Speculative Designでも、同様のプロセスを辿ります。この時の軸は、課題発見と課題解決の代わりに、現在と未来の軸になります。
Speculative Designでもこの4ステップで具体と抽象の世界を行ったり来たりするプロセスがあり、まさにデザイン的です。
Speculative Designの実践方法
では、具体的にどうやってSpeculative Designを実践すればいいのでしょうか。私が授業で学んだ手法は、主に「考え方」と「つくり方」の2つに分類できそうです。
どうやって未来を考えるのか
まずは、まだ誰も想像したことのない未来を考えるために、未来を予感させる現在の出来事(=Signal)を探します。これは多くの人が「こんな未来になりそうだ」と考えるトレンドとは違い、よりマイナー・ニッチな未来の兆候を指しています。探し方は自由で、日々の生活で経験した出来事であったり、ニュースサイトで見つけた記事であったりと何でもアリです。
そこから、Futures Wheelを使って誰も想像したことのない未来を考え出します。風が吹けば桶屋が儲かる的に、あるSignalから「こうなれば、こうなる」という連想ゲームをしていきます。ちなみに、Futures Wheelのテンプレートはネット上にいくらでもあるので、どれを使っても大丈夫です。
どうやって未来をつくるのか
起こりうる未来を複数考えた後は、自分が最も興味がある未来を一つ決めて、その未来を具体化していきます。この時に役立つのがアナロジーです。
「Signalで見つけた現象が別の場所でも起きるなら?」と考えるのが、未来に起こりそうなシナリオを考えるための簡単な方法です。また、STEEPという5つの観点から多角的に検討することで、シナリオをより具体的にしていきます。
そして、その未来を伝えるために、その未来を象徴する物を考えて具現化します。授業ではそれを「Container」と呼んでいましたが、その未来をどうやって具現化するのかは自由です。ビジネスの現場であれば、商品、サービス、15秒のCM動画などの指定があるはずなので、それに合わせてシナリオを表現します。今回の授業では、タイムズスクエアでパフォーマンスをするという形式でした。
Speculative Design的なマインドセットとは
Speculative Designの事例で紹介される作品からは、どこかユーモアが感じられます。デザイナーには、いたずら心や遊び心が求められると言えそうです。論理性で説得しようとするのではなく、感情に訴えかける。こどものいたずらのような作品で、「真面目な」大人たちが少し怒りそうなくらいがSpeculative Designっぽい印象です。個人的には、99台のスマホを使って、Google Map上に偽の交通渋滞を出現させたという作品がお気に入りです。
また、プロダクトデザイナーやグラフィックデザイナーは存在しても、「Speculative Designer」はこの世に存在しません。実際、この授業を担当した先生自身は「Speculative Designer」を自称していないようです。つまり、Speculative Designは、デザインの一分野というよりも、あくまでもデザインの手法・アプローチの一つと捉えた方がいいとのことです。
学びは?
授業で学んだことの中から大事なポイントを抜き出してまとめてみました。この授業で学んだことを一言でいうならば、「自分なりの方法論で、自分だけの未来・世界観をソウゾウ(想像&創造)すること」です。ここまでSpeculative Designの型を書いてみましたが、あくまでもこれは数多ある方法論の一つに過ぎず、自分なりの方法論を生み出せばいいと教わりました。その方法論を使ってオリジナルの未来・世界観をつくっていれば、それはもうSpeculative Designなのです(過言?)。
以前、「ミニマリズムは『道』たりえるか?」という記事を書きましたが、あの記事はSpeculative Designを意識して書きました。「茶道、華道、書道のように日常生活を芸術の域にまで高める日本文化の精神を、現代や未来に適用したらどんな『○○道』が生まれるのか」というテーゼを考えてみました。この時は仮に「スマホ道」を設定してみましたが、他にも現代社会を象徴するものを当てはめることができそうです。
「○○道」という領域にまで自分の考えが体系化された時、それは一つの世界観を構築したことになるでしょう。この授業でSpeculative Designについて学んだことを活かして、修士論文ではミニマリズムを中心にしながら自分なりの世界観を生み出すことを目指します。
おわり
Speculative Designについて学んだことを、整理してみました。より詳しく知りたい方は、まずは以下の動画と本を参照してみてください。この授業を担当していたElliott MontgomeryによるSpeculative Designの解説動画です(英語のみ)。
こちらは、同じく授業を担当したRadha MistryによるTED Talkです。
Speculative Designを提唱したアンソニー・ダンと フィオーナ・レイビーによる本も勉強になります。別の授業の課題として英語版を一通り読みましたが、Speculative Designとは何かを知りたい時に役立つ本でした。
私なりのSpeculative Designのまとめはこちら↓
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