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デザインは、コラボしてこそ意味がある。 #289

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designでの学生生活も残り9週間。今は卒業制作を通してTransdisciplinary Designを実践的に学んでいるのですが、この記事ではその学びを一旦整理してみます。

Transdisciplinary Designは「領域横断デザイン」などと訳されるように、分断された専門領域を横断しながら社会問題と向き合います。サイロエフェクトやセクショナリズムという言葉があるように、効率化を進めるためには分業が必要で専門領域が分かれていくのは自然なことなのですが、一方で専門領域同士のコミュニケーションが不足していきます。

そこで、俯瞰して見る人が必要になるのではないかというアイデアが生まれます。適材適所に人員を割り当てたり、シナジーが生まれそうな領域を組み合わせたりする人が必要という提案です。そんな役割を担うのがTransdisciplinary Designであり、特定の専門領域だけにこだわらない視点(メタ視点)を担当する立場だと理解しています。

デザイン自体がコラボレーションの産物

では、なぜデザインがTransdisciplinaryを担うのでしょうか? それはおそらくデザインの歴史が関係していると思います。そもそもデザインとは、今までは職人が手作業で作ってきた工芸品の美しさと機械による大量生産という規格化された作り方という当時としては相反するものをいかに両立させるのかという試み(アート&インダストリー)から生まれました。

つまり、歴史的にビジネスとアートの両方の特性を併せ持つので、統計的・定量的な分析をしながらも人文科学的・定性的な理解も忘れないという数字と感性のどちらの領域も含んでいるのです。だから、デザインは様々な専門領域とのコラボがしやすいのでしょう。


人類学とデザイン

そんなデザインがコラボレーションをする学問として最近ホットなものに、人類学があります。人類学は構造主義という現代の思考の枠組みの基礎にもなっているため、デザインに限らずどの分野においても関連性がある学問です。

たとえば、実際に現地で体験すること(フィールドワーク)の大切さや、全ての文化は対等である(文化相対主義)という常識は人類学由来と言えるでしょう。デザインでも「実際にユーザーのいる現場に行こう」とか「ユーザー中心主義・人間中心主義」という考え方がされるのは、人類学の影響があると推測しています。

私が人類学が他の学問と異なると思うのは、人類学は研究者自身の立場を意識しているという点です。たとえば、自然科学では観察する主体と観察される客体とがキッパリと分かれており、自分が自分以外の存在に影響を及ぼすことを考慮しなくてもよいです。

一方で、人類学はフィールドワークという人類学者自身が現場に出向くという研究方法を採用しているため、自分と相手との関係性が必然的に生じます。つまり、研究者自身が研究の一部とならざるを得ないのです。そこでは、いかに相手に受け入れてもらえるかが重要になるため、自分がどのように関わるのかが問われます。人類学とは自分の人間関係における癖も見えてくるという不思議な学問です。

人類学におけるこの「当事者性」を考慮する考え方がデザインにも役立つことが認められるようになり、デザインと人類学のコラボレーションが進んでいるのだと思っています。


コラボレーションのコツ3選

具体的にどのようにコラボレーションをすればいいのかについて、私が個人的に気を付けているコツを3つご紹介します。

1. コラボレーションは一つずつ

一度に3つ以上の領域をコラボレーションさせようとするのは難しいという経験則です。おそらく人間の認知の性質上、3つ以上の領域の共通点を見つけるのは難しいのでしょう。そもそも2つの領域をコラボさせるだけでも難しいので、人類学とデザインなどのように一つずつコラボしていくことが良さそうです。

私の場合は資本主義、哲学、メンタルヘルス、仏教など様々な領域に関心があったのですが、現在は「禅とデザイン」というテーマに絞って卒業制作に取り組んでいます。

2. 自分も当事者として参加する

部外者として知ったかぶりをするのではなく、自分も当事者として参加するのも重要です。複数の専門領域を俯瞰しようとする姿勢と全ての専門領域に深く関わることのバランスが求められます。

私の場合はパーソンズ美術大学でデザインを学ぶ学生であること、New York Zen Centerで毎週坐禅を体験していることによって、デザインと禅のどちらも当事者であるように意識しています。

3. 専門家になるのではなく、専門家に頼る

二つの領域で当事者になる目的は両方の領域を知るためでもありますが、一人で両方の専門家になる必要はありません。すでに専門家はいるのですから、それぞれの領域の専門家に頼ればいいのです。この時に、自分も当事者であれば親身になって助けてくれるはずです。

私の場合は仏教や禅にまつわる本で勉強するのに加えて、New York Zen Centerで禅を実践している人にインタビューをしたり僧侶の方に禅の教えを乞うようにしています。


まとめ

デザインがコラボレーションを得意とすること、私が学んだコラボレーションのコツ3選を紹介しました。Transdisciplinary Designとは、一見すると混ざり合いそうにない専門領域同士を共通の社会問題を見つけてコラボさせることだと感じます。まるで呉越同舟をデザインするかのようです。

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