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パーソンズ美術大学留学記シーズン3 Week9 #254

今週はハロウィンウィーク。店内や広告もハロウィン一色です。特に私はハロウィンらしいイベントには参加せず平常運転なので、いつもと変わらない一週間ではありましたが。

Professional Communication

今回は、先生と1on1で20分ほど話す機会がありました。テーマは何でもいいということだったので、先生が禅(曹洞宗)の実践者でいらっしゃることもあり、「禅や仏教の教えをどうやってデザインに落とし込むのか?」について話しました。

たとえば、資本主義では人間が欲望(ニーズ)を満たすことを原動力に成長する仕組みである一方で、仏教では欲望(執着)は永遠に満たせないので捨てるように言います。こうした資本主義と仏教という相反する二つをどうやって組み合わせるのかに興味があるということを話しました。仏教経済学など仏教の教えを現代版に翻訳する試みがあるのですが、私の場合は仏教(広く東洋思想)とデザインを掛け合わせるというのがテーマとなりそうです。

こうした悩みに対して、「考えたり調べたりするのも大事だけれど、デザインらしくプロトタイプを作ったりワークショップをしてみたりという実験をしてみるのはどうか」というフィードバックをもらいました。先生自身もoverthinkしてしまうので、私の悩みはよくわかるとのこと。

たとえば、今あるプロダクトやサービスの中から仏教らしさを感じるものを「理想のデザイン」として集めてみる。そうした前例を参考にしながら自分なりのプロトタイプを生み出してみることで、仏教や東洋思想とデザインの融合のコツが掴めてくるし、そのプロセスから思考も深まるのではないかという提案でした。どうやら思考と実践の往復を心がけてみるのが良さそうです。


また、自分のポスターについて学生同士でフィールドバックをし合う時間も先週同様ありました。今回のテーマは"Community of Practice"で、どんな分野で仕事をしたいのかを表す「地図」をつくるというものでした。

そこで、「思考の結果だけでなくてプロセスもポスターに載せてみては?」というフィードバックをされた時に、自分の生き方までが見透かされたような気がしました。それは自分の整えた部分だけを見せたいということ。

本当の自分を見せて嫌われるのが怖いといった気持ちがあることに気づきました。いわゆるATフィールド・心の壁を張っているのです。傷つきたくないというナイーブさでしかないのでしょうけれど。こうしたマインドセットをいつ身につけたのかはわかりませんが、先天的にせよ後天的にせよ心の底では他人のことを恐れている部分があります。

どうやら自分の作品は自分の心を映し出すようです。そして、私は少しずつ自分の内面を見せていく必要がありそうです。そんなことに気づかせてくれるフィードバックをできるクラスメートにも感心します。


Anthropology and Design

今週は、人類学者のLiliana Gilをゲストに招いてお話を聞きました。主にブラジルのファベーラにFabLabを設置して地域の活性化をするという活動をされていたようです。

まずは、「エスノグラフィーとは何か?」について。エスノグラフィーの原型がブロニスワフ・マリノフスキによって1920年代に生まれてから、数年単位で参与観察を行うスタイルが王道とされています。その一方で、ビジネスやデザインの現場でエスノグラフィーが使われるようになると、予算的な理由から数日から数か月単位で行うスタイルに変わり、市場調査や仮説検証としての方法論になっていきました。こうしてエスノグラフィーがもともと目指していた「行ってみなけりゃわからない」精神が廃れていることへの無念さがあるようです。

人類学におけるエスノグラフィーの特徴は「始めの疑問にこだわるかどうか」。もちろん研究をするという性質上、何らかの仮説を持ってフィールドワークを始めるのですが、その仮説を検証することよりも現場で何が起きているのかを観察する方が重要なのだそうです。"let the information tell us"という言葉もありました。

また、「イノベーションとは何か?」についても話しました。イノベーションという言葉が「より多くのお金を生むアイデア」という意味に偏り過ぎているのではないかという問題提起でした。

たとえば、FabLabはMIT発のコンセプトで「みんながテクノロジーに慣れ親しんでほしい」という狙いがあるようです。しかし、今回のフィールドワークの例ではテクノロジーを広める場としてよりも、コミュニティの集いの場として使ってもらうようにしたそうです。こうしたコミュニティの活性化の促進だってイノベーションと呼んでもいいのではないかという話でした。

人類学の知見をビジネスのためだけに使うのではなくて、社会的意義のある活動にも役立てられるという事例を知ることができました。


Thesis 1

先週に引き続き、修論計画をみんなの前で披露してフィードバックをもらう時間でした。発表内容の詳細は以下の記事に譲りますが、フィードバックをいくつかメモしておきます。個人的メモなのであしからず。

良かった点
・ライフスタイルをシェアできるようにするアイデア
・”Lifestyle as Social Practice”などの草の根運動的アプローチ
・「ノーテク」なプロトタイプおよびアプローチ

改善の余地
・ライフスタイルをどうやって共有すればいいのか?
・contextualization(文脈化: 誰のため? Transdisciplinary Designを使う理由)
・言葉の定義をより明確に(Lifestyle, Sane, Technologyなど)
・プロジェクトの進め方をどうするのか?
・How to scale(どうやって個人から社会へ?)

アイデア
・理想な世界を絵や動画で示す?
・subjectivity(主観性)をキーワードにする?
・個人と社会の利益のバランスの取り方を考えることになる?
・テクノロジーを使っていない人たちを調べる?
・行動経済学が役に立つ?

To Do List
・自分がキーワードとして使う言葉の定義を固めていく
・文脈を決めていく(誰の役に立つ? なぜデザインを使う?)
・何が分かっていて、何を分かっていないのかを明確にする
  ・分かっていることは言語化や図式化をする
  ・分からないことはどうやって調べるのかを考える
・自分のプロジェクトの強みを表すキャッチコピーを考える

手応え・感想
注意経済をテーマにすることやライフスタイルをデザインの対象にするという大まかな方向性は面白いと思ってくれそうなのでこのままキープ。ただ現状は自分の興味を示しただけなので、そこから自分がこのデザインに取り組む意義や、どんなデザインをしていくのかを具体化していく必要がある。

それにしても、人前で発表するのはどうしてあんなに緊張するのでしょう? 発表し始めると両手が急に震えだすのはやめてほしい。あとは、フィードバックをもらう時に「自分の人格を責められている」と感じるのか、気分が高揚してくるのもやめてほしい。


まとめ

今週は「自分の作品を人に見せる」ということについて考えることが多く、いつも『山月記』が頭に浮かんでいました。「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」が自分の中にあることを嫌でも自覚させられるけれど、それでも他人に見せることを続けなければ、独りよがりな虎になってしまいます。

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