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9月12日の手紙 プロジェクト・ヘイル・メアリー

拝啓

今日の空には鱗雲が浮かんでいました。
端が溶けかけているようでしたが綺麗に並んでいました。 
しかし、写真を撮ると、鱗雲には見えません。
スマホで写真を撮る才能が壊滅的にないようです。
目で見たようには撮れないのです。
それとも、
目のレンズには、すでに特別なエフェクトが入っているのかもしれません。
そのエフェクトが色々なものを美しく見せている、と推測して、人がひとり亡くなるということは、その人独自のエフェクトがかかった世界を2度と知ることができないと言うことでもあります。
きっと並んでみた同じ風景でも、微妙な色合いや空気感、陰影は違うのでしょう。
今日の空はかなり綺麗な青でしたが、写真に撮るとくすんでいます。
どちらが正しいのでしょうか。
見えた青を信じたい気がします。

現在、Audible(オーディブル)で、アンディ・ウィアーの「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を聞いています。
上巻の第6章あたりです。
非常に、面白い小説です。
もちろん、今回もSF小説です。

以前にも書いたように、SFを聞きたいのが今の気分です。
家事をしながら、不倫とか恋愛の話は聞きたくありません。
できるだけ目の前の現実から、遠い話の方が家事を無心にやれます。
宇宙と皿洗い、宇宙人とファーストコンタクトとクイックルワイパー、世界の命運と風呂洗いは、実は相性が良いのです。
目の前の作業が人類の歴史における必要な崇高な行為に思えてきて、やる気を減退せず、家事を遂行出来ます。
SF小説の登場人物は、
危機的状況の中でも、必死に生きています。それに比べると家事ができるってとっても平和なことのように感じるのです。
しかも彼らは地球の未来までどうにかしなくてはなりません。それに比べると、目の前のミッション(家事)は簡単です。手を動かせば終わります。

さて、今回の「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、
おすすめに上がっていて、口コミの評価が高かったので選びました。
作品はもちろんのこと、ナレーターの評価も良いのが決め手です。
登場人物の読み分けをしっかりしてくれるタイプのナレーターで、イメージがしやすいです。
主人公の声は、軽く明るく、その上司?の声は重々しく、ロボットの機械音声は端正に読み上げてくれます。

さて、著者のアンディ・ウィアーは
「火星の人」(マット・ディモン主演の「オデッセイ」として映画化)で有名なSF作家だそうです。
「オデッセイ」は聞いたことありますが、見てはないし、原作「火星の人」も読んでいませんでした。ただ、今作がとても良かったので、「オデッセイ」を先に見ても良いかもしれないと思っています。
もちろん、この「プロジェクト・ヘイル・メアリー」も映画化が予定されているそうです。
映画化が、かなり楽しみです。

タイトルにある「ヘイル・メアリー」とは、
「アメリカンフットボールの試合終了直前、負けているチームが逆転を期して放つロングパスのことだ。成功率は低い。」という意味だそうです。
日本語に直訳すると「一か八か計画」となりそうです。
内容は、そのまま、地球の危機に人類が英智を集めた一か八かの計画を行うが…というものです。

この作品の最も素晴らしいギミックは、冒頭、主人公が何も覚えていない点だと思います。
主人公が自分の名前も、いる場所がどこかも、そこにあるものが何かも、任務も、その経緯もわからず目覚めるところから始まります。
懸命に自らの記憶を思い出しては、行動するという、繰り返しが、読者(聴き手)にも非常に親切です。この小説の世界観やさまざまな経緯や科学理論が、平易に説明されるのですが、主人公に記憶がない、という設定があると、違和感ありません。
そして少しずつわかってくる過去が気になって、どんどん読み進めて(聴き進めてしまいます。)いけます。
わからないことが
少しずつ明らかになっていく様子が鮮やかで、感心しました。
文章表現は非常にシンプルで、わかりやすいのですが、それもこの設定にあっています。

主人公の口癖は「OK!」です。
茶目っ気があり、ふざけた言葉選びをする明るい性格のSF主人公…というのは驚きです。
SFの主人公といえば、「眉間に皺を作って、ため息をつく」とか、「意味ありげなセリフ」のイメージでした。最近まで読んでいた伊藤計劃の影響かもしれませんが、
懊悩する人間が主人公というイメージがありました。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の主人公も悩みますが、ぐちぐちと悩みにはまり込むことはなく、行動していくタイプです。しかも冗談を飛ばしながら。
おそらく、このアンディ・ウィアーという人がそういう人か、そういう人が好きなのでしょう。
「火星の人」の映画化「オデッセイ」の主人公も「冗談好きで明るく前向きな好人物」とWikipediaに書いてあります。「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の主人公も今のところ、そんな感じです。

時に軽薄にすら聞こえる無駄口が、主人公の持ち味と言えるでしょう。

仕事の行き来に、聞いていると、この主人公が元気をくれます。
「それは仕方ない」とか「うん…OK!」みたいな主人公の語りの影響で、こちらまで、「クヨクヨ考えても仕方ないじゃないか。仕事、まあやってみようぜ」というモードになります。

実際、この小説の中では、主人公のこの前向きさ、好奇心の強さが物語を展開していく力でもあります。

といって、このあと、主人公が、闇落ちするのかもしれません。
本をぱらぱら覗き見できない、Audible(オーディブル)の良さを最大限に生かしてストーリーを味わっているので、ジェットコースターに乗っているような気分でもあります。
さあ、次は?と考える暇もなく、ストーリーが展開していくので。

6章では、とうとう主人公は、目的地まで到達したようです。
これからどう展開していくのか…予想もつきません。
また読み進めていって、感想をお伝えしますね。

では、また。


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