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空山 非金
2023年11月24日 22:35
はじめに 本作は二〇二二年七月十四日に執筆した短編小説を一部加筆修正したものです。 コレクター スティールラックに余裕が無かった。 両手でそっと持つ兎のフィギュアに目を落とし、どうしたものかとその頬を撫ぜる。 ポリ塩化ビニルで作られた量産品の兎は、実際の、生きている彼らのシルエットを巧みに写し取り、片手で握り込める程の大きさに縮小されていた。 全体的に光沢が無く、目には白のイ
2023年11月10日 21:41
居処不明 湯気の上る珈琲を音を立てて啜り、口端を上げて、自嘲気味な顔を作る。 彼はそういう男だった。「両の足で大地を踏む感覚が薄いのは、此処に居ないから。 心の拠り所を決め兼ねていて、絶えぬ流れに押し出される儘で、何かに縋る程度の勇気さえ持ち合わせていないからだ。 だから僕は友に光を見るんだ。 心の拠り所が見当たらなかったというのは、それは詰まり、家にさえ居場所を見出せなかったか