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第1回 膵臓がんを知る -膵臓がんの基礎知識-

【5回シリーズ】 Face-off against Pancreatic Cancer -膵臓がんと向き合う-

第1回 膵臓がんを知る 膵臓がんの基礎知識
第2回 膵臓がんの診断 何故見つかりにくいのか?期待される診断法は?
第3回 膵臓がんの治療 現在の治療選択肢、そして限界と希望
第4回 膵臓がんの予防 どのように防ぐか、何が大切なのか
第5回 あまり知られていない、喫煙が膵臓がんのリスクであること

はじめに

私は横浜にあるUnMed Clinic Motomachiという内科クリニックの院長をしている髙倉一樹と申します。

クリニックの名前の由来は、患者さんが今本当に必要としている医学的な要望(英語で”Unmet Medical Needs”、アンメットメディカルニーズと言います)に微力ながら応えていきたいという私の思いから来ています。

医師になって開業するまでの約18年間を都内大学病院の消化器・肝臓内科で過ごし、多くの膵臓がん患者さんの診断や治療に携わらせて頂きました。また、米国ロサンゼルス留学中に、膵臓がん細胞や膵臓がんモデルマウスを用いて膵臓がんの基礎研究を必死にやりました。“臨床”と“研究”、それぞれの側面からこの病気がどういうものなのか、それなりに理解しているつもりです。

有名人ではAppleの創始者であるスティーブ・ジョブス氏(正確には膵臓がんではなく、膵臓に出来た内分泌腫瘍ですが)や、大相撲の九重親方(元横綱 千代の富士)、そしてプロ野球の星野仙一氏など、数多くの有名人の方々がこの膵臓がんによって若くしてお亡くなりになっています。

恐らく、皆さんの中にも「膵臓がんは、なったら治らない!怖い、難しい病気」という認識はあるかと思いますが、なぜ見つかりにくいのか、なぜ治らないのかなど、膵臓がんに対する判然としない疑問をお持ちの方がほとんどではないでしょうか。まさに”Unmet Medical Needs”の高い病気の代表格と言っていい病気です。

そして今、日本で膵臓がん患者さんは確実に増えているという事実。

そこで、これまでに私が学んできたことや経験してきたことを踏まえ、今を生きる私たちはこの”Unmet Medical Needs”の高い膵臓がんをどう理解し、どのように立ち向かうべきか、そして何が出来るのか、何をすべきなのか、私なりにまとめることにしました。

私がキャリアの中で執筆してきた論文も引用しておりますので、英文ですが、ご興味のある方は是非ご一読下さい。テーマごとに第1回~第5回まで分けて解説します。読んで頂く皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。

執筆:髙倉一樹

<略歴>
私立 精華小学校卒
私立 栄光学園中学・高等学校卒
東京慈恵会医科大学 医学部卒
東京慈恵会医科大学附属病院、川口市立医療センター、東急病院等、複数の総合病院で消化器・肝臓内科医として勤務
David Geffen School of Medicine, University California Los Angeles(UCLA) に2015年4月~2017年9月まで2年半、客員研究員として留学
2021年2月、地元横浜元町にてUnMed Clinic Motomachi 開業

<資格>
医学博士
日本内科学会認定医 / 指導医
日本消化器病学会専門医 / 指導医 / 関東支部評議員
日本がん治療学会認定がん治療専門医
日本禁煙学会認定指導医
日本医師会認定産業医
難病指定医

<論文業績>全て英文ですので、ご参考までに。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=kazuki+takakura&sort=date

第1回 膵臓がんを知る -膵臓がんの基礎知識-

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まず初回は、膵臓がんとは一体どんなものなのか、その基本的な知識について皆さんに出来るだけ分かりやすく解説したいと思います。

1. 膵臓がんとは

まず膵臓はどんな形をしてどこにある臓器なのでしょうか?胃の後ろ側にあり、長さ20cmほどのひらがなの“へ”の字のような形をした左右に細長い臓器です(図1)。

左側から頭部、体部、尾部に分かれ、頭部は十二指腸に囲まれており、尾部は脾臓と接しています。膵臓の中には、膵管という膵臓で作られた消化液が通る細長い管が網の目のように走っており、主膵管という1本の管に集まって十二指腸内に流れ込むようになっています。

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図1:膵臓の解剖(出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)

膵臓には主に2つの役割があります。食物の消化を助ける消化液である膵液を作り分泌すること(外分泌機能)と、血糖値のコントロールに欠かせないインスリンなどのホルモンを作り分泌すること(内分泌機能)です。

この膵臓から発生する悪性腫瘍の9割以上は膵管にできるので、一般的に膵臓がんというと膵管がんのことを指します。膵臓は胃の裏側の深い部分にあり、他の臓器や多くの血管やリンパ管に囲まれているため、腫瘍があっても見つかりにくく、診断のために組織を採取するのも大変です(今は超音波内視鏡という技術の進歩で検体採取はしやすくなりました)。

そして、早期の段階から周囲の組織に浸潤(がん細胞が大きくなり直接周りに拡がること)したり、他の臓器に血流やリンパ流を介して転移したりするのも特徴です。

膵臓がんが周辺の血管などに浸潤すると手術で腫瘍を取り切れなくなるため、結果的に約8割以上の膵臓がんの患者さんが外科的治療を受けることが出来ず、内科的治療(抗がん剤など)を選択せざるを得ないのが現状です(詳しくは第3回の中で解説します)。

膵臓がんで亡くなられる方の数はこの30年で8倍以上に増えており、全国のがん患者さんの統計結果を見ると、膵臓がんの死亡数は男女共通では肺がん、大腸がん、胃がんに続き第4位となっています (図2)。

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出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

現在、日本全国で1年間に約41,000人程度の方が膵臓がんと診断されていますが、10年20年前よりも確実に増加傾向を示しており、2030年にはなんと肺がんについで第2位になるのではと予想されています。

膵臓がんについては、患者さんの数が増えているのも怖いことですが、さらに予後の悪さが断トツ1位であることが大きな特徴です。

膵臓がんの診断を受けてから5年以上生きられる方はわずか7%程度と言われています。その理由については第2回で詳しく説明します。

また、50歳頃から増え始め、年齢と共に発症率も上昇し、女性よりも男性にやや多い傾向です。喫煙、膵がんの家族歴、糖尿病、慢性膵炎などとの関連が指摘されています。該当される方は、より注意して頂きたいと思います。

2. 膵臓がんの原因

特定の原因は明らかではありませんが、今までの研究で膵臓がん発症の可能性を増加させる特定の危険因子は同定されています。

喫煙(第5回に取り上げます)、加齢、肥満、膵臓がんの家族歴、糖尿病、慢性膵炎などがリスク因子であることが分かっています。

家族歴については、親や兄弟姉妹など血縁関係者の中に膵臓がんの患者さんが2人以上いる場合、家族性膵臓がんと見なされ、それが3人以上になると50歳以下の若年期に膵臓がんを発症するリスクが高まると言われています。

慢性膵炎は、習慣的に多量のアルコールを摂取する人に加え、最近では強いストレスにさらされている人や脂肪分の多い食事を取る人が増えたことで、患者数が増加しています。その慢性膵炎の死亡原因として最も多いのが膵臓がんなのです。

また、糖尿病にかかっている人は、糖尿病ではない人に比べて膵臓がんを発症しやすいという研究データがあり、糖尿病と診断された場合は同時に膵臓がんの検査を受けることが推奨されています。

3. 膵臓がんの症状

膵臓がんは他のがんと同じく発生しても初期のうちは症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません。進行してくると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感、黄疸(皮膚が黄色くなること)、背中の痛み、体重減少などの症状が起こります。

その他、急に糖尿病を発症したり、糖尿病の管理が悪化することも膵臓がんを見つけるキッカケになります。しかし、これらの症状が出た時には、既に進行膵臓がんの状態であることがほとんどであることも事実です。

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今回は、膵臓がんに関する基礎的な知識についてお話ししました。読めば読むほど気が重くなってしまったかもしれませんが、当然、医療も進歩しています。次回以降で診断や治療や予防についてそれぞれ説明しますので、是非ご参考にされて下さい。

ご連絡先:

高倉 一樹(Dr. Kazuki Takakura)
https://www.unmed-clinic.jp/
unmed@h-sh.org
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