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第2回 膵臓がんの診断 ー何故見つかりにくいのか?期待される診断法は?ー

【5回シリーズ】 Face-off against Pancreatic Cancer -膵臓がんと向き合う-

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第1回 膵臓がんを知る 膵臓がんの基礎知識
第2回 膵臓がんの診断 何故見つかりにくいのか?期待される診断法は?
第3回 膵臓がんの治療 現在の治療選択肢、そして限界と希望
第4回 膵臓がんの予防 どのように防ぐか、何が大切なのか
第5回 あまり知られていない、喫煙が膵臓がんのリスクであること

第1回では膵臓がんの基礎知識について書かせていただきました。

続いて、膵臓がんの診断について説明します。膵臓がんは発見された時、既に進行した状態(ステージ4)であることがほとんどです。

どうしてでしょうか?

何故、早い時期に発見できないのでしょうか。

また、どのようにして診断されるのでしょうか。

1. 膵臓がんの早期発見が難しい理由

膵臓がんの進行の速さもありますが、それだけが発見が難しい訳ではありません。

第1回でご説明したように膵臓は細長い形をしており、周囲の臓器や血管などと多く接しているため、腫瘍が大きくなると、すぐに腫瘍が膵臓の外に拡がり、血流に乗って全身に転移してしまうのです。

また、お腹にある臓器の中で一番深い場所に位置しているため、胃や大腸などで覆い隠されており病気が見つかりにくいことも原因と言えます。

実際に、健康診断や人間ドックなどを受診した際に、お腹の超音波検査をお受けになると思いますが、腹部超音波検査で膵臓がんを見つけられる可能性は70%程度で、太っていて皮下脂肪が多い方や膵臓の見えにくい場所に病気が出来た場合は見つからないケースが多いのが現状です。

そして、最大の要因は、もう20年以上もの間、世界中の研究者たちが膵臓がんに特異的なバイオマーカーを必死に見つけようと努力しているにも関わらず、決定的なものが見つかっていないことでしょう。

つまり、健康意識が高く健診や人間ドックを毎年お受けになっていらっしゃる方々でも、既存のがんマーカーを含む採血検査と腹部超音波検査では、膵臓がんが根治可能な早期のステージで見つからない方が30%近くはいるということです。

それで何らかの自覚症状が出現して病院にいらした時には、ほとんどの症例でステージ4ですから、本当に質の悪い病気だと言えます。つまり、膵臓がんの予後が悪くなるのはある意味では当然のことなのです。

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2. 膵臓がんの診断の決め手

では現在、膵臓がんの診断はいったいどのようにして行われているのでしょうか。

今は直接膵臓の病変部から組織を採取し、病理組織学的に膵臓がんと確定診断できる時代になりました。

以前は、膵臓に直接アプローチする方法が無かったため、組織を採取することが出来ず、患者さんの自覚症状や採血結果、造影剤を用いた腹部CT検査、胆膵領域にフォーカスしたMRIであるMR胆管膵管撮影(通称MRCP)検査、または内視鏡的逆行性胆管膵管造影(Endoscopic cholangio-pancreatography; ERCP)といって、十二指腸内まで内視鏡を進め、内視鏡の先端からチューブを出し、十二指腸の第二の部屋にあるファーター乳頭という穴から造影剤を注入し、胆管・膵管を造影する検査など、これらの検査結果による総合的な評価から臨床的に膵臓がんと診断していました。

現在は、胃カメラの先端に超音波を付けた超音波内視鏡検査(Endoscopic Ultrasonography; EUSと呼びます)の技術進歩のおかげで、胃または十二指腸の壁から膵臓の病変部に対して超音波を当てて、内視鏡の先端から細い針を出し、穿刺吸引生検(EUS-fine needle aspiration; EUS-FNA)にて診断するため、誤診(誤って膵臓がんと診断してしまうこと)することなく確実に診断出来るようになりました(図3)。

この技術は診断のためだけでなく、治療法への応用も試みられております(第3回で詳しくお話しします)。

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図3:EUS-FNA
内視鏡の先端に超音波がついており、横から細い針を出して、組織を吸引して採取することが出来る技術です。(出典:アメリカ消化器病学会)


また、各種画像検査の精度も日に日に進歩しています。CT検査ですが、今は膵臓がんを疑う患者さんには、膵臓にフォーカスした造影ダイナミックCT検査が行われます。

血流の乏しい乏血性腫瘍である膵臓がんの病変部は黒くなり、周囲の正常な膵実質は血流により造影剤が取り込まれて白くなり、その白黒のコントラストによって腫瘍部が鮮明に浮き彫りになるため、膵臓がんの検出には最も有用な画像検査と言えます。

そして、MRCP検査ですが、やはり膵臓がんによって圧排されて膵管が異常に拡張して太くなったり、途絶したりなどの所見をとらえるのに優れています。

そして何と言っても今はEUSの時代です。胃や十二指腸の壁から病変部までの間に障害物が無いため画像解像度が非常に高く、1cm以下の小膵がんと呼ばれる初期の病変も見逃さずに検出可能であり、膵臓がんの画像診断領域ではエース的存在となっています。

現在、EUSは膵臓がん患者さんのみならず、膵臓がんの予備軍とも言うべき患者さんに対しても実施されています。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm; IPMN)という膵臓に出来るのう胞性の病気は膵臓がんのリスクの1つで、膵臓がんの前がん病変(膵臓がんに進化する前段階の病気)と言われており、より注意深く経過観察する必要があるものですが、このIPMNの患者さんに対しても、膵臓がんの早期発見のために積極的にEUSによる画像評価が行れています。

私自身も多くのIPMN患者さんにEUS検査を実施してきましたが、IPMN患者さんに対する膵臓がんのスクリーニング検査の必要性について論文にまとめております(引用論文1)。

さらに、IPMN患者さんに対する適切なスクリーニング管理について国際的なガイドラインがあります。それをより良い基準にするためにガイドラインに対する提言もさせて頂いておりますので、ご興味のある方は是非論文をご一読下さい(引用論文2)。

引用論文1:Torisu, et al. Pancreatic cancer screening in patients with presumed branch-duct intraductal papillary mucinous neoplasms. WJCO 2019
引用論文2:Takakura, et al. An Appraisal of Current Guidelines for Managing Malignancy in Pancreatic Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm. JOP 2018

3. 最新の診断方法 -適切な早期発見に向けて-

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さて、ここでUnmet Medical Needsの高い病気の1つである膵臓がんに対する最新の診断方法について幾つかご紹介したいと思います。

実際にこれらの検査をすることで1人でも多くの方が早期に膵臓がんを発見し、適切な治療で根治されることを切に願うばかりです。

1) パンレグザ

現在、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請中のリキッドバイオプシーという、今までにない新しいマイクロアレイ血液検査です。

膵臓がんに特異的なバイオマーカーとしてはCEAとCA19-9というものを中心に調べるのがスタンダードですが、どうしても感度・特異度共に限界があり、また早期膵臓がんではほとんど数値が上昇しないため、臨床的な有用性としては限界がありました。

そこに金沢大学の金子周一先生のグループの研究を基に膵臓がんを早期発見できる検査キットとしてこのパンレグザが開発されました。

既存の腫瘍マーカーのCA19-9では早期膵臓がんの感度が30%未満であるのに対し、パンレグザは約80%と非常に高い数値を出せることが確認出来ており、膵臓がんの早期発見において大きな期待を集めているバイオマーカーと言えます。

今後、私のクリニックにも導入を予定しております。時期が決まり次第クリニックHPにてお知らせいたします。

2) サリバチェッカー

慶応義塾大学先端生命科学研究所の杉本昌弘教授らの研究成果を基にだ液でがんの早期発見が期待できる新しい検査、その名もサリバチェッカーが開発され2017年から実用化されています。

検査した時点での身体の代謝物とデータベースに基づいて導いたリアルタイムのがんリスクを知ることが出来るもので膵臓がんも5つの対象の中に含まれています。

体内でがん細胞が増殖するとポリアミンという代謝物が血中に放出され、そのポリアミンがだ液中に分泌されるため、だ液中のポリアミン濃度が上昇します。

その数値をAIで解析し、膵臓がんリスクを評価することが出来る検査キットであり、その有用性が期待されています。

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私のクリニックでもサリバチェッカーを検査することが出来ますので、ご興味のある方はお気軽にお問合せ下さい。

3) マイクロアレイ血液検査

サリバチェッカーと同じく、やはり”今”発生しているがんがあるかないかを採血で調べることが出来る検査です。

身体の中でがん細胞が発生すると免疫細胞ががん細胞を認識し、攻撃できる援軍を呼び集めます。

その免疫細胞からのがん細胞への攻撃命令がメッセンジャーRNA(mRNA)という伝達物質を介して出されるため、このmRNAを調べるとがんの存在が分かるというメカニズムです。

データ上では膵臓がんを含む消化器がんに対して90%を超える高い検出精度を誇り、早期がんの段階でも高い感度を示しており、膵臓がんの早期発見に有用な検査の1つとして期待されています。

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以上、3つの検査方法をご紹介しましたが、いずれにしましても、まだまだ膵臓がんの診断、早期発見のための検査については発展途上であり、患者さんの期待に十分に応えられるものはありませんし、検出率も100%ではありません。

ですので、今の時点で出来ることとして、膵臓がんの何らかのリスクを持っていると自覚されていらっしゃる方は、まずは専門医に相談してみることをお勧めします。

相談の上、興味のある検査から積極的に受けてみる、ある程度のペース(1回/年)で定期的に検査する、といった対応が早期発見の鍵になるのではと思います。

この医療記事を執筆した医師からご挨拶

最後までお読み頂きありがとうございました。もし、この記事が少しでもお役に立ちましたら、回りの方々にお伝え頂いたり、SNSで共有して頂けますと幸いです。

ご連絡先:

高倉 一樹(Dr. Kazuki Takakura)
https://www.unmed-clinic.jp/
unmed@h-sh.org
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