第5回 あまり知られていない、喫煙が膵臓がんのリスクであること
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第5回 あまり知られていない、喫煙が膵臓がんのリスクであること

UnMed Japan 髙倉一樹 Kazuki Takakura

【5回シリーズ】 Face-off against Pancreatic Cancer -膵臓がんと向き合う-

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第1回 膵臓がんを知る 膵臓がんの基礎知識
第2回 膵臓がんの診断 何故見つかりにくいのか?期待される診断法は?
第3回 膵臓がんの治療 現在の治療選択肢、そして限界と希望
第4回 膵臓がんの予防 どのように防ぐか、何が大切なのか
第5回 あまり知られていない、喫煙が膵臓がんのリスクであること

第4回では、いかにして膵臓がんを予防していけば良いのかについてお話ししました。

第5回では、その中でも日常で出来る対策の1つとして”禁煙”を取り上げたいと思います。

なぜなら、喫煙が膵臓がんの発生に大きく関わっている事実だけではなく、喫煙者は喫煙をされない方に比べて25%以上膵臓がんの発症リスクが高まることが数字で証明されているからです。

喫煙と膵臓がんリスクの関係についての研究報告は世界各地からなされており、国際がん研究機関(IARC)による発がん性分類でもグループ1(科学的根拠あり、最も関連性が高いグループ)に分類されています。

また、国立がん研究センターの「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班による日本人における喫煙と膵がんの関係の研究結果においても、やはり日本でも喫煙による膵臓がんリスク上昇の科学的根拠は確実であるとの結論が得られました。

つまり、喫煙と膵臓がんリスクの関係は世界的な定説として受け入れられていると言える訳です。

私のクリニックでも積極的に禁煙治療を行っていますが、喫煙者にとって”禁煙することこそ、膵臓がん発症のリスクを減らすための、そして健康寿命の延長のための大きな1歩であることをご理解頂けたらと思います。

1. タバコがどれぐらい膵臓がんのリスクを高めているか

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では、タバコが一体どれくらい膵臓がんのリスクを高めているのか、実際のデータをお示しします。

膵臓がんと喫煙の関係を調査研究した82の医学論文を比較検討したシステマティックレビューによると、非喫煙者と比べると喫煙者の膵臓がんリスクは約75%増え、禁煙しても最低10年間はリスクが下がらないと報告されています。

このことは、タバコの影響が長期に残存してしまうことが分かります。

ただし、これはあくまでも海外のデータであり、国ごとに要因が異なるため、禁煙に意味が無いという根拠にはなりません。

次に、日本における臨床研究にフォーカスしてみます。

ある調査では、喫煙したことのある日本人が膵臓がんにかかる危険性は、一度も喫煙したことのない人に比べて1.68倍高いという結果が出ています。

また、日本でのコホート研究(要因と疾病発生の関連を調べる観察研究)によると、男性で1.6倍、女性で1.7倍、喫煙者のほうが膵臓がんのリスクが高いと報告されています。

また、同じ研究調査で1日40本以上タバコを吸う(ヘビースモーカー)男性の場合、膵臓がんリスクが3.3倍にハネ上がることが分かりました。

それでも、10年以上の禁煙で喫煙に関するリスクは約15%減少していくという結果も得られており、すぐに発がんリスクを下げられなくても長期的には間違いなく禁煙の恩恵があると言えるでしょう。

2. タバコが膵臓がんを引き起こすメカニズム

たばこの煙に含まれる有害成分の多くは、喫煙した時の不完全燃焼によって生じ、有害成分の種類は200種類以上にも上ります。

そして、それらの中にはベンゾピレン、多環芳香族炭化水素類、ニトロソアミン類など約70種類もの発がん性物質が含まれているのです。

たばこに含まれる発がん性物質の多くは、そのもの自体や代謝される過程で生成される物質が遺伝子にダメージを与えることが分かっています。

例えば、ベンゾピレンは、体内で代謝される際の中間生成物が遺伝子の複製を阻害し、がん抑制遺伝子であるp53にダメージを与えるため、がん細胞の増殖が止まらなくなり、がんを発症しやすくするのです。

また、たばこの煙に含まれる有害物質による炎症も関与します。

煙の長期的な暴露により口やのど、肺などは慢性的な炎症を生じます。この慢性的な炎症は活性酸素(フリーラジカル)を生み出します。

活性酸素やその代謝物は細胞内の過酸化水素やヒドロキシラジカルなどの物質の生成を促進し、それらがDNAにダメージを与えることでがんを発症するのです。

3. 喫煙と膵臓がんの原因となる疾患との関係性について

タバコが膵臓がんの発症に直接的に関与しており、大きなリスクとなることはご理解頂けたかと思います。

実は、タバコの膵臓がん発生への影響はそれだけではなく、間接的な関与もあるのです。

喫煙は、膵臓がんのリスクファクターと呼ばれる、糖尿病、肥満症、慢性膵炎、IPMN、多量飲酒などにも影響することが分かっています。

例えば、たばこを吸うと交感神経を刺激して血糖を上昇させるだけでなく、体内のインスリンの働きを妨げる作用があるため、糖尿病は悪化しやすくなります。

そして、糖尿病の悪化を背景に膵臓がんが発症しやすくなるということです。

また、肥満症についても、喫煙することによって脂肪組織から分泌される善玉物質のアディポネクチンという肥満を抑える物質を減少させ、さらに炎症を引き起こすTNF-αというサイトカインを上昇させることによって肥満症を増悪させる上に発がんを促進してしまう訳です。

このように、たばこは患者さんの背景に存在する病気そのものを悪化させることで膵臓がんを誘発する間接的な影響があることも十分知っておく必要があります。

つまり、これらの病気をお持ちの方、さらにはご親族に膵臓がんの方がいらしたり、日頃から過量飲酒をされてらっしゃる方は、膵臓癌がんにならないために、特に禁煙が大事なんだということをご理解頂きたいと思います。

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図4:タバコの直接的/間接的な膵臓がんへの影響
引用文献1: Takakura, et al. The Diverse Involvement of Cigarette Smoking in Pancreatic Cancer Development and Prognosis. Pancreas 2020

この医療記事を執筆した医師からご挨拶

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高倉 一樹(Dr. Kazuki Takakura)
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