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【無名人インタビュー】ドイツに移住した京都の和食料理人

今回ご参加いただいたのは辺境料理人さんです!
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▷イントロ

めちゃくちゃ個人的なことですがほんと最近仕事とプライベートとも忙しくて、なんだかなんだかもうよく分からんことになっています。
若い時に忙しければまだなんとかなったんだろうなとか思うのですが、どうもそういううまいペース配分にはなっておらず。私は人生のスロースターターなのかもしれないね。まあ仕方ないね。人生後半がんばろう!
ということで、今回は「辺境料理人」さん回です。30後半になってからドイツに移住した料理人さんで、しかも京都で和食をやっていた方。
海外移住をするという判断、ドイツと日本の食というギャップ、それから海外の食文化、そしてそして日本の働き方論までお話は及びました。
インタビュー参加者の皆さんで、私より年上の方ってわりと珍しいので、貴重な回です!
ウインナー食べながら読もう!

1、今こそ日本から出る良いチャンス!!

qbc:どんなインタビューにいたしましょう?

料理人:え、僕の方は何にも考えてないんですけれども。いつもはどんな感じなんですか?

qbc:こんな感じでどうしますっていう風に聞いて。

料理人:人それぞれですかね。

qbc:流れというか。聞いてみて決めていく感じですね。宣伝の場合もありますし。ノープランの方が9割ぐらいですが。
では、無名人インタビューのどういったところに興味を持っていただいたのですかね?

料理人:インタビューで何か質問を投げかけてもらうことで、自分がnoteに書いていることとか、考えていることを整理したりするきっかけにはなると思って。
それから、人から何かを投げかけられることで、またもう一つ新しい側面が見えてくるのかなと。
でも、もし僕の方から今何かを語りたいとするならば。

qbc:はい。

料理人:僕なんかはずっとnoteには書いてるんですけれども、今特に若い人なんかは、今こそどんどん海外に出て行った方がいいんじゃないかなっていうことを常々思っておりまして。
僕がやってる仕事は飲食という仕事で、基本ドイツでずっとやっています。
たくさんのワーキングホリデーの若い人たちと出会って仕事をしてはいるんですけれども、
海外でスタッフを集めるとなったらやっぱり一番困るのが人材確保で。
なのでまあ常にオーナーさんとか現場の人はそれで苦労されることは多いんですけれど、比較的女の子は割とその一歩を踏み出す勇気が結構あるような印象が、僕の中にはあるんですが。

qbc:海外で働くという意味で、ですか?

料理人:そうですね。ヨーロッパまで出てきてるのは、割と女の子の方が多かったんですよね。
男の子の方がどっちかっていうと少なかったかなという印象があるんですけど。まぁ地域差もあるかもしれませんけれども。
今そのコロナでね、今自分の就職の内定が無くなった方たちとかもたくさんいるという風に聞いたりとか、いろんな閉塞感があってこれからのことを見つめ直している人も見受けられるとか。
一度自分のいる環境を出てみて外から日本を見るっていう機会も、すごく有効だなと思っています。

僕なんかはこっちに出てきたのは、もう37才で、結構遅くに出てきたんですけれど、それでもやっぱり気付かされることがすごくありました。
今これからの若い人らなんかは、本当にどんどんいっぺん出てみたらいいなって思っているんで、ぜひそれを勧めているところです。

qbc:30代後半で海外にでたんですね。移住という感じだったんでしょうか?

料理人:最初は移住っていう感覚はなかったですね。
たまたま、声をかけていただいたのがきっかけですが、僕の高校からの友人がドイツの方に住んでいたので、全く知らない土地じゃなかったこともあって…、ほんと軽い気持ちで出てきたような感じです。気がついたらもう14年程住んじゃってるんですけど、振り返ってみて、「移住したんだな」と実感しますけど、最初の3年くらいは、どっかのタイミングで帰るのかなとは思っていました。

qbc:なるほど。

料理人:5年を過ぎると逆に今度帰れなくなってきましたけど。笑

qbc:え、年一で帰ったりされてはないんですか?

料理人:いやいや中々。家族で移住しているんで、家族みんなで帰国すると結構なお金になるので。
だいたい2年とか3年に一度くらいですかね。

2、勢い任せでドイツで料理人になる

qbc:ご家族のご反応はどうだったのですか?

料理人:家内が若い頃にドイツに留学に行っていたこともあったので、奥さんもそれほど抵抗はありませんでした。
ドイツでの仕事の話が出た時、子供達にその当時ちょっと音楽を習わせてたので、海外に出ることで現地の教育を受けられるなら、それもいいかもしれないって。
本当にあんまり深くを考えずに出てきたんですけれども、出てきてからの方が大変でしたね。

qbc:おお。大変というと?

料理人:旅行で来るのと住むのとではちょっと話が全然違ってですね、言葉の問題であるとか、子供の教育の問題であるとかがすごく大きかったですね。
暮らしてみないと分からないことがたくさんあって。

qbc:はい。

料理人:あとは仕事も同じ和食をやってきましたけれども、海外でやる和食と、日本でずっとやっている和食は、使ってる水も違いますし、野菜も肉も違うので。
その部分に関しては、僕はもっと簡単に考えていたんですよね。最初はなじむのにすごく時間がかかりました。

qbc:日本の食材を使ってこその和食ですもんね。

料理人:まぁ調味料とかは比較的手に入るのは入るんですけれども、ベースになるものが違うので。
そこまで深く考えてなかったんですよね。普通はもっと計画立てて考えるだろうってところを僕は勢いだけで来てしまったので。
その当時テレビのドキュメンタリーで、海外のレストランで働いている若い料理人のドキュメントを見て、それが自分の中では結構衝撃的だったんですが…

qbc:はい。

料理人:僕はそれまで10年間日本の和食屋さんでずっと働いていて、その当時で一応副料理長まではいっていたんです。
けれども、その先にあるものをずっと何かないのかな、と思っていました。
その時にその番組を見て、若くして日本と違う環境の中で切磋琢磨している人を見て、刺激を受けたんです。

ドイツに住んでいる友達にその思いを手紙で送ったら、そんなに興味があるんだったら自分が時々行ってる飲食店和食屋さんの方をちょっと紹介してあげるよ、ということになりまして。
何軒か現地の日本食レストランの情報を送ってもらったんです。それで直接自分の気持ち、「海外で和食をやることに興味を持っています!」って手紙を送りました。そうしたら、興味があるんだったら見に来たらいいよ、というお店が一軒だけあったんですよね。

qbc:なるほど。

料理人:でもまあそのほとんどは返事がなかったり、あるいはあなたが憧れたり、思い描いているような華やかしいものじゃなくて、実際は大変なことばっかりだよっていうネガティブな返事しかなかったんです。その中で一軒だけです、見に来たらと言ってくれたのは。
友達に会いに行くついでに、そのお店に行かせていただいて、オーナーとちょっと話をしました。
どこで話が変わったのか、向こうは様子見ではなくて面接に来たぐらいのつもりでいたみたいで。笑。
僕自身そのオーナーと意気投合したところもありまして、たまたま一人スタッフが辞める話があるので、来るならちゃんとポストを用意するよという話しになりました。
急展開で、それにホイホイ乗っかってドイツに出てきたっていう感じです。

qbc:なるほど。

料理人:水とかもね、ヨーロッパの水は結構硬いので。いつも使っているカツオ節や昆布の量では出汁が出ないんですよね。

qbc:おお、そうかそうなんですね。

料理人:いつも自分が当たり前だと思っていた10年間のスキルが、こっちに出てくることで全部否定されてしまうわけですよね。

qbc:はいはいはい。

料理人:一番最初に、腕を見るために、オーナーが「あなたが自信のあるものを作ってまかないに出してくれ」と言われたんです。
僕は全然楽勝と思って、冷蔵庫にあった野菜とかを使って京風の炊き合わせを用意したんです。
普通にやっぱり驕りがあったと思うんですけど、本来なら昆布を引いた出汁を味見したり、一番出汁の味も見るんです。
けど、もうシステマティックに普通にばーっと作って、それでもうあと醤油で整えるっていう時に、味見をしたら、あまりにも美味しくなさすぎてびっくりしたんですよね。
本当に出汁がきいてない。野菜の旨みも出ていない。でももう、そこでオーナーが食べる準備をしていたので、それを出さざるを得なくて。

qbc:怖いですねえ。

料理人:結局それを出すしかなかったんですけれども、それで最初はこの人本当に仕事できるのかという烙印を押されてしまう。
最初知り合いなんかは「ヨーロッパに住んでる」っていうだけで、羨ましいとかかっこいいとかすごいとか言われたんですけど、こっちは内心、いつでも帰りたい、と思っていました。

qbc:はい。

料理人:文句のはけ口もないわけですから。最初の2年は相当きつかった。

qbc:オーナーは日本人の方なんですか?

料理人:オーナーは日本人ですけど、もう40年来ずっとこっちに住んでいる方。

qbc:レストランだけ? 別の仕事を持たれてて?

料理人:その方は元々は不動産関係の仕事されたんですけど、途中でもう仕事はリタイアして。
資金も充分に蓄えられていた方で、あとは悠々自適にいつでも自分がおいしいご飯が食べれるようにと、余生を楽しむ感じでレストランを経営していました。

3、ドイツで日本食を入手するためには

qbc:ドイツって日本人のコミュニティは、どういう感じですか?

料理人:街によるんですが、例えばデュッセルドルフって言う街だと、ちょっと忘れちゃいましたが、その当時日本商社がたくさんあった時期なんかで、1万人ぐらいいるって聞いてましたね。数字はうろ覚えですけれども。今は割とフランクフルトの方に多いっていう風に聞きます。
日本人会というグループがあって、例えば月に一回とか、何ヶ月に一回くらいの頻度で会って、みんながそれぞれのお弁当みたいのを寄り合って、お茶会みたいな感じにしてちょっとしたイベントをするみたいです。
デュッセルドルフなんかは日本人通りって呼ばれる道もあるくらいです。

qbc:あ、たまたまYouTubeのVlogで、デュッセルドルフの和食レストラン街見ました。

料理人:和食のレストランやお惣菜屋さん、カフェ、焼き鳥屋さん、本屋さん、寿司屋さん、一通り全部揃うような通りですね。
そこなんかに行くと日本語しか聞こえてこないような場所もあるんですけども。
それが分かりやすい日本人のコミュニティですね。
地方小都市になると日本人の数が減るので、今年の7月まで住んでいたキプロスっていう地中海の端っこの島国だと、国内で日本人が66人ですかね。
分散してるんで結局LINEグループでお互い情報を交換しようっていうような感じでした。

qbc:あ、LINEなんですね。

料理人:LINEでしたね、そこでは。
ちゃんとしたアジア食材のスーパーもないので、みんながあそこに行けば納豆が売っていたっていう情報がLINEで流れてくる。
今でこそ納豆が比較的身近にあるような感じにはなってきましたけど。

qbc:その納豆ってどこから来る納豆なんですか?

料理人:やっぱり日本産なんですけど、いわゆるキッコーマンっていう大きなグループが日本食材を基本的に世界中にいる和食屋さんに流通させています。
そういうところから仕入れて、アジアスーパーに並んでいたりとかするみたいです。
今ではわりといろんなメーカーの納豆も並んでいますね。
豆腐とかは、意外とその街で中国人の方が作ってたりとか。

qbc:あ、そうか作るのか。なるほどね。

料理人:そうですね。日本の豆腐みたいに優しい味の絹ごしとかではないですけれども。どっちかっていうとちょっと粗い木綿豆腐みたいなやつが多いです。

qbc:面白いですね!

料理人:賞味期限が一年ぐらいあるような真空パックの豆腐もありますね。

qbc:日本にもありますね。

料理人:あとはやっぱりドイツはBIO(マクロビオティック)の傾向の強いスーパーとかレストランとかがあるので、そういうところではやっぱり豆腐とかは結構重宝がられています。
スーパーに並んでたりしますね。

qbc:そうかそうか。植物性たんぱく質。

料理人:そうです、はい。
良質なタンパク質を豆腐から摂る。多いですね。こちらの方は豆類をよく食べられるので。
昔は抵抗あったみたいですけど、最近は割と皆さんよく食べられる自然派食材の一つになっています。

qbc:料理もしやすいですよね。

料理人:いろんな味に染まりやすいので、はい。
パンに挟む人もいるって聞いたことありますけど。

qbc:えー。味付けてですよね? そのまま?

料理人:フライパンで焼いてるんだと思います。割としっかりした固さの豆腐なんで。

qbc:あーなるほど。美味しそうかも。固めの木綿寄りの豆腐の水分を飛ばして。

料理人:僕はまだ試したことないですけど、バターとかソースで味を乗せて、サラダと一緒にホットドッグやサンドイッチみたいな感じで。

qbc:あぁ最高。

料理人:ヨーロッパ、ベルリンなんかはBIOっていうか、自分がこれを食べる、こういう食べるスタイルだという明確な意思を持った人がすごく多いので、結構飲食店がそれに合わせる大変さみたいなのはありますね。

qbc:なるほど。

料理人:私はヴィーガンだとか、私はベジタリアンだとか、私はペスカタリアン※、私は肉しか食べないとか、あとは細かいアレルギーを自分で意思表示して入ってくるお客様が結構多いです。日本はまだそこまで細分化されてないと思うんですけど。
※ペスカタリアンとは、ベジタリアンの種類のひとつで、野菜やフルーツのほかに乳製品・卵・魚を食べる食事法のこと。

qbc:そこまで厳しくないですね。

料理人:こっちではかなり厳しいですね。グルテンフリーじゃないとダメとか。
ラーメン屋さんがドイツにもあるんですけれども、グルテンフリーの麺を出してくれという声はよくあるみたいです。
なので、食の趣向というか多様性というのは、ヨーロッパはかなり進んでいて、それに対応するのにお店側も事前に色んな手段を講じていますね。

qbc:日本はイスラム系のレストランが出始めましたね。ハラールレストランが。

料理人:日本だと、僕の記憶では、京都やったらいわゆる精進料理のレストランがそれに該当するのかなと思っています。
僕の出身が京都なので、いわゆる精進料理とか湯葉とか使う豆腐料理ですね。
結局そのアイディアをこっちで流用しているところはあります。
ベジタリアンの方が本当に多いので、その用意をしていないとお店が淘汰されてしまいます。

qbc:なるほど。

料理人:ほぼ全てのレストランがベジタリアン向けのメニューを何品かは用意しています。
グループで来られた場合に、一人だけ何も食べられないっていう状況は避けたいので。
こっちでもレストランは一つのコミュニティの場ですから、結局それを利用できない人がいるお店というのは選ばれにくいお店になってしまいます。
料理をする上で、非常に重要な鍵になってきてます。

qbc:そこまでポピュラーなんですね。

料理人:ドイツは比較的、トルコ系の方が多いので豚の料理が出しにくいですね。例えば僕の豚の角煮は美味しいんですが、出せないメニューのひとつですね。
もともとドイツ料理は豚肉がすごく美味しいのが基本なので、バイエルンあたりはザ・ドイツ料理みたいなのがまだまだ健在です。

qbc:ソーセージは豚ですよね?

料理人:豚です。
だからトルコの方たちは絶対食べないし、子牛で作ったソーセージとか、鶏で作ったソーセージを選んで食べますね。

qbc:多文化だとそういうバリエーションが出てくるのですね。

料理人:そういうのは、トルコ人スーパーとかに行かないと手に入らなかったりはしますけどね。

4、日本の封建的な料理人の世界

※封建的:封建時代のように、上下関係を重んじて、個人の自由・権利を軽んずるさま。俗に、強圧的な態度で人を使おう、動かそうとすること。

qbc:実は私、友達のしゃぶしゃぶ屋さんのお手伝いをこの間したんですね。
それで、そこの店長さんが60歳ぐらいで、40年飲食をやっていて、上下関係に厳しい人だったんですよ。
そういう経験があったので、料理人さんの「日本の料理界は封建的だが、ドイツはまるで違う」といった趣旨の記事を読んで、ものすごくなるほどと思いました。
それに、今日の冒頭に出た「今こそ若い人が海外出るタイミングじゃないか」という話題。
このあたりは結びついていくのでしょうか?

この記事です!

料理人:その意味もちょっと含んでいますね。
僕が10年育った環境っていうのもすごい封建社会で。

qbc:京都で修行でしょうか?

料理人:そうです。やっぱり封建的な社会ですから、先輩に意見をしようものなら、もう次の日から仕事が回ってこない状況です。
普通に包丁で小突かれるとかありましたからね。

qbc:え? 10年前くらいですよね?

料理人:そう。14年くらい前ですね。本当に物が飛んでくるとか。
今で言ったらパワハラを超えた。笑

qbc:恐ろしい。

料理人:ちょっと警察沙汰じゃないのかなって思うこともあって、時々日本のその当時の同僚と話をすると、あの人は相変わらず変わってないよって話を聞いたりもします。
それでもね、僕のいた当時に比べると、変わらざるを得ないところから変わってきてるとは思うんですけれど。
でもトータルとして、僕の印象では日本の飲食業にいる人達っていうのは、特に古い方は、教えるのがすごい下手な人が多いんですよ。

qbc:なるほど。

料理人:分からない人に教えるのがすごく苦手というか、教え方を勉強されてない方がすごく多い印象がありました。
だから自分の不器用さをそのまま肯定することしかできないんじゃないかなと思います。
比較的「見て覚えろ」みたいな習慣が根強くある傾向は感じますけれども、全部のお店がそうだとは言いません。

qbc:はい。

料理人:でも、当時「見て覚えろ」で心が折れて辞めちゃった人をたくさん僕は見てきました。
飲食業はもちろん厳しい世界ではありますし、それに変わりはないんですけれども、理不尽な場面でもし悩んでいる人がいたら、やっぱりいっぺん海外に出てみるのもいいんじゃないかなと僕は思うんです。

海外に出たら出たで大変なこともあるんですけども。苦笑。
理不尽さで自分の包丁を置くよりは、いろんな可能性を外に向けることでまた成就できる夢があるかもしれないという思いはありますね。

qbc:ドイツのレストランで働くようになって、違うな、と感じた部分って具体的にどんなことなのでしょうか?

料理人:最初は環境に慣れることにいっぱいで何も気づかなかったですけど、余裕が出てきたころですね。
ドイツ人の料理人や、フランス、オランダといったところからドイツへ働きに来てる人たちと交流しだすようになってからです。
こっちで働いてみると、まず純粋に労働時間というものがきちんと決められているんですよね。
その決められた中でどういう仕事をするのかっていうことを、きちんと明確に最初にしておくんです。

qbc:なるほど。

料理人:できない人に対して、どういう風に教えるかということをきちんと系統立てて言葉で伝えきるというか。
日本だったら「とにかく見とけ」っていう感じになるところを、本当に手取り足取り教える。
学ぶ人も、やっぱりそれに対して結構一生懸命に覚えようとしてくれるので、結果こっちも教えるノウハウをやっぱり高めないと伝えきれない。
そういう環境の違いはすごく大きいと思いました。
日本ではこういうことはしてなかったし、こういう風にすればよかったのになっていう風に思います。

こっちの料理の世界も厳しいのは厳しいんですけれども、なんていうんでしょう、一番上にいる人と一番下にいる人達は、例えば質問しちゃいけないとか、こんなこと聞いちゃいけないっていうのはないんです。
分からないものは分かるまで質問をしてくるし。勤務時間の中でコミュニケーションを完結させる。
例えば仕事が終わって、じゃちょっと飲みに行くぞみたいなところで話をするって、そういう習慣もないんですよ。

qbc:はい。

料理人:だから仕事をしてる時にお互いがその場所でいい仕事をするためのコミュニケーションをする。終わったらそこでみんな解散するわけですから。仕事の質を上げるためには勤務時間内でやらざるを得ない。だからそこでどうやって効率を上げて教えるかって、やっぱり教えることの能力を高めないとダメなので。そこがちょっと日本と全然違うところですかね。

qbc:はいはいはい。

料理人:日本だったら「終わったらちょっと飲みに行くからついてこい」とかいう世界で、今はもしかしたら少ないかもしれないですけど、そういう無礼講になった時にコミュニケーションをとるんですよね。
「先輩もうちょっと教えてくださいよ」みたいに歩み寄って、ちょっと仲良くなって仕事を円滑に事を運ばせるとか、そういう策を練ったりしていましたね。

qbc:少なからずまだありますよ。

料理人:こっちではプライベートはプライベート。仕事は仕事で割り切るので。
仕事の時間の中で良い仕事をするために、みんながそれぞれでガチンコと言うか。
なのでメリハリがあります。そういうのを見てると日本と違うなと感じましたね。

qbc:ありがとうございます。なるほどね。

料理人:日本にも封建的ではない、色々なお店があると思いますけれどもね。

5、日本の働き方

qbc:日本もコロナでテレワークが導入され、働き方の意識が変わってきましたね。
いわゆるジョブディスクリプションを作らないといけない状況になってきました。
テレワークだと仕事内容が分からないと評価できなくなったから。

料理人:こっちは休暇を取るというのもすごく明白です。
守られている権利なので、休みの日に職場に行くっていうことも絶対にありえない。
なので決められた勤務時間内で仕事をこなす。
結局それで仕事をこなせない人が淘汰されていくというか。

他の仕事を探したり、淘汰される側も自分でこれは自分に合わない仕事だなと思ってさっさと自分に合う職場を見つける。
それで簡単に再スタートします。

なので一つの職種に固執しないというか、必ず自分に見合った仕事があるから、むしろ伸び伸びと転職をしていきますね。
こういう感覚も、僕は逆に素晴らしいなと思って。
僕はずっと飲食しかしていなかった人間だから、その自由な発想はすごいと思ったりします。

qbc:日本も今のままではダメだという意識はあります。
が、変わんなきゃって思っても、急には変えられないから。

料理人:こっちでも若い人は、土日の仕事だと彼女と一緒の時間が作れないから、僕は他の仕事をするって言ってぱっと辞めたりしますね。
こちらでは、恋人との時間は大事だからエンジョイしろよって、即決で退職になります。
その彼は、すぐ次の仕事を見つけて、今は薬局で働いてるんですけれど、彼女との時間も作れるし、給料は少し下がったけれどもとてもハッピーだという感じでした。
そういう生き方って、確かに日本じゃなかったな。

qbc:ないんですよ。しかもね、その悩み自体が口にも出されなかったりするんですよ。

料理人:出せないですよね。やっぱり我慢しちゃうんでしょうし。
昔は「我慢は美徳」って僕も教えられたんですけれども、決してそれは正しくはなかったなとは思います。

qbc:もしかしたら「我慢」に全然価値がないかもしれない。
「待つ」ことと「我慢」は違うっていうのかな。

料理人:まさにその通り。待つ時っていうのはあるんですけど、ただひたすらに我慢し続けるっていうことに価値はない。

qbc:何の対策も練らずにただ待つっていうのは我慢なんですよね。
対策しまくって、でも動かないから待つって時はあるし、それは受け入れるべき。状況がすぐ変わらないんだから。

料理人:そうですよね。目暗滅法というか。結局ただ待つだけというのは、何も生み出さないですよね。

qbc:自分が削れていくだけなんですよね。

料理人:そうです。でも日本で働いてる時の僕は、まさにそれだったと思います。

qbc:本当、飲食の方ってめちゃくちゃ働く時間が長いですよね。

料理人:僕、14時間とか16時間とか働いてましたね。

qbc:じゃあ睡眠時間を削ってって言う状況ですよね。そんなんじゃ。

料理人:そうです。僕その10年間でショートスリーパーになってしまいました。
4時間寝たらとりあえず意識は戻るっていう。
でも結局それを10年やって、10年目で体壊して入院してしまいましたから。

qbc:あぁなるほど。先に体の方がね。

料理人:体の方が正直に出て、だからなおさら奥さんもこのままこの仕事を日本にいたらダメだと思ったんだと思います。

6、日本のこれから

qbc:この無名人インタビューに出ていただいた方、わりと海外在住の方多いんですよ。1割くらいかな。
で、時々海外から見た日本の話になり、日本の人の目から輝きが失われれているとか、そういう話になります。
それで、また日本から出るべきかどうかの話なのですが。

料理人:まず一旦日本を出てそこで経験を積んで、それで帰る人はまた日本に帰ればいいと思っています。
もちろん日本の中で生き生きと生きて自分のスタイルを確立してる人もいると思うんですけれども、行きづまってそこで我慢してるような人がいたら、ぜひ海外に出て行ってほしいです。

そういう人が海外に出るなんてなおさらハードルが高いのかもしれないんですけど、海外に行っただけで死ぬわけではないですからね。
たまにひどい事件のニュースもあったりしますけれども。

qbc:国内にいても事件は起きますし。

料理人:今まで自分が当たり前だと思っていた価値観の社会から一度出てみることで、見えてくるものがたくさんあると思うんですよね。特に若い人は。
ドイツは31歳まではワーキングホリデーで受け入れをしていますし。

qbc:私、あんまりワーキングホリデー自体を理解していなくて。受入国ってのがあるんですね?

料理人:あります。国によって違うと思いますけど、ドイツは31歳まではワーキングホリデーで入ってこれます。
一年間はこっちに住居置いて生活することができるんです。
その中で例えばやりたい仕事が見つかって、就労ビザに切り替えて住み続けてる人もいるし。
フリーランスのビザを取って、こっちでインターネットの記事を書いて生活をしている方も結構もいます。色んなことが海外にいてもできるので、ぜひ本当に若い人に海外に出てもらいたいですね。
僕はもっと若い時に出て来てれば、より可能性が広がったなって思ってる方なので。

qbc:なるほど。

料理人:このコロナを機に、色んな意味で閉塞感を感じてる人がたくさんいると思うんです。
ぜひ今こそ広い視野で世界を見た方が絶対いいと思っています。
男の人なんかやっぱり自分の職を離れるっていうのはすごく恐怖だったりするのかもしれないんですけれども。

qbc:男性の方が多分居心地いいんだと思うんですよ、日本は。
女性の方がきついと思うんです。多分そこもあると思います。

料理人:それはよくないですよね。

qbc:全然よくないです。っていうかものすごい悪です、日本の。

料理人:むしろ男の人のその価値観を変えた方が良いと思うんですよ。

qbc:無意識の中に組み込まれていて分からないんでしょうね。

料理人:なるほど。そうでしょうね。無意識って一番怖いですからね。

qbc:女性が勝手にやってくれてるっていう言い方をするとあれかもしれないですけど、男尊女卑にしないと激怒する男性がいるというか。

料理人:それは良くない社会ですよ。本当に。
特にヨーロッパなんかは女性の地位っていうのは完全に確立してるし、ジェンダーの方の地位も確立しているので、心苦しい気持ちは必ず解放されると思います。
もちろん言葉の問題とか、文化の違いとか、お金の問題とかそれなりに大変なことあります。
けれども、やっぱりこっちに来て目が覚めたっていう人はたくさんいるので。

qbc:そうですね。皆さんおっしゃいますね。

料理人:人生の中の何パーセントかは、ちょっとそういう経験を少しでも今の日本人の人はちょっと積んだ方がいいんじゃないかな。

qbc:留学して戻ってきて母国を変えるっていうのはね、歴史が繰り返していることですからね。

料理人:それが少数派だと変えらる社会も変えられないと思うんです。
そういう人たちが集まって一つの流れをもし作れたら、変わっていくかもしれません。

qbc:結局韓国中国もばんばん海外に行って戻ってきた人たちが変えてってるわけですからね。

料理人:そうです。どんどん発展していってますから。
みなさんすごくお金のかかる留学ばかり考えてると思うんですが、ですよ。ドイツは学費いらないですからね。

qbc:どういうことですか? 学費いらないって。

料理人:学費がゼロなんですよ、大学に入れば。
だからそこで生活する生活費を何らかの形で工面できれば。学費っていうのは請求されない。大学は無料なんですよ、外国人にも。

qbc:すごいな。

料理人:ただドイツ語のレベルを上げてないと入れないですけど。
でもその水準があれば、例えば美術の大学に入ったりとかもできます。
ただ競争率が高いので中々厳しいもんではありますけれども、入ってからは学費はゼロです。
一回それではあんまりなんじゃないかって学費を取ろうと政府が動いたんですけど、圧倒的な学生デモが起こってその案が粉砕されました。

qbc:めちゃくちゃ優秀な人が集まりやすい状況にはなってるわけですから。

料理人:若干学生が増えすぎて、今入れるところがだいぶ減ってはいるみたいですけど。

qbc:海外からもOKにしたら世界中から、学びたい人が来ますからね。
日本も多少、学習する勉強するってことに対しては、積極的になっているかな、という気はします。

料理人:それはいいことですね。年を取ってもいろんなことに興味を持たないといけない。
時代はどんどん変わっていくんで。

qbc:インターネットでドイツにいる方と、パッと話ができちゃうなんて、まさに技術ですからね。
ありがとうございました本当に。

料理人:こちらこそ、ありがとうございました。

※ コロナ第二波が広まるヨーロッパですが、現在ドイツではワーキングホリデービザの発給を完全に止めています。早く自由に行き来できる世界が帰ってくる事を祈っています。

▷アウトロ

未来はどうなるんだろう? と考えます。
正直わかんないですね。コロナも読めなかったし。いや、そんなことないか。
人間があらゆる土地から土地へ飛び回る状況から、パンデミックの可能性は示唆されていたから、読めないこともないか。
ブラックスワンとう本が、ナシーム・ニコラス・タレブという人の書いた本で、ダーレン・アロノフスキーの映画ではないほうで、めったに起こらないが実際起こるとえらい被害を出すのをブラックスワン理論というが、つまり黒い白鳥なんていないから白鳥って名付けたんだけど、実際黒鳥はいた、ということ。
リスクについての考え方だ。
おっとまた長くなるな。
詰メロ!
何が起こるかなんか分からないのだから、必死で必死で必死で、自分の頭で考えることをしてしてしてゆきなさいということ
「誰も助けてくれない」という非常の世界を示したいのではなく、「誰も正解が分からなくて誰もが知恵を出し合って協力しあわなければならない」状況を想定しているんだ! 私は!!!

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