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【小説】弥勒奇譚 第十七話

「これをお前が一人で彫ったのか」
しばらく後に続く言葉が出なかった。
長い沈黙のあと不空は大きく息をつくとようやく口を開いた。
「おまえにこれ程の腕があろうとは思ってもいなかった。今ここまで彫れるのは私のところには居ないだろう。私でも出来るかどうか」
不空は振り返って弥勒の顔を見た。
「これも夢のおかげだと言うのか」
「やはり私の力だけではここまでは出来なかったと思います。夢に導かれて来たと言うのが実感です」
「そう謙遜するな。夢の助けがあったとしても
おまえの腕で彫ったのだ。仏師としての力量が上がったことは間違いない。これからはもっと重要な造像に携わってもらうことになろう」
「そうだな、遠路はるばる来たのだからしばらく留まってこの仏像の台座と光背を作らせてもらおう」
その日は不空も作業場で寝ることにして夜が更けるまで二人で今までの事など話をした。今まで師匠とこれほど長い時間話をしたことは無かった。
弥勒はこの自分とは全く違う性格の師匠が好きだったがなぜか気後れして話せなかった。弥勒はふと自分が不空に認められた思いがして何か師匠と話をしている時間がとても楽しい時間となっていた。

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