見出し画像

【小説】弥勒奇譚 第二十四話

開眼供養も数日後に迫り準備もほぼ終わろうとしていたある日、龍穴社を一人の男が訪ねてきた。
弥勒と不動が社務所の前で立ち話をしていると旅人らしき格好のその男はきまり悪そうに頭を下げながら近づいてきた。
「不動殿お久しゅうございます」
不動はしばらく男の顔をぼんやりと見ていたが急に
顔色が変わった。
「そなたは文殊、文殊ではないか」
「五年まえに無断で出奔いたしました文殊でございます。
誠に申し訳ありませんでした」不動は弥勒の顔を見たり文殊の顔をみたりしながらも、おろおろするばかりでどうしても次の言葉が出ない。
「不動殿どうされました」
「弥勒殿この男が依然話した文殊じゃ。そなたの兄じゃ」
不動はそれだけ言うとその場に座り込んでしまった。
弥勒もしばらく訳が分からず呆然としていたがふと思い出したように数珠を取り出して文殊の前に差し出した。
「私は弥勒と申します。この数珠に見覚えはありませんか」
文殊は怪訝な表情で数珠を手に取ると自分も懐から
数珠を取り出した。
「まさか弥勒とは幼いころ京の寺で別れた弟の弥勒か」
「やはり兄上。これもあの夢の導きか」
「夢の導き。実は私も夢の導きでここへ来たのだ」
「ここではなんですから社務所の中で話をなされ」
不動は二人を社務所の中へ招き入れた。
弥勒は寺に預けられてからその後仏師になった事、
夢の導きによって室生へ来て薬師如来像を造ったことを一気に話した。

この記事が参加している募集

歴史小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?