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大学授業一歩前(第148講)

はじめに

 今回は講談社現代新書編集長の青木肇様に記事を寄稿していただきました。お忙しい中の作成ありがとうございました。是非、今回もご一読下さいませ。

概要

Q:講談社の概要を教えてください。

A:1909(明治42)年創業の総合出版社です。
 「おもしろくて、ためになる」、Inspire Impossible Storiesをモットーとして、ニュース、教養、コミック、ファッション、文芸など、多方面のジャンルで出版活動を行っています。近年では、出版に関するデジタル、ライツ、グローバルの各分野にも力を入れています。
 私が入社した1990年代は、まだ「普通」の出版社でしたが、数年前から「出版の再発明」をスローガンに掲げており、編集部門でも新しい形態の仕事がどんどん増えている印象です。自分に合った仕事が見つかる(見つける)と、いくらでも面白いことができる会社だと思います。

新書への思い

Q:講談社現代新書にかける思いや熱意を教えてください。

A:講談社現代新書は、1964(昭和39)年に創刊された教養新書です。難しい知の世界や複雑な社会事象を、おもしろく、わかりやすく説き明かす本が多いです。何かを知りたいと思ったときには、最初にそのジャンルの新書を探して読むのがおすすめです。
 現在では、40代~50代が新書のメインの読者層ですが、値段が安いこともあり、もともとは高校生や大学生、20代社会人など若い人がたくさん読んでいました。再び、若い人たちにたくさん読んでもらえればと、2022年9月から「現代新書100」というシリーズを実験的に始めました。これは、今こそ読むべき思想家の思想を取り上げ、「なぜ、今読むべきなのか」についてしっかり解説したもので、昔の思想家の難解な思想を、今という時代を生きる読者が「自分ごと」として読めるように工夫しています。初回では「欲望まみれの世界をどう生き抜くか」について思索を重ねたショーペンハウアーや、「全体主義の本当の恐ろしさ」について警告を発し続けたハンナ・アレントを取り上げています(電子書籍では500円以下で読めますのでよかったらぜひ!)。こうした新しい取り組みには、今後も積極的にチャレンジしていきたいと思っています。

本を読む面白さ

Q:ご自身の視点から本を読む面白さを教えてください。

A:定期的に読書を続けていると、突然「運命の1冊との出会い」みたいなものがあります。
 大して興味のない分野の大学・学部に入ってボーッとした学生生活を送っていた私は、ある先生の勧めから、E・ウォーラーステインの『史的システムとしての資本主義』(当時は岩波叢書、現岩波文庫)を読んで、資本主義というパワーの凄まじさ、歴史を俯瞰して眺める面白さにハマり(すべてを理解できたわけではありませんが)、それから、ほんのちょっとだけ真面目に勉強するようになりました。
 本は、「この世界をより深く知るためのツール」をいろいろ拾える場所だと思います。時間に余裕がある学生時代に本をまったく読まずに過ごすのは、ハッキリ言ってもったいないですよー。

オススメの一冊(他社の新書の中から)

Q:他社の新書で学部1、2年生向けのオススメの一冊を教えてください。

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A:人間関係で悩みを抱えている人は、菅野仁さんの『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』ちくまプリマ―新書(2008)がおすすめです。
 今、私たちが住んでいる世界は「気の合わない人」と一緒の時間や空間を過ごす機会が多くなっていて、だからこそ「気の合わない人と一緒にいる作法」が必要。ではどうやって……? というのがこの本の主な内容ですが、とても共感します。中・高校生に向けた視点から描かれており、著者の優しさのようなものをページのいたるところに感じることができます。
 ぼくら編集者から見ても、「若い人に読まれている新書」として、お手本のような一冊です。

オススメの一冊(講談社現代新書の中から)

Q:講談社現代新書の中から学部1、2年生向けのオススメの一冊を教えてください。

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A:大澤真幸さんの『社会学史』(2019)を檄推しします。
 アリストテレスからホッブズ、ルソー、スミス、マルクス、カント、ヘーゲル、フロイト、ヴェーバー、フーコー、レヴィ=ストロース、デリダ、ブルデュー、ボードリヤール、そしてメイヤスーに至るまで、「歴史上の社会科学系の偉人」たちの思想や功績が、わ・ず・か640ページ一気に通貫、しかも「おもしろくて、ためになる」記述満載で描かれています。
 最初にこうした、社会学全体を俯瞰するような本を読んで自分の頭の中に見取り図を作っておくと、専門分野に進んだときに必ず役に立つはず! です。学問の入り口に立ってこれから、「さあ、勉強するぞ」と思っている皆さんにぜひ読んでほしいです。

メッセージ

Q:最後に大学生へのメッセージをお願いします。

A:30年近く、社会人をやってますが、社会でもっとも大事な力の一つは「バランスを取りながら考えられる感覚」ではないかと思っています。
 短い言葉で説明するのは難しいのですが、たとえば、仕事がうまくいきすぎているときに「このままでいいのか。この好調な時期が終わったときに次は何をすればいいのか」を考えてみる。あるいは、どうしても気が合わない、大嫌いな人がいても、「何でもいいから彼の良いところを見つけてみよう」と方向を変えてみる。あるいは、仕事や人間関係で押しつぶされそうなときは「どうでもいいじゃん」と開き直ってみる。
 このように、途中で視点をズラしたり、まったく逆の発想をしてみたり、など、物事のバランスに留意しながら考える習慣をつけておくと、大ピンチを切り抜けたり、物事が好転したりするように思います。「考え続けること」って大事です。そして、時には考えないこと」も同じくらい大事なんです。

おわりに

 今回は講談社現代新書編集長の青木肇様に記事を寄稿していただきました。お忙しい中の作成ありがとうございました。
 私も話題の牧野雅彦(2022)『今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』(講談社現代新書)を拝読し、100ページで思想を読み解く新書の裏側が気になり、寄稿の依頼をしました。

現在では、40代~50代が新書のメインの読者層ですが、値段が安いこともあり、もともとは高校生や大学生、20代社会人など若い人がたくさん読んでいました。

 このnoteを運営する中で「本を読もう」という言葉と実際に読まれない現実のギャップを如何にして埋めるかを私も考えてきましたが、その答えは未だ出ておりません。ですが、こんな辛い時代だからこそページをめくれば答えが書いてあるかもしれない。そう信じて、私も本を読み続けます。次回もお楽しみに!!



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