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ショートショート作品まとめ

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【ショートショート】や【掌編小説】など短めの作品をまとめています。
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記事一覧

褒めなきゃソンソン!

お菓子の国の住人はとにかく褒め合う。 「あなたの頭の上のチョコレート、とってもツヤツヤね!」 「君の襟のデコレーションもとても華やかで素敵だよ。」 彼らは相手のこだわりを見抜いて、とことん褒め合う。それが挨拶がわりにもなっている。 なぜかって? 毎日毎日、自分の生地の材料やデコレーションの美しさにとってもこだわっているから、相手が何にこだわっているかなんてすぐピンときちゃうのさ。

【掌編小説】透明な時計

母が透明な時計を買ってきた。 確かにカチカチという音がするが、まるで見えない。 どうして透明な時計にしたの? などとは聞くよしもない。母は透明な家具を集めるのが趣味で、家中が透明なのだから。 透明な壁に透明な画鋲を刺した母が、透明な時計を持ち上げて壁にかけた。ことり、と音がしてどうやら壁に上手くかかったらしい。 夕日に照らされた時計は確かにそこにあるように見える。カチカチと軽快な秒針の音が我が家に加わった。 まぁ、今が何時かは分からないんだけどね。

【ショートショート】誰かの幸せを願う

今日もポスティングをした。 一輪の押し花を添えた、ごく簡単なポストカード。 どこかの誰かを幸せにしたい、と自己満足から始めたことだった。 ポスティングを初めて10日経った頃、投函している時に居合わせた住人に怒鳴りつけられた。 変なものを投函して余計なゴミを増やすな、と。 そして次の日、その住人のポストには「チラシ等投函禁止」と貼り紙がされていた。その日を皮切りに、投函禁止と書かれたポストが日に日に増えて言った。 投函を初めて3ヶ月ほど経ったある日、一人の女性がポストの

【ショートショート】“古い油絵”のような男

今日、隣で飲んだ”古い油絵”みたいな男はお屋敷で音を飼っているらしい。 見た目はまるで画家だが、”古い油絵”は音楽家と名乗った。無学なもので申し訳ないと前置き、音を飼うとはどういうことか聞くと、男は屋敷に来た方が早いと言い、半ば無理やりBARから連れ出された。 ”古い油絵”が屋敷と言うものだから、何となくこうおどろおどろしい大きな洋館だと思っていたが、なんのことは無い。着いてみるとただの小さなアパートの一室だった。 何やらキーホルダーのジャラジャラ付いた鍵をジャラジャラ

【掌編小説】猫々と犬々

最近、猫をお散歩させている紳士とよくすれ違う。深いグレーの毛並みの猫は、首に赤いリボンを結び付けられ、少し太めの赤いリールで繋がれていた。 あれ、猫ってこういう犬らしいお散歩なんて嫌いじゃなかったかしら。 そう思っていたある日、猫の方から話しかけてきた。 「そんなに意外?猫だってお散歩好きなのよ。」 なるほど、と猫の顔をまじまじ見ると確かにいたって楽しそうだ。 よくよく考えてみると、猫と犬どっちが好き?なんて構図は人間が考え出したものだし、本人たちからしてみれば、猫

【ショートショート】忘レ袋

最寄り駅の近くにあるこじんまりしたガラクタ屋で、「忘レ袋」と書かれたボロボロの小さな麻袋を見つけた。なんとなく気になって、手に取ってあれこれひっくり返して見てみたが、どこにも値札がない。奥でふんぞり返って新聞を読んでいる主人に聞くと、こちらに見向きもせず、指を三本立てて見せた。 切り出した木の板をそのまま横たえたような大きな木のカウンターに千円札を三枚置くと、主人は千円だけ抜いて小銭をバラバラとカウンターに置いた。五百円玉が一枚と百円玉が二枚。どうやらさっきの三本指は三百円と

【ショートショート】神様はお客様です

私は目の前の神様を必死でとめた。 「だぁめですってば!この間も貴重な本が1冊燃えたんですよ!」 すんでのところで、背表紙を抑えると神様は「あっ」と言って手の炎を引っ込めた。 「自分から炎が出てること忘れないでください!これ言うの10回目くらいですよ!そのうち、うちの店全部燃えちゃいます...!」 涙目でそう訴えると、その神様はみるみる縮こまり、しゅんとした。 「ごめんなさい…自分から炎が出ることついついわすれちゃって...。」 この見るからに肩を落としてしゅんとし

【掌編小説】カバンの中の

カバンにいっぱい詰めたはずの夢や希望が、走れば走るほど零れ出ていってしまった。 軽くなったカバンが悲しくて、私は走るのをやめ、ゆっくり歩きながらカバンの中を見た。そこには、夢や希望の転がりでた空っぽのカプセルがあるだけだった。 私はむしゃくしゃしてカバンをひっくり返した。空っぽのカプセルはとても軽くて、四方八方に飛び出していった。 その中で一つだけ、地面に落ちて大きくはねたカプセルが目に入った。私は無意識に手を伸ばし、つかみ取っていた。そのカプセルの中に小さい青色が見え

【掌編小説】雨

雨が降ると決まって、右手の親指が痛くなる。 傷はとうの昔に消えたけれど、あの感触だけは覚えている。 初めて家に連れてきた彼女に噛みついたのを叱った日。僕に爪ひとつ立てることが無かったのに、初めて僕に噛みついた日。そして、少し開いた窓から飛び出して行った日。 そして僕が君を追いかけなかった日。 雨は好きだ。 君の僕への愛情を鮮烈に感じたあの雨の日を、僕はずっとこの痛みと共に心に抱き続けている。

【掌編小説】てんとう虫が寝てる間に

まあるい朝露をちゅるっと吸い込むと、微かに花びらが揺れた。 花の奥で休むてんとう虫がピクリと動いたのが見えて、焦って息を潜めたが直ぐに寝入ってしまった。 まだ薄暗くて涼しいこの時間の朝露が1番とろんとしていて美味しい。てんとう虫が寝ている間にこっそり飲みに来るのも、ちょっとした楽しみだったりする。

文末タイトル①

うん、いい塩梅の寝床だ。 体温より少し緩くて、うたた寝するにはぴったりの四角い寝床。 むにゃむにゃと目を擦っていると、上から覗くものがいる。見上げると、大きいのが困った顔で見つめてきた。 はて、何用だろうか。先程、存分に背中は撫でさせたが。 黙っていると、何やらにゃあにゃあ言ってきたが、この大きいのは何を言っているのかさっぱり分からない。 それよりもさっきから、寝床がブルブルしている。 うん、震える寝床っていうのもなかなか心地がいい。 ━━━━━━━━━━━━━━

【掌編小説】四角い空

花が色とりどりに咲き乱れ、草が青々と茂った場所だった。毎日誰かが手入れをしているのだろう。寝心地はとてもいい。 羽を閉じてずっと空を見上げていた。さまざまに表情を変える空。霞むほど高い壁に四角く切り取られたその空は美しいけれど、いつもたくさんの目がこちらを覗いている。飛んでいても、走り回っていても、眠っていても、何をしていても。 あぁ、あの目から開放されたい。 あの美しい空に思いっきり飛び出したい。 空はどんな感触がするのだろう。 水のようにとろとろと私を包むのだろうか

【掌編小説】きみを待つ夢

僕はパク。 ぼくは君のおじいちゃんのおじいちゃんが生まれるずっと前から生きている。 ぼくのおにいちゃんは、バクって名前。みんなが夜に見た悪夢を食べる。ちょっと涙の味がするんだって。 ぼくはおにいちゃんとちょっと違って、みんながなくしてしまった夢を食べている。 みんなの夢はどれもキラキラしていて、ふんわりしている。焼きたてのパンの匂いがしたり、焦がしキャラメルみたいな香ばしい匂いがすることもある。 もしきみが夢を思い出した時、もう一度夢を叶えたいと思った時、きみの夢は

文末タイトル②

おっ、あかりが点いた。 俺はソワソワして、こっそり辺りを見渡した。やっぱりみんなもソワソワしている。 でも、こういう時は緊張で赤くなったり、青くなったりしては行けない。 真白く、つるんと、気高くツンと。 昨日は隣のヤツが選ばれたから、今日はきっと俺に違いない。 ___ついにその時がきた。 頭の上の透明な屋根がパッカリとあき、じっと見つめられる。なんだか、黄身まで見透かされるような気分だ。 あまりの緊張にあやうく白身を飲みかけたところで、頭を掴まれた。初めて感じる