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【掌編小説】透明な時計

母が透明な時計を買ってきた。
確かにカチカチという音がするが、まるで見えない。

どうして透明な時計にしたの?

などとは聞くよしもない。母は透明な家具を集めるのが趣味で、家中が透明なのだから。

透明な壁に透明な画鋲を刺した母が、透明な時計を持ち上げて壁にかけた。ことり、と音がしてどうやら壁に上手くかかったらしい。

夕日に照らされた時計は確かにそこにあるように見える。カチカチと軽快な秒針の音が我が家に加わった。

まぁ、今が何時かは分からないんだけどね。


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