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【ショートショート】神様はお客様です

私は目の前の神様を必死でとめた。

「だぁめですってば!この間も貴重な本が1冊燃えたんですよ!」

すんでのところで、背表紙を抑えると神様は「あっ」と言って手の炎を引っ込めた。

「自分から炎が出てること忘れないでください!これ言うの10回目くらいですよ!そのうち、うちの店全部燃えちゃいます...!」

涙目でそう訴えると、その神様はみるみる縮こまり、しゅんとした。

「ごめんなさい…自分から炎が出ることついついわすれちゃって...。」

この見るからに肩を落としてしゅんとしている神様は、見た目には10歳くらいに見えるが、私の何百万倍も長いこと生きている不動明王(Jr)である。父親譲りのいかめしい顔とは裏腹に、かなり気弱な性格で、少しぽっちゃりした童子体型の憎めない神様である。

最近、と言っても1000年くらい前から、父親の不動明王による特訓を受け、炎を出せるようになったらしいが、不器用なためいっこうにコントロールが出来ないらしい。ここ何日かで、近くのお店でもボヤ騒ぎを数件起こしている。

炎が出ないようにお腹に力を入れてるであろう八の字眉毛の神様は、ぎこちない仕草で本を数冊手に取り、カウンターに持ってきた。

ごわごわした防火鞄から防火財布を取りだし、八の字眉をいっそう八の字にしながらそろそろとお金を取りだしている様子がとんでもなく面白い。私は笑いを噛み殺しながら本を受け取った。

神様が持ってきた本の題名も「仏の本懐」「不動明王の全て」「倶利伽羅剣の極意」などなど…。涙ぐましい努力が見て取れるものばかりだ。

私は大日如来先生(仏のトップオブトップ)の講演会のパンフレットをそっと袋に差し込んでおいた。

_____1万年以上続くこの店を守るためにも、一刻も早くあの神様には1人前になってもらわなければ。

丁寧にドアを閉め、深々と会釈をする神様に会釈を返しながら私は、明日から仏様関係の本の仕入れを強化しようと心に決めたのだった。




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