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【掌編小説】雨

雨が降ると決まって、右手の親指が痛くなる。

傷はとうの昔に消えたけれど、あの感触だけは覚えている。

初めて家に連れてきた彼女に噛みついたのを叱った日。僕に爪ひとつ立てることが無かったのに、初めて僕に噛みついた日。そして、少し開いた窓から飛び出して行った日。

そして僕が君を追いかけなかった日。


雨は好きだ。


君の僕への愛情を鮮烈に感じたあの雨の日を、僕はずっとこの痛みと共に心に抱き続けている。



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