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36歳芸人のとりとめのない日常32。聖夜

こんばんは、絶賛勤務中の全国のサンタクロースの皆様お疲れ様です、トゥインクル・コーポレーション所属の単独屋、ジャパネーズのウネモトモネで御座います。

61日目。

ある年のクリスマスの朝、少年はいつものように朝6時きっかりに目を覚ました。枕元に目を遣るとプレゼントの在るはずのその場所には1枚の紙切れが置いてあった。「なんだろう?」と少年はその紙切れを手に取る。そこに書かれていたのは「不在票」の文字。サンタクロースがプレゼントを届けに来た時に少年が「不在」だったから荷物を持ち帰ったという。

おかしい。少年はその夜ずっと眠っていて、一度でも起きてベッドを離れたことなんてなかったはずなのに。いや、しかし少年には心当たりがあった。確かにその夜、クリスマス・イブの夜、少年は一晩中ベッドの中に居た。けれども、少年の心の中には「どうせサンタなんて居やしないんだ。」という気持ちが在った。どうせサンタクロースなんて両親が演じているだけで、本当には存在しないのだろうと。だからきっとその時、少年の眠って居たベッドの中には「サンタを信じる気持ち」が存在しなかったのだ。だから届いた不在票。



いやぁクリスマスですね。プレゼント交換もなければ、ケーキもチキンも無い。ミックスナッツを囓りながらレモンサワーを飲んでいる殺風景な聖夜です。チキンを買うのは恥ずかしかったので、相方がくれた鶏皮チップスをローストチキン代わりにつまんだ。

日付変わって一昨日の主催ライブの疲れもあって、昨日は昼過ぎまで眠って居た。相方はピンで出演するライブの会場を勘違いしていたらしく、とても慌てた様子で家を出て行ったのをなんとなく覚えている。目を覚まして洗濯機を回す。お腹が空いたのでお米を炊く。脳内で「コメタキ・ポスト」をリピートしながら。

せっかくのクリスマスなのでくまたちにサンタ帽やトナカイカチューシャをつけてドレスアップ。(ヘッダー画像の尊いやつです。) ライブ出演を終えた相方が帰宅。くまたちを視るなり「何してんねん!」とツッコんでくる。いや、するだろ。クリスマスなんだから。「何してんねん!」じゃなくって「めっちゃ可愛いやん!」だろ。口を没収するぞ。

なんでも相方は街のイルミネーションを装飾する夜勤があるという。もしかしたら貴方が今日街で見掛けるイルミネーションが相方の設置したものかも知れませんよ。しかも26日の月曜日にはその撤去の仕事もするという。文化祭じゃないか。学園祭じゃないか。きらめく街の灯りの裏に労働者の存在。相方が夜勤に行く前にRadiotalkを収録。そして洗濯物を干す。

相方が夜勤に出発。シャワーを浴びて買い物に行く。何となくクリスマスっぽい食事をしようかとも思ったけれど、なんだか照れてしまって普通にポテサラとシュウマイを買った。

ご飯を食べながら録り溜めていたドラマを視る。「silent」、第10話と第11話(最終話)を視た。面白かったです。僕は正常(?)な恋愛感情・感覚を持っていないかも知れないので、正直そういう点ではピンと来ないところやそこまで心に刺さらない部分も多々ありましたけれど、ろう者と聴者との関わり方や「言葉」というものの面白さを沢山知れたドラマでした。スマホ依存症な僕なので結構家でドラマとかアニメ視ている時にスマホ触っちゃったりするんだけれど、このドラマはきちんと視ないといけないからそこも面白かったです。最後の方で想が「言葉が見えるようになった」みたいなのを言っていたんだけれど、それがそのままこのドラマを表現しているような気がしました。あとは「エルピス」の9話が残っているのでこの後夜更かしして視ようと思います。

今期はアニメそんなに視られていないんだけれど(結局「チェンソーマン」まだ2話で止まってる。)、「ぼっち・ざ・ろっく」が面白かった。ちょうどさっき最終回だったけれど。事務所ライブもやってるミネルヴァの向かいのライブハウスが結構メインで出てくるし、僕も大学生時代に軽音楽部でバンドやってたから色々と懐かしく想う部分も多かったし。主人公のぼっちちゃんのコミュ障を表現する演出みたいのがなんかドラッグ映像みたいで面白かった。コントではアコギばっか弾いているけれど、久しぶりにエレキギター弾きたいな。スタジオ入ってアンプに繋いでディストーションかけてジャギジャギ弾きたい。

そういえば大学時代に入っていた軽音楽部の卒業公演みたいなやつがあってさ。他の大学の軽音楽部がどうなのかはよく知らないんだけれど、うちの軽音楽部は3回生までが「現役生」扱いで4回生は「OB・OG」扱いになって、普段の部活のライブには出られなくなるんだ。で、卒業する時に4回生のOB・OGが全員かつてやっていたバンドやその時に組んだスペシャルバンドみたいなので出演して演奏を披露するの。

僕は現役時代に「愛★妄℃(あいもーど)」っていう銀杏BOYZのコピーバンド(ギターボーカル)と「逆ナンスタイル」っていうBackyard Babiesのコピーバンド(ギターボーカル)と「Gブリーズ」っていうCOCK ROACHのコピーバンド(ボーカル)をやっていて。だからそのバンドで出るのが普通なんだけれど。4回生になって現役を離れたタイミングで軽音楽部の人たちとの関わりがほぼ無くなって。疎遠になって。「卒コン一緒に出よう!」って言うのもなんか恥ずかしくって出来なくって。あれ?てかバンドメンバーだった同期たちからも声掛かんなかったな。よく考えてみると。多分僕が周りを拒絶しまくっていたからなんだけれど。

で、まぁ現役生時代に組んでいたバンドでは出られない、でも自己承認欲求は強い厄介者な僕だったのでひとりで「いい気味」という名前で出演するよう申し込んだ。そして、その為に大学の近くのスタジオをひとりで予約して入って毎日練習をしていた。僕が練習していたスタジオは本当に大学の近くにあって、AスタジオBスタジオ三角スタジオという3つの部屋があった。三角スタジオだけちょっと離れていた。名前のとおりスタジオの間取りは三角だった。その三角スタジオでギターを弾きながら銀杏BOYZを歌っていた所に軽音楽部の同期たちが「うねち~ん!」と言いながら突然入っていた。

そのスタジオには受付みたいなところに予約表が貼ってあって。そこには予約した人の名前が記載されていて。当然三角スタジオのその時間帯のところには「ウネモト」と書かれていた。そしてAスタジオかBスタジオかわかんないけれどどっちかでの練習を予約していた同期たちがその予約表を見て「お!うねちん居るやん!」となって声を掛けにきてくれたんだ。

その声を掛けてきてくれた同期たちは皆めちゃくちゃ良い奴で。僕のことを邪魔してやろうとかバカにしてやろうとか、そういう気持ちは一切なくって。ただただ「最近全然逢ってないからどうしてるんやろ?」みたいな感覚で来てくれたんだと思う。なんだったら「せっかくだしちょっと一緒に演奏して遊ぼうや!」みたいな気持ちもあったんだと思う。

けれども、その人たちが入って来た瞬間。僕はもうとにかく恥ずかしくって逃げ出したい気持ちになった。そんなシチュエーション経験したことないけれど、エロ本を見ている時に母親が部屋に入って来た、みたいな。自慰行為を人に視られたようなそんな気持ちになって、とにかくめちゃくちゃ恥ずかしくなってしまった。多分あの時、入って来た同期たちを視た僕の眼は人殺しのような感じだったと思う。そんな僕の眼を視て一瞬で同期たちも僕の心情を察したのだろう。「あ…えーっと、ゴメンな、なんか。名前あったから。その…練習頑張ってな…。」みたいな事を言い残してそそくさと出て行った。

結局僕は「いい気味」という名前でひとりで卒コンに出て銀杏BOYZの「人間」を歌った。前半エレキギターで弾き語り、後半はギターを置いてマイクだけで歌って、マイクで額ドツいて、マイク咥えて「あーあー」喚いて。峯田信者過ぎる仮初パフォーマンス。

その後の打ち上げで全然知らない後輩の女の子が声を掛けてきてくれて「先輩の銀杏、カッコよかったです。」と言ってくれた。普通の人だったらここから恋が始まったりするのかも知んないけれど、そこは安定のウネモトクオリティなので「あ、そうですか。ありがとうございます。」と言って逃げてしまった。その女の子がどんな顔していたのかもあまり覚えていない。とかなんとかそんな事を思い出した。



少年は部屋の窓を開けた。まだ少し暗さの残る冬の空。冷たい空気が流れ込んできて、暖房で少し火照っていた少年の頬を冷やした。もう鈴の音は聴こえない。おそらくもう来年からもサンタクロースはやって来ないのだろう。そういう事を繰り返して少年は自分が大人になってゆくのだろうと、何となくそう想った。「メリー・クリスマス。」少年は冬の空に向かってそう呟いた。