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【小説】ヴァルキーザ(ルビ付き版)

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小説『ヴァルキーザ』本文にルビを振った版のマガジンです。(本文の内容を少し改変しています)
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2021年10月の記事一覧

小説『ヴァルキーザ』3章(4)

小説『ヴァルキーザ』3章(4)

たそがれ時の訪れる頃、ラダロックと共に母の野辺の送りをし、葬式をすませると、グラファーンは母を偲んで草笛を吹き、数日の服喪の後、黄金の森の南東のはなれの森、アプトムに移り住んだ。

そして数年間そこに暮らしながら、グラファーンは、生活の恩人のラダロックに剣術を学んだ。魔の雲によって荒廃した世の中で生き残ってゆくため、自らの命を守り、自己をめぐる現実の障害を取り除き、人生を保つためだった。

ラダロ

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小説『ヴァルキーザ』3章(3)

小説『ヴァルキーザ』3章(3)

その日、マックリュートは急に体調が悪くなった。朝から咳が止まらず、意識は朦朧としている。彼女は直感した。もう、自分の体はもたない、と。

彼女は自分の最期の刻が近づいたのを悟ると、枕元にグラファーンを呼び寄せた。子は心配そうに母の顔をのぞき込む。目に涙をためて。

「母さん、しっかりして! いま、薬を持ってくるよ」

それを止め、マックリュートは病で盲いつつあった両眼を和らげ、やさしく微笑みながら

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小説『ヴァルキーザ』3章(2)

小説『ヴァルキーザ』3章(2)

トルダードの街に移り住んだのは、グラファーンが五才頃のことだったが、周囲の異種族スークから異端視されていたにもかかわらず、グラファーンにはスーク人の友だちが一人、できた。

それは、やはり五才の女の子で、アミリアという名前だった。アミリアはグラファーンを蔑視しないことはもちろん、いつもグラファーンにきょうだいのように親しく、優しく接してくれた。

アミリア以外のスークの子たちは、グラファーンにとっ

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小説『ヴァルキーザ』3章(1)

小説『ヴァルキーザ』3章(1)

3.トルダード

こうしてマックリュートは異種族の街トルダードの新しい家で、息子と二人きりでのわびしい生活を送ることとなった。

マックリュートは故郷の森マイオープで家庭を営んだ経験があったので、何とか自立していた。彼女は織物と編み物ができたので、糸を仕入れさえすれば、それで布を織って作り、他の人と交換して他の品物を受け取ったりした。また時には、トルダードの街の広場で開かれる市場で織り布を売り、貨

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小説『ヴァルキーザ』2章(6)

小説『ヴァルキーザ』2章(6)

アルビアスからの知らせのないまま、五年の月日が経った。何時までも黄金の森に帰ってこないアルビアスに対して、フォロス族の社会の目は次第に厳しくなっていった。人々は、アルビアスが裏切ったのだと確信した。

夫がいないために、マックリュートは幼児をかかえながら毎日、不安定な生活を送っていたが、フォロスたちの批判の矛先はついに、この不憫な母子にも向けられた。

こうしてマイオープのフォロス社会の中でアルビ

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小説『ヴァルキーザ』2章(5)

小説『ヴァルキーザ』2章(5)

それから数日後、小屋の中に拘禁されていたアルビアスを訪う者があった。フォロスの族長エリサイラーだ。
「アルビアスよ」
若く細身で、背の高い族長が告げる。

「君に指示をしに来た。君は掟に従い、殺人罪でこのマイオープから追放される」
アルビアスは覚悟したかのように目を閉じ、うなだれる。
「…ただしかし、君の長年にわたる共同体への貢献への報いとして、君に特別に、刑を赦免する機会を与えよう」

「それは

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