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小説『ヴァルキーザ』3章(1)

3.トルダード



こうしてマックリュートは異種族いしゅぞくの街トルダードの新しい家で、息子と二人きりでのわびしい生活を送ることとなった。

マックリュートは故郷の森マイオープで家庭をいとなんだ経験があったので、何とか自立していた。彼女は織物おりものみ物ができたので、糸を仕入れさえすれば、それで布を織って作り、他の人と交換して他の品物を受け取ったりした。また時には、トルダードの街の広場で開かれる市場で織り布を売り、貨幣かへいを得ることもできた。

さらにマックリュートには占術せんじゅつの才があった。その占いはよく当たったので、街のはしにある彼女の小屋へ、相談を求めに来る人が、月に十数人はいた。これもまた、一家の生計の助けとなった。

しかし、トルダードの多数者マジョリティである精霊フォノンのスーク族たちにとって、ほとんど見慣れない種族、森棲人フォロスのマックリュートと子のグラファーンに対する目はがいして冷たくきびしいものだった。母と子は、共に寄りうようにして助け合いながら、世間の荒波を乗り越えていった。

日常の様々な生活上の困難にもかかわらず、マックリュートは長時間の労働を避け、決して日の出前や日の入り後の時間には働かなかった。
森棲人フォロスに古くから伝えられてきた慣習かんしゅうよ」
母マックリュートは子に言う。
「健康にらしたいんなら、人は一日六時間を超えて働いてはならないんだよ。こんなしばりは、仕事好きの私には、ロクなもんじゃないんだけど、遠い昔に外からフォロスの村にやって来て認められた誰かがもたらしたものなんだ。だから仕方ないの」

そしてマックリュートはさらにつけ加える。
「あと、子どもが、つらい働かされ方をするのは、とくにご法度はっとなのよ」
それで母は子に、限られた家事の簡単かんたんな手伝いだけしかさせなかった。余分のことは、仕事を引退して時々、フォロスの森から家を訪れるラダロックがやってくれていた。




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