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小説『ヴァルキーザ』2章(5)

それから数日後、小屋の中に拘禁こうきんされていたアルビアスをおとなう者があった。フォロスの族長エリサイラーだ。
「アルビアスよ」
若く細身で、背の高い族長が告げる。

「君に指示をしに来た。君はおきてに従い、殺人罪でこのマイオープから追放される」
アルビアスは覚悟したかのように目を閉じ、うなだれる。
「…ただしかし、君の長年にわたる共同体への貢献への報いとして、君に特別に、刑を赦免しゃめんする機会を与えよう」

「それは…いったい、何でしょうか?」
アルビアスは問う。

「ヴァルキーザを覆い、人々に互いの不和と隷属れいぞくの感覚をもたらしているまわしき『魔の雲』の謎を解いてくれ」
エリサイラーは顔にかかる長髪を手で払った。

「そのため、この森を南下してから西の地へ向かい、さらに地の果ての北方の山々のむこうにあるという、奥地の世界を探索するのだ。魔の雲はそこから生じているようだ」

エリサイラーのつり目の瞳がきらっと光る。

「行って、魔の雲の正体をつきとめよ。マイオープの者たちの安全のために。それが出来て、報告を持って帰ることが出来たなら、アルビアスよ、私は村の長として、君の罪をゆるしてやろう」

族長エリサイラーは忠告する。

「たとえ、そこにたどり着けなかったとしても、君は必ずその旨を便たよりにしたため他の者にたくし、この森まで届けさせなければならない。
注意したまえ」

「分かりました」
アルビアスは答えた。

「必ず帰って来い!」
エリサイラーはアルビアスを励ました。

必ず使命を果して帰ってくると決意し、アルビアスは旅装りょそうをしてマイオープを発った。

だが、それから何年もの間、彼は森に戻ってくることはなく、また何の便りもよこさなかった。


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