うみ【となりで本読む人】

3年ほどレンタル活動してます。依頼は500件越え。隣で本を読んだりあなたを形作る本を読…

うみ【となりで本読む人】

3年ほどレンタル活動してます。依頼は500件越え。隣で本を読んだりあなたを形作る本を読んで会話したりできます。会話だけでも可。noteは過去の依頼や読んだ本など。

マガジン

  • レンタルフレンドエッセイ

    レンタルフレンドの活動であったシーンを写真のように切り取ります。

最近の記事

レンタルフレンドエッセイ 誘う女

「ジビエが美味しいお店あるんですよ。それで、その…」 依頼者の女性の会話のテンポが崩れる。白とベージュの淡い服の印象に違わない声がさらに淡くなる。手で自分の顔をパタパタと仰ぐ癖が出ている。 僕は少し待ち、相手を見る。 「うみさんが、嫌でなければですけど、あ、その店この近くで、」 僕は彼女の意図を理解したが、そのまま黙って待つ。 「次回、そのお店、一緒にいかがでしょうか…」 誰かを誘うのは勇気がいることだったなと思いながら、僕は今まで数多の友人が僕にそうしたように答え

    • レンタルフレンドエッセイ ライトを買う

      TikTokやインスタの動画撮影用ライトの購入に付き添ってほしいという女性。溌剌とした発声と上に伸びた姿勢に無理をしている様子はなく、自然である。 「このスマホで撮ってみてください。こっちは?おお、全然違いますね。」 置いてあるライトを片端から試していく。 「3万7000円か…んーこれ買います!」 少しだけ迷った後、聞いていた予算の倍以上のライトの購入を宣言する。 それを見た僕には、もう少し考えた方良いのではという気持ちと決断への羨望があった。

      • レンタルフレンドエッセイ 無音の時間

        「へぇ、レンタル業と演劇の、どこが似てるんですか?」 郊外の公園を散歩しながら、横を歩く依頼者に質問を投げる。 依頼者は演劇を学ぶ芸大生で、よれたフードのパーカーにデニムのスキニーを履いている。質問を受けると思案の顔も「えーと」などの繋ぎもなく、たっぷり5秒、無音を作る。 最初は怖かったその時間を、今は彼女に委ねることができる。 彼女が自身を探索する時間、僕は周囲を見渡す。 公園内の池には花菖蒲の葉が揺れている。 花が咲いたら綺麗だろうなと思った。

        • レンタルフレンドエッセイ キリスト教の牧師

          「僕は彼をゆるすと決断した。それから10年後、その出来事がどれだけ僕の人生に悪影響を与えたか、本人と話すことができた。彼の幸福を心から望む気持ちでね。」 女性が自らの言葉を通訳している最中も、彼は僕の目を優しく見て微笑んでいる。 レンタルスペースのリビングで、キリスト教の牧師の話を聞く会に参加する依頼である。海外から来た牧師の男性、通訳の女性、主催者の男性、参加者は10名ほどの空間。 少年の牧師の心に一生の傷を残しかねない、凄絶な出来事を話す間も、彼の身体はリラックスし

        レンタルフレンドエッセイ 誘う女

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        • レンタルフレンドエッセイ
          8本

        記事

          レンタルフレンドエッセイ 素朴な諦観

          「僕は他人とは分かり合えないという素朴な諦観があります。うみさんはなぜ人と積極的に関われるんですか?」 純粋な疑問の表情で依頼者の男性が言った。 セットしていない4.5cm程度の短髪。黒のウルトラライトダウン、ネイビーのトレーナーに体を締め付けない黒のパンツ。 僕より少し年上だが実年齢よりも若く見える。 「諦観を人と関わらない理由にしているのは、まだ求めていて、諦めきれてないからじゃないですか。」 自分の感想がそのまま口から出て驚く。たった2時間の会話でそれを不快に思う

          レンタルフレンドエッセイ 素朴な諦観

          レンタルフレンドエッセイ キックボクシングをする女性

          「今日暑くない?」 カフェで話し込んでいる間に日の角度は変わり、僕らの座る窓際の席に日差しが差し込んでいた。 以前からのリピーターである女性がジャケットを脱ぐと、ノースリーブから伸びる白く健康的な腕が現れる。コーヒーカップを持ち上げるたび上腕二頭筋が収縮し、肩の方へ滑らかに登っていくように見える。女性特有の丸みがありつつ筋肉のしなりもわかる。 そういえばこの人キックボクシングをやっていたなと思い出す。 今日帰ったらジムに行こうかな、と思った。

          レンタルフレンドエッセイ キックボクシングをする女性

          レンタルフレンドエッセイ「ヴィンテージが好きな理由」

          「そのトレンチ、兵隊が荷物をぶら下げるための金具が付いててね。そういう、その服に関する物語を聞くと、一点物のその服が好きになるの。」 依頼者の女性が古着(彼女曰くヴィンテージ)の話を楽しそうに続ける。 白のトップスに茶色いスカーフ、肌触りが良さそうなベージュのジャケット、明るい色のカットオフデニム。くすんだ黄色のハンドバッグ。所謂トレンドではなく、それ故にこだわりを感じる服装である。 僕が誰かの話を聞くのと同じ理由でこの人は一点物の服を見て周り、さらには身に纏っている。イ

          レンタルフレンドエッセイ「ヴィンテージが好きな理由」

          レンタルフレンドエッセイ「気を使いがちな女性」

          「今日は宜しくお願いしますね!」 本日の依頼者の女性と合流し、カフェへ向かう。 丁寧ながらよく笑い、乳白色のジャケットと落ち着いた色合いの化粧。誰が見ても好印象な依頼者である。 だが間を埋めるような会話と少し上がった肩に若干の緊張と気を遣う癖が見える。 3時間後、彼女が肩の力を抜いていられるような時間にしたいと思った。

          レンタルフレンドエッセイ「気を使いがちな女性」

          鍋に見えざる手

          鍋で米を炊いている時に、鍋が動き出した。 スルーっと遊園地のコーヒーカップのようにIHの上を回りながら滑る。 鍋には5合の米と1Lの水が入っていて重いはずなのだが、それを感じさせない軽やかな動きだった。ギョッとしたものの、すぐに原因は理解できた。IHと鍋の間に水が入っており、一部が熱で蒸発。鍋底が浮き、滑るように移動したのだろう。鍋をずらし、水分を拭き取ると案の定鍋は動かなくなった。 先ほどの鍋の動き方を思い出す。あまりに軽やかで、生物性すら覚えた。 僕が先述の対処ができ

          食材争奪戦での成長

          15年来の友人たちとの旅行の解散時、恒例のジャンケンをする。 BBQのために買った調味料や食材の余りをジャンケンで勝った人から取っていくルールだ。大学時代はお菓子やお酒が人気だったが、今回は少し様子が違った。 調味料や大容量の野菜から指名され無くなっていく。僕らは大人になったのだな、と思った。 実家に住んでいた大学時代と違い、僕たちは独り立ちして自炊をし、支出を気にしながら生きている。 自宅で切れかけている調味料を思い出すことができるし、それまで見向きもしなかったブロッコリー

          うみって何者だ?

          こんにちは。うみです。フレンタというサイト内でレンタルフレンドをして4年ほど、依頼はかれこれ500件近くになる。友達として北海道やディズニーに行ったり、依頼者の親に東京を案内したり映え写真を撮ったり。かと思えば普通の友達に話せないからと、詐欺などの犯罪や人の生き死にに関する話を聞くこともよくある。 「レンタル彼女」「レンタルなんもしない人」は有名だけど、「レンタルフレンド」はそれより定義が広い。「友達」って曖昧だから。 だからここでは自分が何ができるのかを明示したい。 「役

          誕生日を迎えた友人へのLINE

          「28歳ってさ、現実に向き合うべきかなって」 LINEを返信する手が止まる。誕生日の友人にLINEして「おめでとう。何欲しい?」と聞いた時に「100万円」と返してきた。 学生時代は「5000兆円!」だったのに、随分謙虚になったなぁと伝えると返ってきたのが冒頭の言葉。 サラリーマンの彼なら数ヶ月で稼げる額。 ボケとして成り立たないくらい現実的で。 画面越しの弱々しさと疲れに、面食らった。 100万円があっても、何も変わらない。 そんなことを伝えても、ため息のような既読が付

          誕生日を迎えた友人へのLINE

          説教オジサンにならないために

          「説教オジサンになりたいか?」と聞かれた時、なりたいと答える人はいないが巷では説教オジサンの愚痴に溢れている。 みんな説教オジサンになりたくない。ただそこにはきっと形容し難い誘惑があって、説教オジサンになっている。 少し前、トレードのことを教えてほしいという青年がいた。少し長くやっているだけで人に教えられるほどのものではないが、話を聞いているとどうやら危ない。根本的に再現性を高めていないトレードをしているようであった。トレードにおいて再現性がないことは、勝っても負けても先が

          説教オジサンにならないために

          痛みを押して体を動かしたくなるのは完治が見えないから。

           先日、趣味のボルダリング中に左肩を痛めた。週2日くらいペースでボルダリングしているのだけど、1時間くらいやっていると痛みが再発してくる。2.3日休んだ程度では完治しない程度には痛めているようだ。それに気づいてからもボルダリングし続けてしまっている。  テニスが趣味である父が足を痛めた時も今の僕と同じように痛みを押してテニスに行っていた。それを見た僕は「バカだなー、完治まで待ったほうが結局上手くなるし楽しいのに」と思っていたものだ。  今になって父の気持ちがわかる。周りの

          痛みを押して体を動かしたくなるのは完治が見えないから。

          「面白い漫才」と「ウケる漫才」の違い

          生の漫才を見た2年ぶりに見た。駆け出しの人たちで、ウケる人もいれば壮絶にスベる人もいる。漫才だけでなく観客や漫才師を見て「ウケる漫才の共通項とは?」の仮説が立ったのでnoteに書いていく。 客は笑いたい客は自分からお笑いライブに足を運んでいる。(僕は今回レンタルされる形でお金を貰っているが) つまり笑いたいのだ。芸人たちにとってライブに来ている客は敵ではなく味方と言っていい。 そんな彼らに対してスベる芸人がいるのも事実。これは客からするとつまらないというより「笑いたいのにで

          「面白い漫才」と「ウケる漫才」の違い

          人間関係を壊すコミュニケーション

          テキサスクリスチャン大学の研究によると最も人間関係を壊すコミュニケーションのとり方は「要求/撤退」のコミュニケーションらしい。 「相手の要求に対してスルーすること」 注意とか今後の方針とかに関して「はいはい」と適当に答えたり無視を決め込んだり部屋を移動して引きこもるようなのも例。 一旦この状態になると要求側は批判を強めて、撤退側はより回避を強めるというドツボにはまる。 「自分の行動が相手の感情に対してどんな影響を与えてるだろう?」と考えることが大事らしい。 アクションと

          人間関係を壊すコミュニケーション