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どうしようもなく不安なときは、そっと、身をゆだねてみよう



「それでは、出発しますね」

待っていた送迎車が、3分遅れで私の待つ停留所に到着。

普段の生活だったら気にも止まらないくらい一瞬のことなのに、あの時の3分は、とても長かったような気がします。



早く知りたい、急ぎたい、そんな思いをグッと胸の中に抑え込む私。

ゆっくりと、慎重に、3列あるシートの中で1番前の列に座りました。

広い車内で、なんでこんなにも運転席に近い位置を選んだのか、自分でもわからないです。

なんとなく、人のぬくもりが恋しかったのかな…



先週の同じ時間、向かう場所へ心を弾ませ、あふれそうな喜びをしずめるように歩いた坂道。

今日は同じ坂道を、不安でたまらない気持ちを落ち着かせるように、車の窓から見える景色をゆっくり眺めていました。



頂上にさしかかった時、車のラジオから聴こえてきたThe Beatles の名曲。


「Let it be」


うそ、この曲って、エンディング...?

まだ. 、私達は始まったばかりだよ、ね?
そうだよね?

自分の身の回りで起きる全ての出来事が、これから何かが起こることを予兆してるように感じてしまっていた私。

ラジオ独特の懐かしい雰囲気をまとったその曲を聴いて、頭の中は少し混乱してしまいました。


「Let it be」は、私の大好きな某番組でのエンディングでお馴染みの一曲です。


街でたまたま出会った人々の生き方が紹介されるノンフィクション番組。最後の締めで流れる度に、いつも胸がじーんとして、何か大切なことを学ばせてもらったように思えてなりません。


静まり返った車内で流れてきた「Let it be」は、リスナーのホールマッカートニーさんという方のリクエスト。


今、このタイミングで、この曲をリクエストしないでよ...


不安な気持ちは増す一方でしたが、なぜか、私はほんの少しだけ色々な覚悟ができました。

***



空いてる時間さえあれば、同じキーワードを入力して検索の繰り返し。

これが世に言う検索魔ってやつか。


朝の通勤電車、お昼休みの空いた時間、仕事中トイレに行った時、帰りの電車、夕飯の後、お風呂上がり、眠りにつくベッドの上で...


すぐ携帯を手にしては、自分と同じ状況の人でハッピーエンドはないかと探し続ける毎日。数少ない良い口コミを見つけては「そうだよね、私も大丈夫」と、繰り返し言い聞かせていました。



「大丈夫。きっと少しずれてるだけよ」



沢山の情報を組み合わせた結果、早々に落ち着きを取り戻した主人。心が弱った私は、彼のその言葉を信じるしかありませんでした。


こんなにも早く、願いが叶うとは思ってはいなかった。というのが率直な感想。でも実は、少し前から女の感がはたらいてなんとなく予想はしていたので、やっぱりなという思いもどこかにありました。


先週は、あんなにも喜びでいっぱいだったのに...


こんな日が続いたら、私の心臓は干しぶどうくらい、小さくてよぼよぼになってしまうのではないかと思いました。


暗く沈んだ気持ちで過ごした、1週間。

今日が待ち遠しかった。

どうか、どうか、神様お願いします...

そう強く願いながら、「マチダさん」と慣れない苗字が呼ばれる方へと足を進めました。




***



自分の目で一生懸命に追いながら、思わず涙がこぼれてしまいました。

「また、1週間後にしましょう。不安だろうけど」

先生が、そう優しく見せた笑顔。

この顔が見れる瞬間を、どれだけ願ったことか。

私は涙を流しながら声にならない感謝を一生懸命に伝え、ゆっくりとその部屋を後にしました。



「10分くらい早いけど、もう出発しますね。〇〇駅ですよね、真っ直ぐ向かいましょう」

早めに到着していた帰りの送迎車に乗り込むと、優しく声をかけてくれた運転手さん。

帰りの車内は行きと違い、ラジオも音楽も流れない、しんとした空間。穏やかなアクセスとブレーキを身体で感じるだけでした。





黒い雲と雲の隙間から、堂々と顔を出すオレンジ色の夕陽。


決意に満ちた優しい空と手に握りしめた写真を交互に見返して、行きの車とは違う新しい覚悟が生まれました。


しっかり、私。


***



「Let it be」


どうしてあの時、この曲が流れたんだろう。


そんな不思議な感覚がきっかけでした。

この曲で繰り返される、この一文。私はこれまで、なんとなく聴いていたので、その日本語としての意味を気にしたことはなかったと思います。

"そのままで"


この一文だけに目を向けたら、そんな感じでしょうか?




あの日、あの瞬間に流れたことで、私は初めて、この曲の和訳がとても気になるようになりました。

神様は私に、何を伝えたかったのか。なんて、意味のないことに意味をつけたくなったのです。


色々調べていくうちに、目に止まった日本語訳を発見したのです。

『身をゆだねなさいって』と訳されてた方の日本語。

今はただ、その流れに身をゆだねなさい
あなたは毎日頑張っているのだから、
この先幸せが待っているはず
今のままでいいんだよ


なんて、優しく寄り添った捉え方なんだろうと思いました。
英語を日本語に訳することで生まれた、温かい解釈の広がりです。



人は生きているうち、自分の力ではどうしようもない状況や試練に立ち向かわなければいけない時が来るでしょう。

運命という言葉で片付けることは、簡単そうに見えて、実際にはそんなにあっさりとはいかないものです。



今後、そんな瞬間が私に来たら『身をゆだねて』みようと思います。

その後に起こる現実を受け止められれように、心を静かに、穏やかに、時に備えて整える。



そして寂しくなったら、空を見ながら Let it be を聴いてみよう、と。




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