2022年を振り返るーアフリカビジネス、今年の重大ニュース
2022年もあとわずか。今年の重大ニュースを選びました。
【スタートアップ投資】BNPLやSHS、B2Beコマースなどが順調に調達しホットな調達環境、来年は・・・
世界でスタートアップの調達に逆風が吹き始めたなか、アフリカについては今年も引き続き調達環境はホットだった、と言ってもよいでしょう。上半期のみですでに前年の半分以上の調達額を達成し、下半期になってもシリーズCやDの調達も行われました。
今年特に資金が集まったのは、融資まわりと小売まわりのスタートアップです。BNPL(Buy Now, Pay Later)と呼ばれる割賦販売の提供はブームとなり、商品の購買に分割払いをつける信販会社のようなビジネスから、医療費や電力の購入、はたまたBtoBの企業間取引に割賦払いを取り入れるサービスも増えました。
アフリカで大型スタートアップがひしめく非電化地域での太陽光発電キット販売(SHS)は、発電キットの販売から携帯電話の割賦販売や保険などのサービス販売へと事業領域を拡大し、いままで以上に金融・融資サービスとしての性格を強めました。
太陽光発電キット販売の大手Sun Kingは2億6,000万ドルを調達し、12月にさらに7,000ドルを追加しました。BNPLへとピボットしたエジプトのMNT-Halanは1億5,000万ドルを調達しています。
小売まわりとしては、B2Beコマースと呼ばれるスタートアップに資金が集まっています。アフリカではFMCG(一般消費財)を伝統的なパパママショップで販売するための流通がとくに複雑な構造になっているため、それをデジタル化し効率化することに着目しています。この領域で事業を行うケニアのWasokoは1億2,500万ドルを調達しました。
ただし、今年後半になって、アフリカのスタートアップにおいても予定していた調達計画に影響がでており、人員のリストラもなされています。
スタートアップが同業のスタートアップなどにより買収される案件も増えました。来年は早い段階でのエグジットを迫られる企業が増加するでしょう。シードやシリーズAで調達した企業は、いままでよりも事業でのキャッシュフロー創出を求められることになりそうです。
この状況は、事業会社にとってはチャンス到来とも言えるかもしれません。これまでよりもスタートアップに出資しやすくなった上に、買収などの機会も増えるためです。
【通信】住友商事がエチオピアで通信事業開始、NTTがデータセンター開設、5G通信が5カ国で開始、イーロン・マスクのスターリンクがライセンス取得
日本企業のアフリカビジネスという観点でも大きなできごとだったのが、住友商事のエチオピアでの通信事業の開始です。住友商事がケニアの大手通信会社サファリコムといっしょに、エチオピア政府の外資開放策により行われた通信ライセンスの新規入札で勝ったのは2021年5月でした。その後エチオピアでは国内紛争が激化したため、まさにぎりぎりのタイミングでした。
通信事業のように巨額の資金が必要な事業では、競争が固定しており、新規参入者がシェアをひっくり返せることはまれです。しかし国営エチオテレコムの1社独占を崩すために行われた今回の参入は、大いに期待ができます。
エチオピアは人口1億人を超える大国で、通信事業はこれから発展する段階というのも魅力的です。
このエチオピアの入札で住友商事に敗れたのが、MTNです。MTNは南アフリカやナイジェリアなどアフリカ複数国で高いシェアを持つ、アフリカ有数の通信会社です。今年、ナイジェリアで5G通信を開始しました。
昨年開始した南アフリカに続く2カ国目で、今年はザンビアでも開始しています。他にもケニアでサファリコムが、ボツワナでOrangeが今年5G通信を開始したので、これでアフリカにおける5G開始国は5カ国となりました。
データセンターへの投資や開設が相次いだのも今年です。Googleも南アでの建設を発表済みです。NTTは10月、同社にとってアフリカ12番目となるデータセンターを開設しました。NTTは隠れたアフリカビジネスに注力する日本企業です。
通信といえば、南アフリカ出身のイーロン・マスク氏がスターリンクを開始するべく、ナイジェリアとモザンビークでライセンスを取得したのも今年でした。まだ開始はされていませんが、来年には始まるでしょうか・・・。
【脱炭素・再生可能エネルギー】COP27がエジプト開催、アフリカでのグリーン水素、グリーンアンモニアに日本の商社が注目、WasshaがシリーズCで調達し評価額93億円へ
今年、アフリカにおける脱炭素関連のビジネスの動きは非常に活発で、COP27のエジプト開催にあわせた新たな投資やプロジェクトも多く生まれました。
後半は特に、アフリカでグリーン水素・グリーンアンモニアへ投資するという発表が相次ぎました。投資が集まる南アフリカ、ナミビア、ケニア、エジプト、モロッコ、モーリタニアの6カ国は、グリーン水素の開発で協力するAfrica Green Hydrogen Allianceを発足させています。
豊田通商はブルーアンモニアの製造でエジプト企業と、伊藤忠商事はグリーンアンモニアのサプライチェーン構築で南アのSasolと、住友商事はグリーン水素・グリーンアンモニアのサプライチェーン構築でモロッコの大学と、それぞれMoUを締結しました。
ケニアは、脱炭素の潮流以前から、地熱発電が総電力供給量の約半分を占める再生可能エネルギー先進国です。これまで複数の日本企業が、地熱発電のEPCとタービンなどの供給を行っています。
今年は丸紅が受注し富士電機が蒸気タービンを供給した地熱発電所がケニアで稼働を開始しました。同じく地熱資源がある隣国エチオピアでは、三菱商事がEPCとして新たな案件を受注しました。
バイオマス発電や廃棄物リサイクル、ごみ焼却発電プラントも波が来ています。環境大手のSuezなどが新たな投資を発表しています。ごみ焼却発電プラントを手掛ける日立造船子会社Hitachi Zosen Inovaは、ケニアへの進出を発表しました。
再生可能エネルギースタートアップは、アフリカのスタートアップ投資を引っ張る存在です。代表的な企業である、住友商事が出資するM-Kopaや、三菱商事が出資するBboxx、Sun Kingらは、レイトステージの調達や買収、電動バイクや金融事業への事業の多角化を順調に進めました。
タンザニアなどで太陽光発電システムを小売店を通じてレンタルする事業を展開する日本発のスタートアップWasshaは、今年シリーズCラウンドで11億4,000万円を調達し評価額を93億円まで伸ばしました。
【ウクライナ】アフリカにとってコロナ以上のダメージ、天然ガスとワイヤーハーネス製造が数少ないプラス面
ロシアのウクライナ侵攻とその後の世界情勢が、アフリカ経済へ与えたダメージは深刻でした。金利上昇、通貨下落、インフレ、燃料や肥料、食糧の需給バランスの逼迫は、対外債務を膨張させ、人々の生活を苦しめています。
世界中で起こったのと同じことがアフリカでも起こっているわけですが、世界の均衡が崩れると、より脆弱な国が大きな影響を受けます。
経済にプラスの面があるとしたら、欧州がロシアに代わる天然ガス供給地を探すなかでのアフリカへの注目があります。もっとも熱い視線が送られているのは、すでにイタリア、スペインとの間でパイプラインを持つアルジェリアです。
次に注目されているのがナイジェリアで、ナイジェリア-ニジェール-アルジェリアと経由して欧州に輸出するパイプラインの敷設や、ナイジェリアからアフリカ15カ国を通ってモロッコから欧州に輸出するという壮大なパイプライン敷設の話が復活しました。
エジプトはさらなる天然ガスの輸出を交渉しており、モザンビークからのタンカー輸出も開始されました。セネガルも2023年からの輸出開始を発表しています。
自動車やワイヤーハーネスなどの製造も、恩恵を受けたかもしれません。とくに欧州と地理的に近いモロッコは、東欧やトルコに続く「欧州の工場」として自動車関連の製造や加工貿易を行う国として注目を浴びてきましたが、東欧の政情不安を受けてモロッコに製造を移す動きが見られます。
3月にはワイヤーハーネス世界大手の住友電工が、ウクライナ製造分をモロッコとルーマニアに移すと発表しました。同じくワイヤーハーネス世界大手の矢崎総業も、モロッコに新しい工場を新設しました。
【自動車・電気自動車】スズキの大躍進、南アの販売台数は回復、電気自動車とギグワーカー向け車両融資に投資集まる
自動車は、日本がアフリカでもっとも強い産業です。今年はスズキが大躍進を遂げており、とくに南アフリカにおける新車販売台数では、トヨタ、フォルクスワーゲンに次ぐ3位のメーカーとなっています。
月次でみて前年比70%程度の増加率が続いていおり、今年のアフリカ新車販売台数は15万台に到達するのではないかと予想しています(アフリカにおけるスズキの躍進については、南アフリカ以外の国の販売台数も含めて、週刊アフリカビジネス第612号で詳しく解説しています)。
スズキは、ブランドとしてもトヨタに匹敵する知名度を獲得しています。弊社が今年5カ国で行った「アフリカにおける日本企業ブランド調査」でも国によってはトヨタを上回っています(レポートは以下から無料でダウンロードできます)
スズキの好調な販売台数も貢献して、コロナ以降落ち込んでいた新車販売台数は、アフリカ最大の市場である南アフリカで回復しています。11カ月連続で前年比を上回り、コロナ前の水準に戻りました。
電気自動車への投資の動きも活発です。7月にはモロッコが、電気自動車用バッテリーを製造する「ギガファクトリー」建設が契約締結間近であると明かしています。これはテスラの工場ではないかと噂されています。モロッコではルノーも電気自動車の製造を決め、今後2、3年で2倍の10万台まで増えると予想されています。
アフリカにおける電気自動車の使用については、公共バスでの採用と配車アプリなどでの商業小口輸送から普及していきそうです。充電ステーションへの投資も増えてきました。豊田通商のCVCであるMobility54は、ケニアで政府向けに電気バスを組み立て販売するBasigoに出資しました。JUMIAのようなeコマースも配送に電動車両を使用することを発表しています。
車両融資スタートアップへの投資が集まったのも今年でした。Uberなどのギグワーカー向けに車両の融資を提供するナイジェリアのMooveに対して、豊田通商系ディーラーのCFAO Motorがスズキ車の供給を開始しました。スズキの小型車は、燃費がよく販売価格も安いので、配車アプリやタクシーに大人気なのです。
Mooveには三菱UFJのCVCも出資し、スズキと三菱UFJ銀行と3者でMoUを締結しています。アフリカ4カ国のみならず、MooveはインドやUAE、英国へと事業を拡大しており、英国ではUberと組んで電気自動車の取り扱いを開始します。
ナイジェリアで物流アプリを行っていたMAXは、いまでは電動バイクの組み立てと車両融資にピボットしており、MAXに投資していたヤマハ発動機が同社と提携しています。ヤマハ発動機は別途、車両リースを提供するリース会社をナイジェリアに立ち上げています。
コロナ渦において医薬品やワクチン輸送で使われたドローンは、参入企業も増え、さまざまな用途で使用されはじめました。豊田通商は、ガーナやルワンダなどで医薬品のドローン輸送を行う米Ziplineに出資していますが、今年そのアフリカでの経験を日本に輸入し、五島列島で医薬品のドローン配送を開始しています。
伊藤忠商事が出資するドイツのドローンスタートアップWingcopterも、アフリカへの投資を強めています。
【eコマース・物流】コロナを経て普及が進む、アマゾンが来年アフリカに登場、アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定が試験的に開始
コロナを経て、eコマース、オンデマンド配送、フードデリバリーといった、スマホアプリを使って購入・決済・配送を行うサービスは、アフリカにおいて確実に普及が進みました。
ただ、どちらかというと、アフリカにおいては、アマゾンのような総合eコマースよりも、出店者と購入者をつなぐ楽天のようなマーケットプレイスや、売りたい人と買いたい人が個人でやりとりするメルカリのようなクラシファイドの方が人気です。日用品になるとeコマースよりも、近隣のスーパーなどの店舗から直接配送してもらうオンデマンド配送の方が人気です。
「アフリカ版アマゾン」である最大手のeコマースJUMIAは、創業から10年が経過し、2019年にはニューヨーク証券取引所に上場しましたが、まだ黒字化していません。マーケットの黒字化へのプレッシャーは強く、今年は創業者がとうとう退任し、改革を本格化しています。
本家本元の米アマゾンは、来年、南アフリカとナイジェリアでeコマース事業を開始します。アマゾンは2017年に中東のeコマースSouqを買収したことからエジプト事業を手に入れ、2021年からはAmazon.egとリブランドしてアフリカ事業を本格化しています。アマゾンが事業を開始することで、アフリカのeコマースの最大の難点である配送・物流が改善することになるかもしれません。
物流といえば、アフリカ域内での貿易・物流を活発化するために、域内の貿易を免税にしビザなし移動を可能にする「アフリカ版EU」、アフリカ自由貿易圏(AfCFTA)協定は、その後どうなったのでしょうか。
2021年に運用が開始されたはず、だったのですが、手続きが遅れている国が10カ国ほどあり、実際にはまだ開始されていません。
しびれを切らしたAUは今年、試験的な開始を決め、10月以降、ガーナ、ケニア、ルワンダ、タンザニア、エジプト、モーリシャス、カメルーン、チュニジアの8カ国の間で免税貿易が開始されました。AfCFTA実現に向けて今年は、アフリカの異なる通貨間で決済ができる仕組みなど、貿易を開始するためのデジタル化が進められました。
物流、メーカーから小売店舗への流通、また消費者の手元に届けるeコマースといった、「物流・流通のDX化」は、まちがいなく2023年も投資が続きます。
弊社アフリカビジネスパートナーズでは、アフリカで起こるビジネスニュースを常に追いかけ、日本語で情報提供しています。日本企業のアフリカでの動きはこちらに、その他の毎週のニュースはこちらから見られるようになっています。
これらをニュースレターとして毎週発信しています。企業の方には、ニュースを日本語に要約したものに加えて、その背景や影響の解説や関連データの提供を含めた「週刊アフリカビジネス(法人版)」を提供しています。個人向けには、有料の「週刊アフリカビジネス(個人版)」と無料の「週刊アフリカビジネスヘッドラインニュース」を配信していますので、ご関心がある方は以下からお申し込みください。
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