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アフリカにおける日本企業の動き(2020年10月)

毎月、アフリカにおける日本企業の動向をまとめています。

今月は、豊田通商、住友電工、スズキ、三井物産、日本無線、トヨタ自動車、ガリバーで知られるIDOM、日立製作所が買収して設立した日立ABBパワーグリッド、三菱商事のアフリカでの動きを取り上げています。

アフリカのニュースは、たとえ日本企業のニュースであっても、日本のメディアでは取り上げられることが少ないです。記者の方に聞くと、記事を書いても東京本社で掲載する判断にならないことが多いらしい。

そもそもアフリカに関心をもっているメディア関係者は、どちらかというと紛争や貧困に関心がある方が多いので、そういった記事が中心になりがちです。関心があっても「スタートアップが面白い」というところまでなことが多いので、ガチのビジネスの情報はさらに取り上げられないことになります。

なので、現地や世界のメディアから、アフリカにおける日本企業のニュースを見つけ、毎週「週刊アフリカビジネス」というニュースレターを発行しています。あわせて、欧州中国など海外企業やアフリカ現地企業のアフリカでの新しい取り組み、次々登場するスタートアップの顔ぶれ、ベンチャーキャピタルやPEの新たな投資、また各国における法規制や関税・貿易、FTAの変更や、マクロ経済の動向をとりあげています。

アフリカビジネスに関わっていて知っていなければならないトピックスや、現地企業を含めたアフリカ関係者と話をしたり営業するときに話題についていけるためのトピックスは、ほぼ網羅しているかと思います。毎週、だいたい150~200のメディアを情報源にその10倍くらいのニュースに目を通して、最終的に20本のニュースを選んでいます。

また、ニュースそれだけをみても、それがどうして新しいことなのか、そこからどういうビジネスチャンスがあることがわかるのか、読み取るのはなかなか困難ですから、週刊アフリカビジネスでは現地のビジネス環境や背景にある経緯などについて、解説をあわせてお知らせしています。

社内にアフリカビジネスを説得するために使われる場合も多いです。法人で購読して、社内関係者にも配布することで、アフリカのビジネスチャンスに気づいてもらおうという作戦です。

購読は、法人単位と個人が可能です。購読の方法や、どのような企業が購読しているのかについては、こちらからご覧ください。


前置きが長くなりましたが、以下が10月における日本企業の動きです。「週刊アフリカビジネス」でとりあげたものから、抜粋してお知らせします。

全部を知りたい方は、こちらをご覧ください。

まずは、豊田通商による、モバイル・モビリティーへの投資のニュース2本です。

【ウガンダ】豊田通商がアフリカのスタートアップ向け投資会社Mobility 54を通じてウガンダの二輪車リースTugendeへリードインベスターとして出資(10/5)

豊田通商は、モビリティー関連のスタートアップ向け投資などを行う投資会社Mobility 54を通じて、二輪車へのリースを行うウガンダのTugendeに400万ドルを出資した。出資ラウンドはシリーズAで、Mobility 54をリードインベスターとしてあわせて630万ドルが出資された。

Tugendeは2012年にウガンダで設立。バイクタクシーのドライバーに対してバイクを所有権移転ファイナンスリースにて提供している。あわせて安全運転トレーニングや金融リテラシー教育、医療保険、生命保険、ヘルメットなどの安全装備をパッケージとして提供する。2万2,000人を超える顧客を持ち、ウガンダに17カ所、ケニアに1カ所の支店を持つ。

今回の調達資金を活用し、バイク向け融資を拡大するとともに、電動二輪車の展開や、小売店や農業向けといったバイクドライバー以外への融資の開始といった多様化を促進する。他国展開についても進める構え。

【ケニア】豊田通商がバス事業者向け運行管理システムを提供するData Integrated Limitedへ投資(10/20)

豊田通商は、アフリカのモビリティ事業に特化した投資会社Mobility54を通じて、ケニアでバス事業者向け運行管理システムを開発、提供するData Integrated Limitedへ投資した。

Data Integrated Limitedはナイロビを中心に、バス組合に対して運行管理システム、発券システムを提供している。加えて、コロナウイルス感染拡大後における交通機関のキャッシュレス化に伴い、一般乗客向けのバス検索、予約、決済アプリの配信を開始した。

(コメント)豊田通商は2012年にフランスのCFAOを買収し、現在ではアフリカにおける事業はフランスから直轄しています。CFAOはもともとは西や中央アフリカの仏語圏に強い自動車や医薬品などの商社でした。このCFAOを得て、豊田通商はいまではアフリカ全土で、トヨタ、日野、ヤマハ発動機、スズキといった乗用車の販売や、スーパーなど流通事業、製造業など、多様な事業に取り組んでいます。

さらには、スタートアップ投資も活発化させています。2017年にはケニアの物流スタートアップSendyに、2018年にはルワンダ、ガーナで医療品物流を行う米Ziplineおよびケニアで太陽光発電ミニグリッド事業を行う米Powerhiveに出資しています。

そして2019年には、アフリカのモビリティスタートアップに投融資するベンチャーキャピタルMobility 54(54はアフリカの国数)をフランスに設立しました。コーポレートベンチャーキャピタルを作ることで、ビークルを通じて移動や乗用車に関するアフリカのスタートアップに積極的に投資していくとう姿勢です。

今回とりあげた2つのニュースも、どちらもそのMobility 54からの出資です。前者はバイクタクシーに使われるバイクへの融資を行うスタートアップへの投資。「所有権移転ファイナンスリース」と書かれていますが、平たくいうと割賦販売で、バイクを使ったタクシー事業をしている人にバイクを販売し、事業の売上から毎月一定額を返してもらうというものです。支払いが終わると、所有権は支払いを行った側に移ります。

四輪車に対しては、アフリカでも一部の国においてはすでに、Uberやタクシーのような事業用途でも、個人用途であっても、ローンがつきやすくなっています。特にGPSによる遠隔停止システムが普及してからは、銀行が普通に出すようになりました。返済が滞ったら、遠隔でエンジンを止めて使えないようにし、車を回収すればよく、それを中古車オークションで販売することで資金の回収ができるからです。

一方で、バイクに対する融資はまださかんでないため、現金一括払いで買う人が多いです。売られている1台の価格はざっくりいうと6万円~13万円程度でしょうか。

アフリカではアジアと違い、自家用にバイクを買う人は少なく、ほぼ、タクシーや宅配などの商売用として購入します。自分で買えない人はバイクを所有している人に毎日レンタル料を払いながら商売をします。

今回の豊田通商の投資先は、そういったバイクオーナーに融資を提供するものです。まとまった金額がない人も事業を始めることができ、収入を増やすことができます。保険の提供や運転トレーニングなどのサービスも提供しています。

バイクを使ったサービスは、コロナを経て、幅が広がり市場が拡大しました。今後同様のバイクに融資をつけるサービスは、アフリカの他の国でも広がり、参入する企業も増えていくと思います。


【エジプト】住友電工が10億エジプトポンドを投じてエジプトにワイヤーハーネス工場を追加新設(10/6)

住友電工グループが、エジプトの10th of Ramadan Cityの貿易自由特区に新たな工場を開設する。10億エジプトポンド(67億円)を投じて、自動車用ワイヤーハーネスや電線を欧州に輸出する工場を追加する。2020年12月中に開設する予定。

同社はエジプトで、Port Saidや6th of October cityに複数の工場を持ち、これまで総額80億エジプトポンド(530億円)を超える投資を行っている。

エジプト投資・フリーゾーン庁(General Authority for Investment and Free Zones、GAFI)は、エジプトをグローバルサプライチェーンの戦略的拠点とするために、企業に対して支援を行うという姿勢を示している。住友電工グループに対しても、事業拡大を促すべく、施設やインセンティブの提供を行うとしている。
※1エジプトポンド=6.7円(モーニングスター、10/7)

(コメント)自動車に用いられるワイヤーハーネスは、労働集約型製造業であり、アフリカにおいては縫製などと並んで輸出できる軽工業としてさかんです。日本のワイヤーハーネス世界大手である、住友電工(住友電装)、矢崎総業、フジクラとも、アフリカ複数国に複数の工場を持って製造し、国内や欧州の自動車メーカー工場に供給しています。

それぞれがどこに工場をもっているか、日本の自動車メーカーはどこに工場があるかは、以下からご覧ください。

次の2つは、そのアフリカで自動車の販売を行っている日本企業のニュースです。


【南アフリカ】コロナ禍で新車販売が落ち込むなか、スズキが南アフリカで過去最高の月間販売台数を達成(10/8)

スズキの南アフリカ販売子会社Suzuki Auto South Africaが、9月に1,787台を販売して過去最高の販売台数を記録した。

販売台数はSUV、商用車の合計。コロナウイルスの感染拡大により国内経済がダメージを受ける中で、2月の販売台数1,696台を超えた。南アフリカにおける国内販売ランキングで6位に躍進し、乗用車市場シェアは史上最高の7.46%となった。コロナ禍で消費者の購買意欲が鈍り、新車販売市場全体が前年9月対比で23.9%の売上減となるなかでの販売増となる。

スズキによれば、9月の販売台数にはレンタカー会社による320台の購入が含まれ、その他はほぼ全てディーラーを通して販売された。レンタカー会社にとって故障や不具合は時間的に修理ができず顧客からのクレームにつながるため、スズキの車両品質の高さが評価されているのだという。

現在、同社で最も人気のある車種はエスプレッソとスイフトで、9月はエスプレッソが538台売れ首位で、次にスイフトの533台が続いた。

【南アフリカ】トヨタ自動車の南アフリカにおける中古車販売台数がコロナ前の水準まで回復(10/21)

トヨタ自動車の南アフリカ子会社Toyota South Africa Motors(TSAM)は、コロナウイルス感染拡大を受けて、新車の販売は年内は低調に推移するものの、中古車の販売はすでにコロナウイルス発生以前の状況に戻ったという見方を示した。

TSMAの中古車事業であるAutomarkの販売台数は、コロナウイルス感染拡大以前の1月と2月にはそれぞれ4,506台、4,131台だった。ロックダウンが最も厳しかった4月は46台、5月は1,322台に減少したものの、7月以降回復し始め、7月4,491台、8月4,376台、9月4,617台と推移している。9月の販売台数の約72%はトヨタ車で、残りの28%は他のブランドだった。

同社は、南アフリカの経済環境は依然として厳しく、買い替えを検討していた顧客が購入を遅らせるなどすると予想している。一方でコロナウイルスが直ちに終息することはないことから、感染するリスクを最小限に抑えるために公共交通機関の利用を避け、自動車を所有することに目を向けようとする消費者が存在しており、その点で中古車は現在経済環境下で最も魅力的な選択肢と考えられるとしている。

(コメント)どちらも南アでのニュースですね。コロナによって南アの経済も影響を受けていますが、スズキの南ア子会社が同社において過去最高となる売上を記録したとしています。また、トヨタ・豊田通商はアフリカにおいては新車のみならず中古車販売も行っていますが、南アの中古車の販売が好調だったとのことです。


【アンゴラ】日立製作所がABBのパワーグリッド事業を買収して設立した日立ABBパワーグリッドが、アンゴラで太陽光発電向け送配電システムを受注(10/26)

日立製作所と重電大手ABBの合弁で2020年に発足した新会社日立ABBパワーグリッドが、アンゴラにおいて、太陽光発電を送電網に接続するための主要送配電システムを供給する。

ポルトガルのEPCであるMCA Group傘下M.Couto Alvesから受注したと明らかにした。MCAは米国の再生可能エネルギーSun Africaと太陽光発電事業を行っている。日立ABBパワーグリッドによると、この太陽光発電プロジェクトは、サブサハラアフリカ最大のものだという。

(コメント)今年、日立製作所がABBのパワーグリッド部門の買収を完了したニュースは日本でも多く報じられましたが、そのABBパワーグリッドがアンゴラで送配電システムを受注したというニュースです。ABBはアフリカに製造拠点も持ち、政府入札にも強い、アフリカ百年企業ですから、日立の今後が期待できますね。

日立製作所によるABB買収については、こちらでとりあげており、週刊アフリカビジネス505号では日立による今後のアフリカ事業に与える影響について、解説しています。

ちなみに、この記事のサムネイルの写真は、このニュースにちなんでアンゴラの首都ルアンダの景色です。ルアンダは、ポルトガル文化も混じり、フォトジェニックな街です。ルアンダは海に面しており、新鮮な魚介が手に入ります。

いやーおいしそうですね。アンゴラのスーパーで撮った写真です。

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【トーゴ】三菱商事が出資するSHSサービスBBOXXと仏有料テレビCanal +がトーゴで提携し、有料TVを家庭用太陽光発電キットとともに提供へ(10/29)

仏有料テレビのCanal +のトーゴ子会社と、SHS(家庭用太陽光発電キット割賦販売サービス)のBBOXXは、トーゴの首都ロメで新たに「Home Premium By Canal +」の提供を開始した。BBOXXを通じて、Canal +のコンテンツを提供する。

アフリカ内外160局のテレビとラジオチャンネルをアップグレードプランとして提供する。このプランでは、バッテリーとソーラーパネルに加えて、5つのランプ、ラジオ、電灯、24インチのプラズマテレビが含まれ、一括現金払いの場合は364,125CFAフラン(69,000万円)、36カ月割賦支払いの場合は420,375CFAフラン(79,000万円)となる。
※1CFAフラン=0.19円(モーニングスター、11/1)

(コメント)日本企業も多く出資している、アフリカにおける太陽光発電キットの割賦販売。SHS(Solar Home System)と呼ばれる、非電化の家庭に対して、太陽光発電パネルと蓄電装置に、電灯やラジオなど電力を使う道具をつけたキットを、割賦で販売するものです。電線を通じて電気を得られなくても、太陽光で自宅で発電すれば電気が使えます。

この記事の1本目にとりあげた豊田通商のバイクも割賦販売でしたが、最初に大きな金額を用意しづらくとも、毎月少しずつ払うことができる人はいます。資金的リスクを供給側がとることで、製品を普及させようというのが、割賦販売モデルを企業が採用する理由です。

企業側は、金利の高いアフリカで融資を提供しているなかから、デフォルト率も含んだ上で利益を出していかなければなりません。よって、優良な顧客に、長期に渡って、上乗せしながら費用を払ってもらうことを目指します。たとえばラジオに加えてテレビや扇風機などを追加で購入してもらうなどするのが一般的ですが、今回のニュースは有料テレビ会社と組んで、テレビとテレビコンテンツを上乗せするものです。

割賦販売ではおおむね回収期間を1年から1年半で設定していて、家電ならば上乗せしてもそれを払い終わると支払いが終了してしまいますが、コンテンツならば永遠に支払いを続けてもらうことができます。

太陽光もバイクも、昨今アフリカでもよく見られるようになった割賦販売/リース型のサービスは、その収益構造はSaaSサービスと似ています。優良顧客との関係を長く続け、顧客のライフサイクルにおける利益であるLTV(Life Time Value)を上げていくことが求められます。


これまでのアフリカにおける日本企業の動きについては、こちらからご覧ください。毎月まとめています。

アフリカビジネスに関するさまざまなご質問、アフリカで事業を行っている日本企業の事業事例や事業展開のノウハウなどについては、以下でお答えしています。


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